第54話 見学
アーモンドアイの港は物々しい雰囲気で衛兵や探索者だけでなく、工事関係者らしき人も集まっていた。
聞くと港の内側に防衛網を築くのだそうで、その証拠に沢山の木材が積み上がっている。元々ある設備ももちろん利用し、見張り台の代わりに灯台に足場を作って代用するとか、そういった改装を行うのだそうだ。
皆が一様に街を守りたいという一心で、探索者までも工事に積極的に協力している。
彼らの尊い想いに感動する一方で、冷めた自分がいることも自覚して情けない気持ちになった。
俺は街に住んでないから、ということもあるだろう。しかし、根本にあるのはまだまだこの世界が俺にとってゲーム感覚というのが捨てきれないってのが、最も大きな要因だと思う。
何だか急に孤独感にさいなまれ、いたたまれなくなった俺は港から離れ、釣り大会時に陣取った岩場へと移動した。
アーニーもとぼとぼ歩く俺の横をてくてくとついてくる。
岩場に座りぼーっと波を眺めるも、モンスターの姿は見えない。いつもと変わらぬ平和な海そのものだ。実はウリドラなんて噂だけで実際にはいないのだろうと錯覚してしまうほどに。
「てんちょう、ウリドラ、見えませんね」
「んだなー」
「もう移動しちゃったんじゃないですか? どこに行ったか見に行きませんか?」
「見に行く……おし、そうしよう! そんで発見したら報告しようぜ」
後ろ暗い気持ちと孤独感を完全に捨て切ることはできないだろう。ならばせめて何かしら役に立とう。きっかけを与えてくれたアーニーに感謝。
トド2号に乗り、沖へと繰り出す俺たち。
「よおし、いいぞお。そのまままっすぐだ」
「なかなか速いですー」
「うぉうぉうぉ」
褒められたのが嬉しいのかトド2号は不気味に鳴き、速度を上げる。
さあて、竜神ウリドラはどこにいるのかな? 既に街から数キロ離れているが、竜神の姿は見えない。
「アーニー、マップにも何も映ってないかな?」
「はいい。何も見えません」
「ん、いや待てよ。ウリドラがどんな生物なのかを考えれば、動きも見えてくるかもしれない」
「私、ウリドラどころかリヴァイアサンをペットにしたこともありません」
だから、分からないでえす。と言いたいのだろうけど、俺もリヴァイアサンをペットにしたことなんてないわよ。
ウリドラはリヴァイアサンの強化固体。翼が生えていることから亜種と呼んでもいいかも。
元となったリヴァイアサンは深い海の中で暮らしている。巨体の割に泳ぐ速度が速く、遊泳魚の平均より余裕で速い。
無尽蔵の体力を持ち、一日に数百キロ移動することも。
って、モンスターの解説(設定資料集)に書いていた。ウリドラは海を縦横無尽に動き回るリヴァイアサンの強化固体なので、リヴァイアサン以上に活発に動き回ることができるはず。加えて、空も飛べるのだ。
そこから導き出される答えは、行動範囲がとてつもなく広い、ということ。何でここまで活発に動き回るのか、に対するハッキリとした答えは持ち合わせていないが、生きるために必要なことであることは確か。餌なのか魔力なのか、何かしらのエネルギーを得ている説が有力なんじゃないかな。もしくは体に取り込んだものを効率的にエネルギーに変えるために動く? うーん、こちらは考え辛い。
「ウリドラって人間並みの知能を備えているのかな?」
「う、うーん。人間並みなら、お話が通じたりするから気にされているんですか?」
「いや、そうじゃない。どっちにしろ同じ答えに辿り着くか」
「てんちょお、何か浮かんだんですか!?」
単なる思い付きだが、可能性は低くないんじゃないかな。
「容疑者は現場に戻る、だぜ」
「よ、よく分からないです」
「……すまん、言ってみたかっただけなんだ。一つ思い出したんだ。ウリドラってさ、封印されていた洞穴の中って狭いじゃないか」
「はい、あ!」
どうやらアーニーも察しがついた模様。
リヴァイアサンは広範囲を動き回る。理由はエネルギー確保のため。ウリドラはより強力なモンスターだから、リヴァイアサンより多くのエネルギーが必要になるはず。ところが、ウリドラはあの狭い空間に封印されたまま弱ることなく生き続けていたのだ。
「そう、結局、楽に腹が膨れる元いた滝の裏に戻るはずだ」
「動き回るより楽ですものね! 今は外に出られたからお散歩してるのかもです」
「刺激したら大破壊なんてこともあるかも」
「何事もないことを祈ります」
遊び半分で街を破壊したり、といった可能性が低くはない。襲うと痛い目にあう、と分からせられれば今後も安心なのだけど……。
残念ながら、騎士団が束になってかかっても敵わないときた。以前ウロボロスが来襲した時と騎士団が同じ強さならば、だけどね。
「以前と比べて探索者や騎士のレベルは上がっているのかな?」
「いえー、余り変わっていないです。てんちょおがいた頃とは比べようもないですー」
確認のためにアーニーへ聞いてみたけど、やはりと言った感じだった。
「やっぱそうかあ」
「ゲートを使える人がもっと多ければ、素早く避難できそうです」
探索者ほぼ全員がゲートを使うことができたら、魔物がきたぞお、で一時避難し、また戻る、が安全にできそうだ。
ないものねだりしても仕方がないので、ウリドラに関する俺の予測を確かめてから、ハミルトンに伝えよう。
いずれ滝の裏に戻るなら、攻勢に出ずじっと守りに徹するとか、避難場所を作るとか、防御に特化すれば犠牲者の数を相当数減らすことができるはず。
ウリドラとしても一つの場所にとどまり続けることができないのだから、耐え忍ぶ時間も今の想定よりかなり短くなる。
「よし、次の行き先が決まった!」
「水中神殿のダンジョンですね」
「おう」
「ゲートを出しますー」
「まずはホームにゲートで頼む」
「はいー。トドさんを預けるんですね」
んだんだ。このままトド2号をダンジョンへ連れていけないからね。鳥系のペットとチェンジするべ。
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