第46話 グレートカルデラ湖
ふう、食った食った。イモムシの串焼きとやらも食べた気がするが、気のせいに違いない。
あれは草食爬虫類に違いない。
「てんちょお、これも食べますか?」
「もう一本くらいなら食べられるかな、これは?」
「草食竜の甘辛焼きですって」
「へえ……」
草食竜はさっき食べたんだけどなあ。あれ、味が違う。鶏肉でもなく、豚肉でもないあっさりとしつつもジューシーな肉だ。
「イモムシさんもおいしいですけど、草食竜もおいしいですね」
「あ、うん」
さっき食べたのは草食爬虫類であって、決してイモムシではない。俺が今食べている肉は草食竜……草食竜と草食爬虫類は同じ生物を指す。
「イモムシなんてなかった、なかったんだ」
「さっき食べたじゃないですかー」
またまたあ、とばかりにアーニーにパンパンと背中を叩かれるも、ブンブンと首を左右に振る俺である。
いい加減、イモムシネタを引っ張り過ぎだろ。アーニーは何故にここまでイモムシ大好きなのか一度腹を割って話してみる必要がありそうだ。
◇◇◇
翌日、ルンドルフ近郊に転移した俺たちはグレートカルデラ湖を目指して進み始める。
「移動するときの定番はフェンリルか影竜なんだけど、俺じゃあ扱えないからこいつで」
「スピードは変わらないんですよね?」
「うん、こんな見た目でも速いぞ」
「可愛いです」
おっきい犬のフェンリル、騎乗できるドラゴンの影竜はどちらも高いスキル熟練度が必要になるんだ。
どちらも戦闘能力と索敵能力があるから戦闘職のお供として人気がある。どちらも厩舎にいるのだけど、ペペぺでは熟練度が足りず扱うことができないんだよね。俺の手持ちキャラクターの中で魔物使いスキルの熟練度が高いのは魔法使いのシュークリームのみ。彼女が使用できない限り、どちらのペットも厩舎の肥しになってもらう以外にないのが辛い。
そんな俺(ぺぺぺ)が選んだのは騎乗用のヤギである。騎乗できるだけに馬ほどの大きさがあって、最大二人まで乗ることができるのだ。
えっちらおっちらと俺、アーニーの順でヤギに乗り、ペシペシとヤギの首元を叩く。
「めえええ」
やる気まんまんの鳴き声と共に、ヤギが走り始める。
道なき道を進み、モンスターに遭遇することもなく日没を迎えた。ここで拠点登録を行い、ホームに戻り、翌日も朝日が昇る頃出発して、グレートカルデラ湖を目指す。世界地図を確認したところ、本日日没ごろにはグレートカルデラ湖がある山の麓までは到着できそうだ。道中トラブルがなければ、だけどね。
「地図によるとあの山だな」
「思ったより高い山ですね」
「だなあ、それでも明日中にはグレートカルデラ湖まで到着できそう」
「ヤギさん、明日もお願いします!」
心配も杞憂に終わり、無事にグレートカルデラ湖のある山の麓まで到着した。ここまで来たら、あと少し。
結局、特にトラブルなくグレートカルデラ湖まで辿り着いたのであった。
◇◇◇
グレートカルデラ湖は広い、ただひたすらに広い。ゲーム時代に行ったことがあったので広さは分かっていたのだが、こうしてグレートカルデラ湖をじっくり眺めることなんてなかったからなあ。よく行く場所に拠点登録して、そこでやりたいことだけやって転移する、という感じで来ていたんだよね。
ゲームあるあるだけど、そういった行き方だったからグレートカルデラ湖全体を見ようとするなんてことはなかった。
といっても、じっくり見たからといってグレートカルデラ湖全体を見通せるわけはなく……何しろ琵琶湖ほどの広さがあるんだもの。
「グレートカルデラ湖で釣りは何を狙うんですか?」
「淡水真珠だよ」
「針に真珠がひっかかるんですか!?」
「不思議なことにそうなんだ」
真珠といえば、貝の中ってのが世の常識なのだが、アナザーワールドでは異なる。いや、貝の中に真珠があるケースもありそうだけど、グレートカルデラ湖の釣りはそんな常識が通用しないのだ。今更、釣りスキルの謎仕様に突っ込む気もないけど、アーニーの言う通りどうやって真珠が針に引っかかってんだろうな。
他にも家具のパーツになる天秤もグレートカルデラ湖の固有釣りアイテムだった記憶だ。
グレートカルデラ湖を見つめたままの俺に対し、アーニーが犬耳をペタンとさせ不思議そうに尋ねてきた。
「釣りをしないんですか?」
「拠点登録したから、釣りはハミルトンの依頼の後でいいかなって。依頼はなるだけ急ぎだったよな、確か」
「はいー、このまま潜りますか?」
「いやいや、闇雲に潜っても水中神殿にたどり着けないよ。まずは水中神殿の真上まで移動しなきゃ」
幸い世界地図があるので、水中神殿の位置は分かる。
「さっそく行きたいところだけど、ペットの入れ替えをするよ」
ヤギじゃあ水の上を進むことはできない。なので、一旦ホームに戻ってヤギを厩舎にしまい込み、大きな亀とチェンジした。
亀なら三人まで乗せて水上を進むことができるからね。
亀は狩りに向いておらず、いわゆるネタペットの一つなのだけど、亀の上でのんびり釣り糸を垂らすってのは絵になるだろ?
それで、亀をペットにして厩舎に保管していたというわけなのだ。
「この子、湖でも進めるんですね」
「うん、見た目からして陸上用に見えるんだけど、船のように水上を進むことができるんだ」
アーニーの懸念はもっともである。亀の見た目はリクガメそのものなのだもの。この亀はインドホシガメをイメージしてデザインされており、放射状の模様が美しい。サイズはインドホシガメなんて目じゃないくらい大きいのだけどね。
再びグレートカルデラ湖へ。俺たち二人を乗せた亀がのそのそと岸から湖に入り、甲羅が浮かんだまま水上を進む。
「わあ、すごいですね」
「だろ、あ、アーニー、俯瞰マップを見ていて欲しい」
「もう見てます! 何かいたらお知らせしますね」
「助かる」
出航だー。索敵はアーニー任せ、俺は……世界地図を眺めつつ亀に指示を出すだけの簡単なお仕事である。
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