第27話 タコ

 今回目をつけたのはフルーツである。いやあ、甘いものもいいなあと思いつつ、露店を巡っていてもケーキやクッキーが置いているわけじゃなかったから果物にしたんだよ。果実ジュースを楽しんでいたら、その場ですりつぶしてくれる露店もあって、ついつい飲み過ぎてしまった。

 船員の皆さんにもお土産だ、とレモネードのピッチャー売りもあったので買って戻ってきたのだ。ビールを樽ごとの方が喜ばれそうだけど、持って行ったらその場で飲み始めそうだからさ控えることにした。さすがにお仕事中に飲むと仕事に支障をきたしそうだから。

「お、ちょうど出発するところだ。乗れ乗れ」

 ドワーフ船長にちょいちょいと手招きされ乗船する。

 さあ、いよいよ船旅に出発だ。

 あっという間にサーペントロードを釣り上げた地点を通過し、大海原に乗り出した。

 岸沿いを航行するのかと思いきや、既に陸地は見えない。

「二番帆をあげろお」

 船員の号令に対し、帆柱から伸びるローブを掴み引っ張り始める船員たち。

 よおっし、俺も手伝うぜ。

「よいっせ、おいっせ」

 声に合わせてロープを引くと二番帆の帆が張られ風を拾ってパンと張る。

「兄ちゃんは休んでていいんだぜ」

「いやいや、乗せてもらっているから」

 手伝えることは手伝いたいと言いつつ、実は帆を張るのが楽しかった。自分で船を動かす立場なら気が気じゃないんだろうけどさ。

 船の作業もひと段落したようなので、さっそく釣りをさせてもらうとしよう。

「アーニーは船室に行っとく?」

「いえ、てんちょおの釣りをお手伝いしたいです!」

「だったらアーニーも釣り糸を垂らそうぜ」

「はいー」

 仕掛けなんて要らないんだよね、この世界の釣りはさ。アーニーは釣りスキルを持っていないような気がするけど、スキル無しでも何かしら釣れるかもしれない。

「そんじゃあ、一発目行ってみるか、ほい、アーニーはこっち」

 彼女には予備の釣り竿を手渡す。色はオレンジである。

 甲板に彼女と並んで立って、釣り具を振り、ぽちゃんと着水、浮がぷかぷかと海面を漂う。

 着水から1分も立たないうちにビビビと腕に何かが引っかかった合図がくる。さすがの釣りスキルだ。

 バシャアア。

 記念すべき一発目はヤリイカだった。墨が墨がああ。

「兄ちゃん、もう釣れたのか、こいつを使いな」

 ヤリイカと格闘していた俺に気が付いた船員がバケツを寄越してくれた。ありがたくバケツを借りて、ヤリイカをそこへ放り投げる。

 どんどん行こう。

「あ、てんちょお、わたし、もっとバケツを借りてきます!」

「アーニーの釣り竿は……っと」

 アーニーの釣り竿と自分の釣り竿を左右に持ち、ポツンと残された。

 お、俺が持つとだな、アーニーの釣り竿にも釣りスキルの効果が付与されて……左右両方ビビビと何かが食いついた合図がきたああ。

「アーニー、ってもういねえ」

 ち、ちいい。左はまだ放置していてもよさそう。右はもう引き揚げろと感覚に訴えてきている。

「てんちょお! あ、引いてるじゃないですか」

「こっちを頼む。たぶん、無生物だ」

 戻ったアーニーに左の釣り竿を渡し、急ぎ右の釣り竿を引っ張り上げた。

 今度は青みがかった鱗と黒の縞々でお馴染みのサバだ。サイズは30センチと少しといったところ。

 一方、アーニーに引き上げてもらった方は銅像の欠片? だった。

「これ、どの部分なんでしょうかね」

「う、うーん、足首の上あたり? 人間を模したものじゃなさそうだけど」

「他のパーツも釣り上げることができれば楽しそうです!」

「こういったパーツってどうなってるんだろうなあ、離れた場所で似たようなパーツを釣り上げることができるし」

 不思議すぎる事象なのだが、釣りスキルはそういうものなのだと納得するしかないのだ。

 どこでもパーツを釣り上げることができる方がありがたいし。

「お、おっと、早く釣り上げないと!」

 アーニーの引き上げたパーツに気を取られ、自分の釣り竿がおろそかになっているではないか。

 急ぎ釣り上げたのは小型のサメだった。愛嬌のある顔をしており、たしかネコザメって名前だったと思う。  

 この後、30-40分釣りを続けたら、借りてきた追加のバケツ三つを含め魚でいっぱいになった。

 これでも食べてもおいしくなさそうな魚は海に戻したんだけどね。

 

 ◇◇◇

 

 二日目。

 昨日はちょっと釣り過ぎたようで、船員全員で焼いて食べたのだけど余っちゃったんだよな。

 二日目の今日も釣りはするが、魚を選別しようと思う。釣り過ぎた分はリリースするのだ。

「おーい、しばらく釣りを中断してくれー」

「りょーかいっす」

 船員に声をかけられ、釣りをする手を止める。

 隣にいるアーニーが何かに気が付いたようだ。

「てんちょお、暗礁地帯に入るからじゃないですかね」

「なるほど、引っかかって釣り竿を落とすかもしれないものな」

 アーニーの指さす方を見ると、岩の先端が波から見え隠れしている。波の様子からあの辺りの水深は50センチもなさそうだ。

 ぼーっと暗礁地帯を眺めていたら、唐突に波しぶきがあがる。

 ドサアアアア。

 海から姿を現したのは人間の胴体ほどの太さがあるタコの足だった。こいつはモンスター確定だな……。

 こんな大きな足のタコなんていないもの。驚くことにイカなら通常生物でも存在する。あくまでゲーム世界にいた、と注釈がつくがね。

「大きく舵を切るぞ! この海域から脱出する!」

 ドワーフの船長の大声が耳に届く。

 あのタコ足をみたらそらそうなるわな。全身が見えていないから確信はもてないけど、釣りスキルで対処できる可能性もある。

 ここは暗礁地帯だ。急いで舵を切り、船底に穴でも開いたらモンスターから逃げた意味がなくなってしまう。

「ゴルゴスさん! ちょっと海に出ます! しばらく引き付けますので慎重に船を動かして大丈夫です!」

「おいおい、命あってのモノだねだぜ。いかなお前さんが――」

 声を張り上げると何やらドワーフの船長ゴルゴスからの声が返ってきているが、急がなきゃ対処しきれなくなる。

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