第24話 生き返るわあ

 釣り大会の会場である残橋に向かっているけど、釣り大会の賞金っていくらだっけ。

 たしか、1万ジェムとかその辺だったような。130万の大金を得て釣り大会の賞金まで得る必要があるのかと疑問に思うも、二つの理由から続けることを決めた。 一つは単純な理由で、参加したからにはやりきるべきだと思い直したからだ。もう一つは知名度だよ。さっき有名になりたくないとか言ってたじゃないかって? それは少し違う。知名度……俺個人か店が有名になることは歓迎すべきことなんだ。俺はこの世界でも自分の店を経営していくつもりである。

 店に客を呼び込むには宣伝が必要だろ。だから俺個人や店の宣伝になることには関わっていきたい。先ほどアーニーに難色を示したのは、俺の本業じゃないところでこの世界のことも余り分からぬまま知名度があがったら、厄介事だけが舞い込むんじゃないかって思ったんだよ。しかし、掘りや釣りならば自分の実力を遺憾なく発揮できる。どんな過酷な場所での釣りでも、火山の前での鉱石掘りでもどんとこいだ。釣り大会はともかく、掘り大会があるのかは分からんが……有名になれば受注販売もできるかもじゃない? レア魔法鉱石の依頼とかさ。

「うっし、到着だ!」

 気合と共に残橋に到着したのだが、釣りをしている人が一人たりともいない。かといって人がいないわけじゃなく、人だかりができている。

 何だろう?

 人が集まっている近くまで来たところで分かってしまった。分かってしまったんだ。

 人だかりの中央に台座があり、誰かが表彰されてにっこりしていたことに。

「終わっちゃったみたいですね」

「探索者ギルドで結構な時間をくったからなあ」

 そういやいつの間にやら日が傾いているよ。あと30分もすれば夕焼け空かなあ。

 それでも、探索者ギルドに感謝しこそすれ恨みはすまい。探索者だと名乗ってサーペントロードを討伐できたし、大金をもらうこともできた。

「釣り大会って定期的にあるの?」

「はい、次回こそ賞を取りましょう! てんちょおならきっといけますって」

「おう、ちょくちょく街の広場で釣り大会の開催がないか見に行くよ。あ、そうだ、他にも大会ってないのかな?」

「んー、ありますよ。料理大会とか、鳥の狩りとか」

 おお、結構街のイベントが多いんだ。人口もそれなりの多いから、街の娯楽としてイベント開催をしているのかもしれない。

 ネットや動画視聴どころか、ラジオさえない世界だものな。市民にはパンとサーカスをってな具合にイベントがあるに違いない。

 街の支配者層はよおく街の人のことを考えていて、感心するよ。謎の上から目線でふんふんと腕を組む俺であった。

「てんちょお、まだ見ていくんですか?」

「あ、いや、オオシャコガイもカウントに入るのかどうか、聞けたら聞きたいなあっと」

「毎回レギュレーションが変わるみたいですよ」

「う、ううむ。今回はおっけーでも次回はダメかもしれない、のかあ」

 となれば、残って職員に声をかけても仕方ないか。

「てんちょお、もう帰りませんか? わたし、もう少し食べたいです」

「さっきの肉串はおいしかったなあ、露店でオススメあれば教えてくれよ」

 気を遣ってくれたアーニーに乗っかり、潔く撤退することにした。

 のだが、野太い声に呼び止められる。

「お、店主と道案内じゃねえか、大活躍だったみてえじゃねえか」

 ガハハと笑う虎頭……虎頭の顔の区別はつかないけど、俺の知る虎頭は一人だけだから間違えることはないぜ。

「ウォーレンも釣り大会に参加していたの?」

「いんや、深海竜が討伐されたと聞いて、駆け付けたわけだぜ。ちょうど二人が凱旋しているところを見てな」

「ん、俺たちが戻ってくると思って待っててくれたの?」

「あー、戦いに参加しようとしていたんだが、必要なくなったから、これだぜ」

 残橋で酒盛りしていたのね。彼が顎で指す先はビールらしき小型の樽。樽で酒盛りとは余程酒が好きなのかもしれん。

「俺もいっぱいやりたいところだけど……」

「お、まだまだ酒はあるぜ。討伐祝いだ。好きなだけ食べて飲んでくれよ」

「食べ物まで持ってきたの?」

「もちろんだぜ。肉と酒、これだろ」

 さすがの虎頭である。肉好きな設定だったっけ? しかし、虎が野菜をバカスカ食べているイメージはないから、たぶん肉だけとは言わないまでも肉好きなのだろう、きっと。種族として肉好きだとしても、個体としてはそうじゃないのがいるのも、もちろん理解している。

「気にせずバカスカ食ってくれよ」

「ありがとう、足りなくなったら露店まで買い出し行くよ」

 なんて感じで酒盛りに参加したものの、この場所はどうにも落ち着かない。

 今は釣り大会の結果発表でこちらに見向きもされないが、終わったらアレよな。

 集まった群衆から注目を受け、酒盛りに参加したいって人も出てくるかもしれないよね。ウォーレンの性格的に断りはしないだろうし、逆に一緒に飲もうぜ、と道行く人を誘うまである。

 安易に参加したいと言ったのはよくなかったかなあ。ちょこっと飲んで参加者が増えるようだったらこっそり抜けようかな。よし、そうしよう。

 知らない人と飲むのはちょっとばかし苦手なんだよね。会社の飲み会とかも嫌いなタイプな俺である。といっても、飲むのが嫌いなわけじゃないんだ。

 この感覚分かってもらえるだろうか。

 しっかし、これはこれそれはそれってやつで、食べ物も飲み物も俺を待っている。

 露店で購入したであろうまだ暖かい肉のかたまりをガブリといって、ビールを一口。

「生き返るわあ」

「てんちょお、なんだか面白いです」

 アーニーが食べ終わった串をくるくるさせながら笑う。

 え、そうかな? 俺なりに仕事の後の至高の一杯を表現したつもりなのだが。もっとも、釣りをしていただけなので仕事ってわけじゃあないか。

「ウォーレン、またお主はこのよいなところで……お、店主殿、活躍は聞いておるぞ」

 またも声をかけられる俺が顔を上げると、以前会った時と同じようにローブ姿のワニ頭が声の主だと分かる。

「ウォーレンに酒を奢ってもらってるんだ。ゲニラも参加でよいよね?」

「もちろんだぜ、ガハハ」

 はあとため息をつきつつも俺の隣に座るワニ頭のゲニラ。

 彼と乾杯しつつ、サーペントロードの話から釣り大会、釣りそのものへと話題が変わっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る