男子高校生、旅支度と妄想中

バス座席の発表を終え、日が傾き始めた放課後。

廊下の窓から差し込むオレンジ色の光の中で、壮太はスキップしそうな勢いで足を踏み鳴らしていた。


「おいおい、落ち着けって。バレるぞ」


「落ち着いてるし!」


彰は半笑いで言った。


「いや〜でもさ、くじであの子の隣引くとか、やばくない? お前、顔ゆるみすぎて、さっき黒板見た瞬間、ニヤけ通り越してデレデレしてたからな」


壮太「し、してないし!!」


否定しながらも、耳まで赤い。明らかに図星だ。


そこへ、春翔が合流する。


「……何この空気。ニヤニヤが止まらない人いるんだけど?」


「バスの隣席、早瀬さんだってよ〜。この顔見て?」


春翔はクスッと笑いながら、壮太の肩を軽く叩いた。


「よかったじゃん。また“ぬいトーク”できるかもな」


「そ、それは……!」


──顔から火が出そうだった。


でも、その日、壮太のテンションは最後まで落ちることはなかった。


1ヶ月後

宿泊行事4日前 壮太の自宅


宿泊行事を目前に控えた日曜の午後。

壮太の部屋では、旅行鞄を開いたまま、持ち物リストとにらめっこする姿があった。


「着替え、歯ブラシ、充電器よし……タオルは2枚でいいかな……」


リュックの中身を丁寧に詰めていくが、心はどこか上の空。

手は動いていても、頭の中では“バスでのあの距離感”が何度もリプレイされていた。


そんな時、リビングから母の声が飛んできた。


「壮太〜。コノハビ、持ってくの〜?」


……ピクッ。


「い、い、いくわけないでしょ!? 何言ってんの!?」


「え〜? 夜寂しいかもよ? ずっと“コノがいないと寝れない……”って言ってたくせに〜」


ニヤニヤしながら入ってきた母に、壮太は顔を真っ赤にして反論する。


「ち、違うし! 先生に見つかって没収されたらどうすんの! なくしたらもう終わりだし!!」


「はいはい。大人になったのねぇ〜」


そう言いながら、母はあきれたように笑ってリビングへ戻ろうとする。


その時──


(……でも、愛美さんは……持っていくのかな……)


ふと浮かんだ一瞬の妄想。


──バスの中、ピョンたんを抱いて寝息を立てる愛美さん。


(う、うわ……うわあ……尊……デュフ……)


「……デュッフ……ッヒヒヒ……ふへへへ……!」


──もう止まらない。


顔を両手で覆いながら、鼻の奥で鳴る笑いを抑えきれずに、ベッドの上で悶える壮太。


その異様な空気に気づき、ドアからチラ見していた母がひとこと。


「……どうしたの? 気味悪いよ。じゃ、夕飯できたら呼ぶねー」


バタン。


ドアが閉まる音とともに、再び部屋に静寂が訪れる。


「……し、しまった……また、やっちまった……」


そんな彼の足元では、「コノハビ」がじっと壮太を見つめていた。

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