第13話 二人、もしかして
翌日。文化祭二日目。
今日は七時半集合と言われていたのだが、湊はほぼ同時刻に学校についた。
「ふわぁ……っ、ん……おはよ律」
「はよ〜、ってめっちゃ眠そうじゃん。何時に寝たんだよ」
「ん〜……一時くらい?」
「お前さ……今日も文化祭って分かってただろ」
「いやぁ、ミスったわ」
「ミスったってなんだよ」
寝るのが遅れた理由。
当然、昨夜の美怜とのゲームがやめられなかったからだった。
いや、やめたくなかったというのが正しいかもしれない。
そんな美怜は、何食わぬ顔で明香里と話をしていた。
(ったく、俺が電話しなきゃ起きなかったくせに)
湊は別に寝坊したわけではなかった。朝にはそこまで弱くない湊は、今日もアラームが鳴る前の六時頃に起きた。
順調に準備をしていたその時、湊はふと嫌な予感がした。
試しに美怜に電話すると、その嫌な予感が的中したらしく、美怜は何コールしても電話に出ない。
そして、七時になろうかとした時。
ようやく電話に出たのは、ふにゃふにゃに溶けた美怜だった。
寝起きでぼーっとしている美怜は、いつもの小悪魔的魅惑はなく、ただ素直に湊に甘えてきた。
そんな美怜との通話を切れるわけもなく、また切りたいはずもなく、
「完全にミスったんだよ」
「だから何なんだよそれ」
湊は「ミスった」としか言い表せなかった。
ちなみに、美怜の方が先に学校にいるのは、ただ家が近いというだけの理由である。
「はーい皆ごめん、おまたせ!」
湊が律と話していると、かに行っていた美緒が教室に帰ってきた。
「それじゃ、昨日の打ち合わせ通り準備して、最高の文化祭にしよーっ!!」
おーっ!!とクラスの全員が拳を突き上げる。
それから急ピッチで準備が進んでいき、二時間が経った。
湊たち一年二組の教室がある四階から校門あたりを覗いてみると、早くも開始待ちの列ができていた。
宮田高校の文化祭はこのあたりの地域でもかなり盛り上がることで知られている。そういったことがここにも影響しているのだ。
文化祭開始のチャイムが鳴り、校門に並んでいた多くの人々がぞろぞろと宮田高校に入ってくる。
そして数十分後──この日もまた、一年二組のメイド喫茶は早々に満席となった。
「三番テーブル、Aセット二つでどっちもミルクティー」
「はーい! なら工藤くんと咲希ちゃんのところにあるよ!」
「了解〜」
しかし、前日の反省を活かした湊の作戦が恐ろしいほど功を奏し、回転率は比べ物にならないほど向上していた。
しかし、それでも捌ききれない来客数。
それも仕方ない。
「お待たせしました。Aセット二つとアイスティー二つになります。ごゆっくりとお楽しみください」
湊はニコッと笑い、一礼してから二人の女性のテーブルをあとにする。
……背中に視線を感じながら。
(やっぱ執事服効果なのかなぁ……)
あまり慣れないその視線に、湊は少し困惑の色を浮かべていた。
湊の推測も間違ってはいなかったが、実際にはそもそもの容姿の割合が大きい。
せっかく執事服を着るなら髪の毛もセットしようというクラスの女子の提案を断ることができなかった湊は、普段は伸ばしている真っ直ぐの髪をワックスでセンターパートに仕上げられていた。
もとの肌の綺麗さも相まって、今の湊はイケメンという言葉が良く似合っている。
しかし、自己評価の低く、容姿にそこまで興味がない湊は、そのことを理解していなかった。
そして──、
「…………」
その様子を見て嫉妬心を煽られている人物が──一人。
(湊くんのかっこよさが……バレる)
店内だろうと構わず湊を見つめる美怜は、ひたすらに機嫌を悪くしていた。
湊くんを見ていいのは私だけなのに、そう思ってしまうほどに。
「──あらあら、彼女さん嫉妬ぉ?」
美怜が教室の入り口付近を通りがかった時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ、明香里ちゃん……って、彼女さん!?」
「いやいや、冗談だってぇ! ねぇ?」
「はは、真に受けて動揺してるの可愛いかよ」
「律くん!?」
列に並んでいた明香里と律だった。
「ちょっとメイドさーん、うちらお客さんなんですけど〜」
「う……って、二人で?」
「おう。一緒に回ってるからな。二名様で頼む」
どうやら今日は、二人だけで文化祭を回っているらしい。
美怜は「二人で回るほど仲良かったんだ……」と思っていると──、明香里の耳が少し赤くなっていることに気がついた。
「それじゃ、ご案内しますね」
「うお、七瀬さんはちゃんとメイドじゃん……よろしくお願いします」
「ちょ……『は』とは何ですか! うちもメイドだったんですけど!」
席に案内している間も止まない痴話喧嘩。
美怜は、明香里にコソッと耳打ちする。
「律くんのこと、やっぱり好きなんだ?」
「ぶっ……!」
「ちょおい! 明香里きたねぇって!」
「ご、ごめん……あ待って顔見れない」
「えっ俺ディスられた」
「いや……ごめん」
明香里は口元を手で隠しながら俯いた。
そして、律にバレないように美怜の足をポコポコ叩く。
それをするだけで、明香里が美怜の言葉を否定することは終始無かった。
隠せないほど耳が真っ赤に染まっていることも、美怜の言葉を肯定する証拠だった。
《あとがき》
タイトルを『片想いの漸化式』に変更しています。
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