第36話 たぶんこれ食べたら天国に行けるヤツ

 というわけで、異例の昼食タイムへと洒落込んだ。

 こういうとき、ダンジョンの中の食材を調理して、ダンジョンならではのご飯を……みたいな展開を期待するものだが、現代のダンジョンでとれるモンスターは食事に向いていない。

 というか、食事にならないといった方が正しいか。

 

 何せ、狩ったモンスターは命が尽きると同時に魂は輪廻のためにダンジョンへ取り込まれ、身体は霧となって消滅する。

 あとに残るのは魂の抜け殻となった魔石とわずかなドロップアイテムのみ。

 これでどうやって調理するの? という話である。まさか魔石を炒めてバリバリせんべいみたいに頬張るつもりか。だとしたら歯がすべて折れたあげく無機物だから一切栄養にならず排出されるだけだから意味がない。


 と、いうわけで。


「じゃん! お弁当だよ!」


 イスになりそうな石に腰掛けた葵が、自慢げに風呂敷を広げ、1人分にしては大きすぎる弁当箱を開ける。

中に入っていたのはサンドイッチだった。

18世紀のイギリス貴族、サンドイッチ伯爵が手を汚さずに食べられる食事を、と召使いに頼んだのがきっかけとされる、お弁当の定番だ。

作った召使いではなく頼んだ方が名前になっているのはどうなんだ。まあ、安土城だって織田信長が建てたと伝えられているが実際は頼んでるだけだろうし、世の中そんなものかもしれない。


 ちなみに、風呂敷は収納魔法でずっと収納していたらしい。

 葵自身、水魔法が得意というだけで、流石の《魔法師ウィザード》の本領発揮か。


「おお、美味しそう!」

「呆れた。予めチームメンバー全員で食う気満々やったっちゅうことか」

「え、えへへ……」


 ジト眼になる若井に、葵は照れ笑いを浮かべる。


「しかし、配信者のトップに君臨する女王様の手料理とは、こりゃまた垂涎もののシチュエーション、言うヤツやないか? 一般的に言えば」

「妙に他人事だけど、そうだね」


 奇妙な言い回しをする若井に、一樹は首肯する。


「よかったな涼城。推しの手料理が食べれて……」

「ああ、主よ。感謝いたします。もう私は今生に悔いなどありません……」

「え? なんか後光差してない? おーい、どこにトリップしてんだお前」

「はっ! 危ない、翼の生えたおっきな葵様が見えてた。葵様はここにいるのに!」

「お前ほんと……いや、なんでもない」

 

 一樹は小さくため息をついてツッコミをやめる。

 こういうのは、もう相手をしない方がいいのだ。

 かくして、一樹達は葵の手料理に臨んだ。


――。


「うっ!」

「なっ!」

「これは!」


 一口食べた瞬間、脳髄に衝撃が走った。

 一見完璧美少女が実は飯マズだった、みたいなテンプレが存在したりするが、


「美味しい」

「美味いな」

「お、おお、美味しいですぅ! うぅ、ひっく!」


 1人リアクションがおかしいヤツがいるが、それは無視だ。

 葵にいたって、飯マズということはなかった。むしろ、ただのサンドイッチでなんでここまで美味くなるの? というレベルだった。


「ほんま、なんでもできるんやなぁ。妬けてまうわ……と、なんや。まだ弁当があるんかいな」


 サンドイッチをパクついていた若井が、近くにあった弁当箱に手を伸ばす。


「え? それは私のじゃないよ――」

「そうなん? じゃあ誰の……」


 言いながら、若井は何気なく弁当箱の蓋を開けた。


 オォオオオオオオオ……

 弁当箱の中身が、悲鳴を上げていた。


 ――そっと蓋を閉じた。

 4人全員が、沈黙していた。

 

「えーと……たぶん、なんかの見間違いやな」


 若井は苦笑いしながら、また蓋を開けた。


 オォオオオオオオオ……


 なんか、紫色のオーラが弁当箱から上がっていた。

 中にはぎっしりと、黒い塊が詰まっており、心なしかうねうね動いているようにすら錯覚する。

 ていうか、弁当の中身が苦しんでいる。


「……あー、パンドラの箱?」

「やな、どう見ても」

「ふ、2人とも。それは流石に作った人に失礼なんじゃない……かな? たぶんきっと、お弁当……のつもり? なんだろうし」

「葵さん、それフォローになってないで?」


 反応を見る限り、葵が作った弁当、というわけではないらしい。

 一樹はそもそも料理なんてしないし、若井も知らなそうな反応だ。となると、この弁当を作ったのは――

 3人揃って、白髪少女の方を見る。


 ぷいっと、目を逸らした。

 3人は、全てを察した。


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