11話

風に揺れる葉音と、木剣がぶつかり合う音が響く。

シズクとリゼが真剣な表情で剣術の稽古をしていた。

「はい、右。踏み込みが甘い。次は低く構えて――左」

リゼは懸命に剣を振るが、タイミングをずらされてバランスを崩し、地面に足を取られる。

「はぁっ、はぁっ……」

「いい動きですよ。焦らなければ、もっと正確に打てます」

「でも……全然、マスターには届かない……。

私、こんなんで本当に――」

リゼは木の根元に座り込み、水筒からゆっくりと水を飲む。

(あの魔獣の牙、熱、咆哮……怖かった。

マスターがすぐに動いてくれなかったら、私は――)

少し離れたところからシズクが声をかける。

「……怖いままで、いいんですよ。

怖いからこそ、目を逸らさない。

その先に“守れる力”があるんです」

「マスターは……怖くないんですか?」

シズクは一瞬だけ表情を曇らせるが、すぐに笑顔を取り戻す。

「ええ、怖いですよ。毎回。

でも、“誰かのため”と思えば、体は勝手に動きます」

リゼは迷いのない動きで再び構える。


「……来なさい。全力で」

剣が交わる音。リゼの攻撃は冴えている。


「はっ……やっ!」

一瞬、リゼがシズクの木剣を払いのける。シズクも驚いた表情だ。


「いいですね。それが“守るための刃”です」

汗だくになりながらも、リゼはまっすぐシズクを見上げる。

「……マスター。私、戦いたいです。

もう、ただ守られるだけじゃいたくない」

「なら……次は実戦で、確かめましょう」

夕陽が茜色に空を染め、ふたりは並んで歩く。

(あの火の魔獣の夜から、私は変わったのかもしれない。

少しずつでも、前に進めているなら――)

木々の間を小鳥が飛び交う。


「私も……誰かの“剣”になりたいな」

シズクは優しく微笑み、頷いた。

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