Яicodo9 冷たき糸
「ちょっと、なにこの状況!?なんで
困惑する
対して名前を呼ばれた
「仕事だよし・ご・と。にしてもまさか
「導矢さん、そんなこと言ってる場合ですか。この状況分かってます?」
「分かっているよ。そんなに僕馬鹿じゃないって」
導矢は赤髪の男性達を改めて見据える。
「その優男そうなサラリーマンと君達はお仲間ってこと?」
導矢は困惑した表情を浮かべている
「正確には違うが、まああながち間違えてはいない」
「ふーん。どっちかといえば利用してるということか…」
腰に手を当てながら導矢は一人納得する。
「な、なんですか貴方達!?一体なんの目的でこんな所に!?」
「そんなのあんたの身に覚えがあることしかないんじゃないの?最近フェリテートが行方不明になってるってタレコミがあったんでね。調べてたらこんな所に辿り着いたってわけ」
若干声を荒げて話す日野に対して幾仁は冷静に話す。
「そんなことより、どういうつもりですか
鋭い目線を
「そうですよ!ぼくらに日野のこと調べろって言っておきながら、なんで一緒にいるんですか!?」
空夢も幾仁に続いてそう問いかける。
「なんで…か。そんなの決まっている。コイツらのビジネスが俺にとってメリットがあると思った、ただそれだけだ。お前達に依頼をした理由は、邪魔になりそうだったから潰すため。それだけだ」
ためらいもなくそうはっきりと言う誠。
「本気で…本気でそう言っているの?だってあそこにいるフェリテート達、みんな弱って苦しそうだよ!なのに!!」
シキはそう言って誠を睨む。
それはいつもニコニコしてるシキかと思わせる程の剣幕の表情である。
「なにかをなすにはそれ相応の犠牲がつきものだ。犠牲なしで物事をなす、そんな絵空事なんて甘いんだよ。フェリテートが犠牲になるのは、今に始まったことでもないだろうしな」
誠は淡々と言い放った。
「東湘さん!本気で思っているんですか!?」
空夢も思わず声を上げる。
「………………」
誠はなにも言わない。
「そっか。東湘、残念だよ。君はいつでも下にいる者の味方だと思っていたのに…。いつの間にか欲に取り憑かれる、無様な姿に変わり果てていたなんてね」
導矢が誠を見ながら口を開く。
表情は穏やかではあるが、目は冷えた氷のように冷たく感じ、見る者によっては恐怖を感じる。
「なんとでも言え。俺は自分の決めた事を貫き通す。それだけだ」
誠は特に導矢の表情も言動も気にすることなく、はっきりと言葉を発する。
「そう、分かったよ。でもだからってこのままはいさようならとはいかないね」
「ほう、やるか」
導矢と誠の間にピリついた空気が流れる。
「導矢さん本気ですか?」
幾仁が導矢に問いかける。
「僕はいつでも本気だよ。相手が知り合いだろうとなんだろうと、違えるのならそれまでだから」
導矢は笑みを浮かべながら答える。
「それにそこのお二人さん、端から僕達を返すつもりはないだろう?」
導矢は赤髪の男性と小柄な男性に疑問を投げかける。
「ああ。ここを見られたからには、貴様等全員表へ返すわけにはいかないな」
「それってつまり裏世界に引きずり込むって言ってんの?」
幾仁が赤髪の男性を睨みつけながら話す。
「見た限り貴様等全員、いい値で売れる価値はある。口封じも兼ねて貴様等を返すわけにはいかないからな」
赤髪の男性は淡々と言葉を発する。
「できるものならやってみろよ」
幾仁はそう言い返す。
「威勢のいいガキだ。なら冥土の土産…とまではいかないが、手向けとして教えてやろう」
そう言って赤髪の男性はなにもない空間から武器を出す。
その形はランスへと成る。
血を吸ったかのような赤黒い色合いが目を引いた。
「
導矢が呟く。
具象能力とは能力の一種であり、頭の中に思い描いた物を現実に出すことができる。
幾仁や空夢もこの能力を持っており、この世界では様々な能力者が持つ、いわゆるメジャーな能力である。
赤髪の男性はランスを手に持ち口を開く。
「俺はデファン・イプノズム。人は俺を吸血鬼と呼ぶ。そして…」
「僕は
デファンと律樹はそれぞれ自己紹介をする。
「本当に吸血鬼?通り名?」
「見た目が吸血鬼っぽいから、本当に吸血鬼って言われても否定できないよね」
空夢とシキは各々そんなことを話す。
「吸血鬼ね。君もしかして『ホロ=ヴァンピオン』のリーダーかなにか?」
右手を口元に当てながら導矢はデファンを見る。
「ほう、その名を表の人間が知っているとはな」
デファンは少し驚く表情をする。
「裏の世界には少し詳しいんだよね」
そう言って導矢は腰に手を当てる。
「御園さん、ホロ=ヴァンピオンとは…」
「自分が属してるグループとか組とかそんなものの名称だよ。裏世界に生きるものは何人かで集まって組織を作って生活している。ホロ=ヴァンピオンもそのひとつってこと」
「優男の言う通りだ。ホロ=ヴァンピオンは組織の名前。俺はその組織のトップってことだ」
「あんたとそこのお付きがその組織の人間ってことは分かったけど、そんな事ベラベラ喋っていいわけ?」
腕を組みながら幾仁はデファンを見る。
「問題ない。さっきも言っただろ。貴様等を返すつもりはないと。だから知られたところでどうにもなるまい」
「なんで自分が勝つ前提いるんだかコイツ」
幾仁は呆れ気味にそう話す。
「それにそこの優男が裏世界に詳しいってことは、そう簡単に表の人間が関与できないことくらい知っているだろ?」
「どういうこと?」
シキは疑問の声を上げる。
「えーと…君名前は?」
導矢はシキに名前を聞く。
「僕はシキだよ」
「僕は御園導矢、よろしく。シキは知らないみたいだから説明するけれど、裏の世界は僕らが思っている以上に大きく、底が見えない世界なんだ。おまけに能力者もそれなりにいる。警察が捕まえられるのは、せいぜい末端の人間なり組織が今のところ限界なんだ」
導矢はシキに説明する。
「基本的に裏世界の人間は、表の人間に気付かれないように事をなすことが得意な奴が多いんです。だから尻尾や証拠を掴みにくい。警察の捜査にも限界がある。そういうことです」
さらに幾仁が追加で説明する。
「そこまで理解できてるんだね。偉い偉い」
律樹がニコニコしながら褒める。
「でもまあ知ってるからこそ、返すわけにはいかないんだよねー」
そう言った直後、律樹の周辺の空間が水面を打つ。
やがてそれが形を変えて武器と成る。
「君も具象能力持ちか…」
空夢はそう言って律樹の武器を見る。
律樹が出した武器はシンプルな二丁拳銃だった。
「あっはは、ご名答」
律樹は楽しそうに笑う。
「君達も能力者なんでしょ?このままあっさり終わるのはつまんないからさ、相手してよ?」
そう言う律樹の瞳はどこか狂気じみているようにも見える。
「どうやら戦うしかなさそうだね」
呆れ気味に導矢は律樹を見る。
「はあ、仕方ない」
「私も戦います」
幾仁と美璦香は戦闘態勢を取る。
「七瀬とシキはどっちに付く?」
導矢は二人に問いかける。
「そんなの、聞くまでもないじゃないですか!」
「そうそう。僕、あっちの味方なんてごめんだね」
空夢とシキは幾仁達の方へ合流する。
「そうこなくっちゃ。せっかくだし君達の名前を教えてよ」
律樹は尋ねる。
「どうせ教えたところですぐ忘れるだろうけれどね。僕はさっきも言ったけど御園導矢。左から悠千幾仁、美璦香、七瀬空夢、シキ。それと君達の近くにいるのが東湘誠」
そう言って導矢は目線を誠に向ける。
「どうやら東湘はそっちに付くみたいだし、戦うにはフェアなんじゃない?」
「こいつは能力も持たない一般人だ。カウントするな」
そう言ってデファンは日野を指差す。
「あ、そう。じゃあこっちは五人…でいいの?」
導矢は空夢達に聞く。
「シキ君は武器を持たないので基本戦いません。避けるのが専門なのであまり戦力にはならないかと…」
空夢がそう説明する。
「あー失礼しちゃう!でも事実なんだけどね。ちょっとしたサポートと蹴るくらいなら得意だから、僕の事は心配しないでよ!」
シキは胸を張って導矢に言う。
「じゃあこっちの戦力は四点五人分ってことで」
「いいだろう」
そう言ってデファンと律樹は戦闘態勢に入る。
「…東湘さん。本当にやるんですね」
幾仁が誠に問いかける。
「何度も言わせるな。俺はお前達と戦う事になろうが、自分の道を突き進むだけだ」
誠の周りに風が吹く。
風は誠の手へと集まりやがて剣へと形を変えた。
黒を基調としており、柄頭にひし形の装飾品が付いている以外装飾はなく、シンプルなデザインをしている。
誠はそれを手に取ると刃を幾仁に向ける。
「俺の真意が聞きたかったら打ち負かしてみろ」
誠が鋭い目付きを向けた後。
「いくぞ」
デファンが導矢に斬りかかった。
「!!」
だが、刃が導矢に当たることはなかった。
それどころかデファンの動きはピタリと止まっていた。
まるで時が止まったかのように。
「なんだこれは!?」
動こうにもピクリとも身体を動かすことができないデファン。
さらにデファンだけでなく律樹、誠、さらに日野までもが動けずじまいであった。
「一体なにが…まさかシキさんの」
「いや、僕は時を止めていないよ」
美璦香はシキが時を止める能力を使用したと思ったのだが、シキはそれを否定する。
「それじゃ一体…まさかさっき御園さんがやった」
「ご名答。僕の能力の一つに…」
導矢は左手を上に上げる。
するとデファンの左手もそれに呼応するかのように上がる。
「人や物を操る能力があるんだ」
含みのある笑みを浮かべながら導矢はそう言う。
「導矢さんが持つ能力の一つ、それはマリオネットの力。見えない糸で相手や物を操り縛る。全て導矢さんの手の中ってこと」
幾仁がそう説明する。
「その通り。この糸は僕にしか操れないし見えない。君達にはどうすることもできないよ」
導矢はフフッと笑う。
「とりあえず…全員ここから出るよ!」
そう言って導矢は部屋の出口に向けて一直線に走る。
「ちょっと、御園さん!?」
思わず空夢が声を上げる。
「…とにかく出ましょう。なにか考えがあるんだと思います」
そう幾仁が言って導矢の後を追いかける。
「僕達も行こう!」
シキ、美璦香、空夢も後に続いて部屋を出た。
「んー、外の空気は美味しいねー」
導矢は伸びをする。
「導矢さん。外に出た理由は?」
若干息も絶え絶えに幾仁が問いかける。
「そんなのあんな地下で戦うのが危ないって思っただけだけれど?武器振り回してるだけで天井落ちてきちゃうって」
あっけらかんとした感じで導矢は答える。
「…そうですか」
これ以上はなにも言うまいと思ったのか、幾仁はひとことそれだけ言った。
「まあ逃げるわけじゃないし。ほら後ろ」
導矢は親指でぐいっと後ろを指す。
幾仁達が後ろを見るとデファン、律樹、そして誠が立っていた。
「もしかして御園くんの能力を破ってきたの?」
驚くシキ。
「あーううん違う違う。僕が能力の時間を決めておいたから、時間切れで解除されただけだよ」
あっさりと導矢は話す。
「そのまま縛って逃げるつもりはなかったんですね」
「やだなあ、そんなのつまらないじゃん。それに…」
空夢の言葉にそう言いかけながら、導矢は右手を目の前に向ける。
どこからともなく冷気のようなものが集まり、やがてそれは長い物へと形を変える。
それは槍であった。
水色と青を基調とし、穂の両側面は曲線をなしている。
羽根もしくは氷を連想させる装飾が施されている。
導矢はそれを手に取る。
「こんな奴らにはお灸を据えてあげないとね」
導矢は不敵な笑みを浮かべながらデファン達を見る。
「威勢がいいことだ。だが貴様等が勝てる未来などない」
デファンがピシャリと言い放つ。
「そんなのやってみないと分かんないだろ」
幾仁はそう言って具象能力で双剣を出し構える。
続けて空夢、シキ、美璦香も各々戦闘態勢に入る。
「それじゃあそろそろ始めようか?」
笑みを見せながら律樹が言う。
「そうだな。いつまでもこんなことしてるのは時間が惜しいからなっ!!」
そう言うなりデファンが勢いよく幾仁達に向かってくる。
それと同時に律樹が幾仁達に向けて銃を撃つ。
幾仁は双剣でデファンの攻撃を受け止める。
「はっ!」
空夢は銃弾を避けつつデファンに向けて符を放つ。
続けて導矢もデファンに槍を勢いよく向ける。
デファンはそれらを避けて距離を取る。
「なかなかやるな」
「これでも僕達は色々潜り抜けて来ているからね。舐めない方がいいよ。多分ね!」
槍を持ち直しながら導矢はデファンを見る。
「なんですか最後の多分って」
すかさず幾仁がツッコミを入れる。
「いやだって、僕悠千と七瀬のことしか知らないから」
「ああそういう…」
「細かいことは気にしない気にしない!」
ニコニコしながら導矢は言う。
「さて誰が誰の相手をする?」
「俺は別に誰でもいいです」
「僕は避けるだけだから邪魔にならなければそれで」
「ぼくも幾仁君と同じ意見です」
「誰が相手でも手は抜きません」
導矢の問に各々そう答える。
「じゃあ悠千は東湘の相手をして、七瀬、シキ、美璦香はちびっ子の相手を。僕は吸血鬼の相手をしようかな」
そう導矢が提案をする。
「御園くんと幾仁くん一人で相手をするの?どっちかにもう一人いたほうがいいんじゃない?」
シキが導矢に尋ねる。
「いや俺一人で大丈夫です。東湘さんの対応には慣れてるので。それにあいつは銃をメインで扱ってるみたいだし、横槍が入るとめんどくさいので。三人で抑え込んで、終わったらこっちに合流して欲しいです」
そう幾仁は返答する。
「僕も悠千の意見に賛成かな」
導矢も幾仁の意見に賛同する。
「二人がそう言うなら…」
渋々といった感じではあるがシキは納得する。
「分かりました。ぼくらであの子を相手します」
「私もそれで構いません。ただ状況を見て合間に加勢はさせてもらいます」
空夢と美璦香も各々返答する。
「了解。それじゃあよろしく」
そうして各々戦う相手と対峙する。
「話はまとまったか」
デファンが語りかける。
「お陰様で。それにしても律儀に待つなんて、見かけによらず紳士なんだね」
感心するかのように導矢がデファンを見て話す。
「フン。俺は何事も余裕を持って対処するだけだ。どのみち貴様等と戦うことに変わりはないからな。急いだところで結果は変わりはしない」
「君本当に自信満々だね。そんなんじゃすぐ足をすくわれるかもよ?」
笑みを浮かべながら導矢がデファンに対して言う。
「貴様こそ、さっきから減らず口をたたく余裕があるようだしな。退屈させてくれるなよ」
鼻で笑いそして余裕そうな表情をデファンは見せる。
「そっちこそ。僕を楽しませてよね!」
そう言うなり導矢はデファンに攻撃を開始した。
「それじゃあ僕達も始めよっか〜」
のほほんとした口調で律樹はそう三人に語りかける。
「君も随分余裕そうにするよね。三人を一人で相手にするなら、普通は困惑するなり焦るなりするものじゃないの?」
頭に浮かんだ疑問をシキは律樹にぶつける。
「そんなの人によりけりじゃないかな〜。少なくとも僕は大人数相手なんて、例え自分が不利だとしてもわくわくするけどね」
律樹はにこやかな表情で言う。
「君、戦うの好きそうだね」
嫌そうな目で空夢は律樹を見る。
「まあね。戦うのって楽しいと思うよ。生きてるってことを直に感じられるし、なにより自分に力があるって目に見えて分かるしね」
「言いたいことは分からなくもないけれど…」
空夢は困惑した反応を返す。
「考え方や捉え方なんて人それぞれなんだし、別に無理に共感しなくていいよ。」
律樹はそう言って右手をひらひらさせる。
「さてむだ話はこれくらいにして、そろそろやろうよ」
律樹は武器を構える。
「そうだね。あまり時間もかけたくないし、君と仲良くなるつもりもないしね」
そうシキは返す。
「そうだね。せいぜい泣いて後悔しないようにね」
クスッと笑いながら律樹は三人を見る。
「その言葉そっくりそのまま返すよ!」
空夢が符の攻撃を律樹に放ったのを合図に、両者は攻撃を始めた。
「お前と一対一なんて、いつぶりだろうな」
「さあ?そんなのいちいち覚えてませんよ。そういうのどうでもいいですし」
誠の問いかけに幾仁はさも興味なさげな反応を示す。
「お前は相変わらずだな。まあいい始めるか。といってもお前相手だからな」
腰に手を当てながら誠は幾仁を見る。
「怖気づいたんですか?」
無表情のまま淡々と答える幾仁。
「馬鹿言うな。少なくとも今のお前には、恐怖の感情なんか湧くわけないだろうが」
誠はそうばっさり言い切る。
「…まあそれはそうでしょうね」
幾仁は溜息をつきながらも答える。
「否定はしないのか」
「事実ですから。俺はなにを言われようともやりたいように戦う。本当に必要な時しか俺は…」
躊躇いがちにだが幾仁は言いかける。
「その必要な時に、お前が本当に躊躇なく全力を出せるとは俺は思えないがな」
誠はそう幾仁にはっきりとした口調で言う。
「どう思おうと勝手ですが、東湘さんと俺の持っているモノは違う。使えるモノも違う。使う使わないにも理由がある。俺は望まれようとも使わないだけです」
幾仁は淡々と答える。
「お前がそれでいいなら構わないが。そのいつかが来た時、本当にできるかはお前次第だがな」
冷めたような目で幾仁を見る誠。
「…もういいですか?いつまでも話してると終わらないので」
「そうだな。喋るよりさっさとやった方がいいな」
「正直面倒くさいですけれど、相手になりますよ」
幾仁は双剣を構え直し、誠に向かって一目散に走っていった。
キンッ!キンッ!
金属音が響く。
「やれやれ、東湘ってば」
幾仁達が戦っている方向を見て、導矢は肩をすくめる。
「よそ見している余裕があるのか」
デファンは導矢の顔めがけて刺すように、勢いよくランスを向ける。
ガキンッ!!
だがそれを見越していたかの如く、導矢は槍で刃先を受け止め弾く。
「別によそ見なんてしてないさ。チラ見しただけで」
笑みを浮かべながら導矢は答える。
「それはよそ見と同じだろう」
デファンは若干呆れ気味に導矢を見る。
「まあそうだね。でも君を軽視してるわけではないから安心してよ」
「フン、誰もそんなこと気にしてなどいない」
「そっか。でも目の前の相手を蔑ろにするのもよくないからね」
導矢は槍をいとも簡単にくるくると回し、そしてデファンに向けて勢いよく向ける。
デファンがそれを避けたと同時に導矢めがけて刃を突き立てる。
導矢はそれを避ける。
ひといきついたところで、ツーっと導矢の右頬から血が流れる。
「…ふうん。やるね」
親指で頬を拭いながら導矢はデファンを見る。
デファンは鋭い目線を導矢に向けている。
「なら次の手を見せようかな」
そう導矢が言うなり、導矢の右手の掌が淡い水色に光ると同時に、槍の穂の部分に冷気が集まり始める。
冷気は穂をまとうようにキラキラと輝いている。
「ほう
デファンは不敵な笑みを浮かべる。
属性付与とはフェリテートが放出する火や水などの自然エネルギーの力を、一時的に借りて自分が使うことができることを指す。
火や水などを能力として扱えない能力者がそれによって使えるようになり、主に具象能力で出した武器に属性を追加して利用することが多い。
使える属性は人によって属性との相性がありそれぞれ異なる。
もっとも属性付与は、属性攻撃が可能なため戦略の幅は広がるが、充電して使う電子機械と同じで、属性を一定分体内に貯めて使い切るとまた体内に貯めなくては使えないため、万能というわけではない。
どうやら導矢は氷属性を付与しているようである。
「僕、自分の能力は惜しみなく使うタイプなんだよね。あー安心してよ。人を殺す趣味はないから。ただ」
クスリと笑いながら導矢は話を続ける。
「凍傷した後の保障はしないけれどね」
そう言って導矢はデファンに氷の刃を振りかざすのであった。
「はあっ!」
ヒュン、ヒュン!!
空夢が放った符術が律樹めがけて飛んでいく。
律樹はそれらを軽く避ける。
「はっ!」
美璦香が律樹の背後から斬りかかるがそれを軽く避けて、今度は美璦香めがけて手ごと銃本体をぶつけようとする。
美璦香は受け身を取ろうとし体制を崩す。
律樹はそれを見逃すことなく美璦香を蹴り飛ばす。
「きゃっ!」
「みおちゃん!!」
「大丈夫!?」
空夢とシキは美璦香に駆け寄る。
「…はい」
美璦香は上半身を起き上がらせ返事をする。
「遠距離なら銃、近距離なら体術駆使してくるなんて…この子見かけによらないかも」
「確かにちょっと相手しづらいかも…」
空夢とシキは律樹を見ながら警戒を怠らない。
「人を見かけで判断するのはいかがなものかと思うよー」
ふわっとした笑みを浮かべながら律樹は二人を見る。
「まさかこれで終わりじゃないよね?まだまだ僕を楽しませてよね!」
律樹は再度攻撃を開始する。
「フッ!」
双剣が空を斬る。
それらを身軽に避ける誠。
「甘いな」
誠は幾仁に蹴りをお見舞いする。
蹴りは鳩尾に当たり、幾仁はよろけて体制を崩す。
「ゲホッ…まだまだですよ!」
幾仁も負けじと双剣を逆手で持ち、柄頭を誠にぶつける。
「グッ!」
攻撃が効いたのか誠は後ろによろける。
「フッ、弱いな」
「強がるだけの余裕はあるみたいですね」
冷ややかな反応を示す幾仁。
「言ってろ。そんなことよりお前、本気を出していないだろう?」
「…さあ?どうでしょうね」
しらばっくれる幾仁。
「俺がどう戦おうが俺の勝手です。少なくとも俺は…」
ガキンッ!!
再び刃が交わる。
「お前は本当甘いな。そんなこと言っていると死ぬぞ」
はっきりとした言葉で誠は幾仁に言う。
「そう思うのは東湘さんの勝手なので。なんと言われようとも俺は俺の戦い方をする。それだけです」
幾仁は刃を弾き返してすかさず双剣の一つを消し、すぐさま銃を出し誠に向けて放つ。
至近距離で放たれたが、誠は素早く光弾を地面に叩きつけるように弾いた。
「まあいいさ。いずれお前には選ばなければいけない日がやってくる。そのときにどうするか見ものだな」
表情一つ崩すことなく誠は言葉を紡ぐ。
幾仁は問答無用で銃を放つが、誠はそれを避けながら言葉を続ける。
「俺はお前みたいに腑抜けて生きている奴は、見ていていい気分にはならないがな」
「なら俺を殺しますか?」
そう話す幾仁の目は冗談を言っているわけではないようだった。
「馬鹿も休み休み言え。そんなことをしてなんになる。もう少しまともなことを言え」
幾仁から距離を取りつつ誠は話す。
「お前が本気を出さないと言うなら、俺にも考えがあるがな」
そう言って誠の左首辺りに紋様が浮き出て、誠の髪の色よりも少し薄い色の光を放つと同時に、誠の持つ剣が風をまとう。
風をまとった後紋様は深緑色に光る。
誠がうっすらと笑みを浮かべ剣を幾仁の方に向けた直後、突然幾仁の足元から木が生えてくる。
木は幾仁の両腕にきつく巻きつき身動きを取れなくする。
「グッ!」
幾仁は腕を動かそうとするが木はピクリとも動かない。
「吹き飛べ」
そう誠はひとこと言い、幾仁に向かって剣を振る。
風は勢いを増してかまいたちへと変化し、幾仁に襲いかかるのだった。
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