第15話 氷魔槍
「ある男が夢を見た。夢の中では男は蝶だった。夢の中で男は考える。蝶になった今が夢なのか、それとも人間だったと思っていた記憶が夢であり、自分は蝶だったのか」
薬でトリップして目の焦点が合わない怪物は独り言のようにいう
「俺も同じ・・・、密売組織のボスの記憶と遺伝子を持つクローンである俺が怪物に移植された。だが、思うんだ、これは薬物中毒の俺が見ている幻覚で俺はもしかしたら、最初から怪物だったのかもしれないし、もしかしたら、オリジナルの俺が実は怪物に取り込まれて、クローンの俺が昨日、お前らに殺されたのかもしれねえ」
フン、タナトスさんは鼻で笑い飛ばした
「世界5分前仮説というのもある。世界は五分前に始まったとして誰にも証明できねえさ」
「そうだ、これは薬が見せた夢かどうかは証明ができねえ。だから俺はベヒーモスになり切ることにした。先ほどソーマ密売組織を襲って薬を奪い、好きなようにその場にいた人間を貪り喰った。ククク」
ベヒーモスは下卑た笑いを浮かべる
「あんた、自分がそんな体にされて怒っていないの?怪物にされたから復讐しようとは思わないの?」
あたしは怪物に尋ねる
怪物は笑みを浮かべながら首を振るう
「復讐なんて思わねえ。俺はきっと元から怪物だったんだ。怪物になった夢を見たんなら、怪物になりきって欲望のままに暴れて、薬をやって、お嬢ちゃんを殺して、ズタズタになったその肉を喰らってやるよ!」
『人間』に未練がない
この男は心の底から化け
オークの騎兵たちが飛び出してくる
タナトスさんは槍を横なぎに一振りした
一振りでオークとマンティコアが一薙ぎにされる
それだけではない
斬られたオークとマンティコアたちの体が一瞬で凍てついた
「氷魔槍」
タナトスさんは瞬間的に相手を氷結させる氷の魔術をアダマンチウム製の槍『ポセイドン』に乗せて使っている
この魔力ならば、数で負けていても覆せる
氷像と化した仲間を見てオークたちは完全に怖気ついた
なぜならば、すでに、どんなわかりやすく教えてくれる教師よりも、タナトスさんにわかりやすく明確な差が見せられたのだ
タナトスさんの体から溢れる闘気と魔力から、目の前の相手が、自分たちには勝ち目がない相手だということを教育されている
「おい、なんで行かねえんだ?」
怖気づくオークたちをベヒーモスは睨みつけた
「ボス、今の見ただろ。俺たちに勝てる相手じゃあねえよ」
「ふーん」
ベヒーモスはそばにいたオークの頭を握りつぶした
突然、ボスに仲間を殺されてオークたちは動揺する
「ボス!」
オークは悲痛な叫びをあげる
チッチッチとベヒーモスは舌打ちしながら指を振るう
「俺は化け物の夢を楽しめと言ったはずだぜ。お前たちはどうせ、このままいけば、人としてではなく、ただの化け物として奴らに処分されるんだ。どうせ死ぬんならよお、最後まで、吠えて、這いずって、生き死になんて気にせずに楽しもうや!」
「く、くそおおお!!」
自分たちはすでに身も心も化け物
誰にも同情される理由も人権もない
ベヒーモスに従えばタナトスさんに殺されて死
ベヒーモスに逆らえば、ベヒーモスに殺されて死
まさに、前門の虎、後門の狼
奴らに逃げ場はない
だから彼らは勝てぬとわかっていても前に出る
死の恐怖がオークたちを支配しているのだ
「隊列を組め、集中射撃だ」
接近戦は不利と見たオークたちは銃を構える
タナトスさんの大剣のような槍の穂先が中央から別れて、その中央から紫色の結晶が姿を表す
あれは魔結晶
魔術を増幅する働きを持つクリスタルを魔結晶と呼ぶ
紫色の魔結晶が輝き出すと急激に温度が下がり巨大な氷柱が出現する
オークは手にしたM P40を発砲するが、氷柱はサブマシンガンの弾丸如きでは砕けない
「
巨大な氷柱の弾丸が発射されてオークたちは全員押しつぶされた
オークの赤い血が美しい氷を赤く染める
「なかなか、やるようじゃあねえか。『槍使い』、名前を聞かせてもらえるかな?」も
「てめえになんぞ、名乗る名は持っちゃあいねえよ」
タナトスさんはベヒーモスの問いかけに対してそう吐き捨てるようにいうと槍を構えた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます