ライブ・ア・マウス〜転生したら鼠型モンスターだった俺の奮闘記〜
@marumarumarumori
第1鼠
なんてことのない7月のある日、日本が崩壊してもおかしくはない程の大地震が起きた。
その揺れは強固に作られたはずのビル群を破壊し、まるで人間がか弱い生き物だと言わんばかりに人々の命を奪っていった。
かくいう俺もそのうちの一人で、自宅アパートの一室で仕事をしていた時にアパートの崩壊に巻き込まれた末に押し潰され、そのまま呼吸すら出来ないまま亡くなった。
その時、重い瞼を閉じた時に走馬灯として流れたのは.....家族の思い出ではなく、好きだったネット小説が書籍化したという記憶で、結局買えなかったなと思いながら重い瞼を閉じた。
....こういう状況の時って、ラノベでよくある輪廻転生するのだろうか?
まぁ、どっちにしろ俺は死ぬから関係ないな。
次第に痛みですら感じなくなる感覚を味わいながら、そう思う俺。
こうして、俺と言う人間は避けようのない大災害によって亡くなり、再び目を開けることはなかった....と、俺は思っていた。
少なくとも、再び目を覚ますまでは。
「「「「チュ〜チュ〜!!」」」」
何やら外が騒がしいので目が覚めると、そこにいたのは何かの植物の種を一心不乱に食べている鼠達。
そんな鼠達は俺という存在が目覚めたことに気が付いたのか、一斉にこちらの方を向いた。
鼠達の視線に気がついた俺は思わず後退りをするが....鼠達は何故か俺を気にすることなく、再び植物の種を食べるのを再開した。
「何なんだ?一体.......」
一瞬だけ俺を見た鼠達の視線は何故か敵ではなく味方、あるいは仲間や家族を見るような瞳だったので、俺は次第にこの状況に対して違和感を持ち始めていた。
それに加えて、周囲を見渡すとそこに広がるのはザ・洞窟と言っても過言ではない光景で、その光景に俺は既視感を覚えつつも他の鼠達のいる場所へと向かった。
鼠達が一心不乱に食べているその植物の種は、一見するとただのひまわりの種のようだけれどもどこか違う見た目をした何かで、鼠達はそれを美味しそうに食べていた。
俺自身はその植物の種を美味しそうだとは思えなかったが、何故かその植物を見た時から空腹感に襲われていたので、当たり前だが俺は戸惑っていた。
....そういえば、俺の背ってここまで小さかったか?
それに、何だか鼠達の言葉も分かるような....?
というか、あの種って毒とかはあるのか?
そんな疑念がフツフツと湧き上がってきたその時、鼠達が群がっていた種の山が突然爆発し、その爆風に巻き込まれた俺は吹っ飛ばされるものの、すぐ近くに草むらがあったことが功を奏したのか、何とか一命を取り留めた。
だが....俺が生き残ったのはどうやら運が良かった方らしく、ついさっきまで植物の種があった場所には爆発に巻き込まれた鼠達だったモノが散らばっていたので
「オェ.......」
それを見た俺が思わず吐きそうになったのは言うまでもない。
地獄絵図とは、まさにこのことなのかもしれない。
そう思いながら、俺は草むらに隠れていると....その鼠達の死体がある場所に数人の男達がやって来た。
ただ、その男達の格好はどこからどう見ても現代社会を生きる冒険者と言ってもおかしくはない格好をしていて、鼠の死体を見て一言
「チッ、
「骨折り損だったな」
まるで彼らの死が無駄だったかのように喋ると、何故かその場に落ちていた宝石のような物を拾った。
その宝石は赤や緑などの色とりどりの色をしていて、大きさ的にはさっきの鼠達と同じ大きさだったので、それを見た俺はそれが鼠達の物だとすぐさま気づくが、それで状況が変わることもなく....そのまま男達を見守っていた。
「まぁ仕方ないよ、ここの階層は初心者向けの場所だし....」
「だな」
「それもそうか」
男達はそんな会話をした後、ある程度宝石を回収し終わったのか....そこから立ち去っていった。
.....まるで、最初から鼠達の死が無かったかのように。
その男達を見た俺は何故かは分からないものの、言葉に言えない恐怖を感じた。
それはまるで自分よりも格上の生物に出会ったような感覚で、自分自身が格下であるということを理解せざるを得ない程の恐怖だった。
嫌だ、死にたくない。
それは生物としての本能が奴らが危険だと警告していて、いつしか胸の中がそんな思いで溢れかえっていた俺は、さっきの出来事を見たのが原因で震えている足を無理矢理動かし、その場から走り去った。
逃げろ逃げろ逃げろ。
奴らに捕まりたくない。
奴らに殺されたくない。
その一心で走り続けた俺が辿り着いたのは.....水飲み場のような小さな池で、さっきから何も飲んでいなかったので喉がカラカラになっていた俺は、その池に顔を近づけた。
そして、その池に映ったのは....さっきの鼠達と瓜二つな姿をした俺の姿で、まさかと思った俺は夢かと思って頬をつねるが、普通に痛みを感じたのでそれが夢ではないのだと実感すると、俺はさっきの出来事が現実であることを認めざるを得なかった。
間違いない。
俺は....あの日、地震で死んだ時に人間からネズミに転生したんだ。
だからこそ、あの鼠達は俺を敵ではなく仲間だと認識していた。
そう思うと何故だか少しだけ心が苦しいような感覚に襲われた俺は、気を紛らわせるように池の水を飲むと、池の近くにあった木の根の下にある穴に入り、瞼を閉じた。
.....この現実が、夢と言う名の非現実であるということを信じて。
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