19.こういうのが好きなんでしょ?♡

 しゅりと切松の会話に気を取られていると、結夏の腕がまるで獲物を狙う蛇の如くするりと伸びてきた。


 ジョーカーの位置を悟られないよう身構えるも、結夏はいとも簡単に真ん中のカードを抜き取って見せた。


「ジョーカーの位置なんて、手札を見た時の表情でバレバレよ? ざぁ〜こ♡」


 結夏はカードをペアで捨て、憎たらしい笑みを浮かべてみせる。


「……それは何のつもりだ?」


「メスガキに決まっているじゃない。あなた、強者に罵られるのがお好きなんでしょう?」


 紅真は舌打ちをし、結夏からカードを引いた。


(最悪の展開だが……。まどろっこしい読み合いが減っただけだ)


 紅真は結夏の手札からさっさとカードを抜きとる。


 ここで、結夏の引く番。

 ジョーカーを引かなければペアが揃い、紅真が結夏の残った1枚を引くことになる。


 完全に不利状況。けれど、裏を返せば。


「ここでゆい……かいちょが死神さんを引けば、こうまがかなり有利になる」


「そ、そりゃそうだろーよ。でもなんで?」


「こうまがかいちょと同じ確率で引く番になるから」


「ん……そうか! 雨粒さんがジョーカーを引けば、次に紅真が引く番の雨粒さんの手札も紅真と同じで3枚になる。つまり、そういうことだな!」


「かえで。わかりづらい」


「エッ!? 名前呼び!?」


 吃驚してその場をうろうろと歩き回る切松をよそに、二人の勝負は進展を見せる。


 紅真は自身の手札をシャッフルし、紅真から見て右端の1枚を目立つように少し高く持った。


「コイツがジョーカーだ。アンタは残りの2枚、どちらかを引けば勝てる」


「……挑発しているつもりかしら?」


「アンタの方こそ、バレバレなんだよ」


(ただリベンジがしたいだけなら、期末テストで俺に勝てばいい。中間テストの不正を疑っているなら尚更。だがそれをしない。それどころか最低限の人数しかいない空間に誘い込み、公平を謳ってはいたが"トランプゲーム"という土俵を用意してきている。例え勝負に負けようと、俺や切松には噂を流すような相手がいない。つまりは……)


 笑みをこぼす紅真を見て、しゅりは思案する。


 一見すると、誰もがやるような苦し紛れの小細工。

 かいちょが死神さんを引く確率もかわらない。


 でも、こうまは"目立つ1枚を引くか引かないか"で二分の一の読み合いを仕掛けてる……けど。ゆいかならきっと……。


((リスクは絶対に犯さない))


 しゅりと紅真は同じ結論に至った。

 しかしスパイスはそこだけに留まらない。

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