4月1日に投稿された動画

2026年の4月1日、インターネット配信サイト上において、一人のアメリカ人女性配信者がタイトル未設定の生放送を開始した。女性配信者はオカルト系の動画メインコンテンツとし、特に占いに関するものが大半を占めていた。登録者60万人を超える人気配信者だったが、一年ほど前に動画の投稿がストップし、SNSも一切更新されなくなった。したがって、約一年ぶりに予告なく投稿された4月1日の動画は、さほど注目を集めたわけではなかった。

しかし、その内容が極めてショッキングであったこと、そして、それゆえに即座に運営から削除されたこともあり、放送後に一部メディアで取り上げられた。


以下、投稿動画の書き起こしである。



──────────────────




【00:00–00:10】

画面はほぼ暗闇。風にそよぐ草のざわめきと、足音が断続的に響く。

スマホは手持ちのまま地面すれすれを水平移動し、草むらの黒い塊へと向かっていく。


【00:11–00:25】

カメラのオートフォーカスがかすかに震え、闇の中で輪郭が浮かび上がる。

前足を折りたたむようにうずくまる小型の四足獣。背中越しに見える体毛の質感は仔牛に似ている。仔牛らしき小型四足獣はゆっくりとこちらへ振り向く。

顔は人間の赤子のように柔らかな肌質、しかし瞳孔は暗闇で銀色に光っている。穏やかな声がスマホのマイクを通して漏れる。


仔牛(かすれ声で):“Doomsday has come…

         This is what happens to everybody”


直後、背中を丸め、そのまま前脚から崩れ落ちる。


【00:26–00:40】


衝撃でカメラが激しく揺れ、画角が後方へ大きくパン。

暗闇の縁に浮かぶ人影。懐中電灯の灯りが揺らめき、やっと見えるのは、肩を震わせる細身の少女の背中。


撮影者(嗚咽混じりに):「私は……アーシュラ。

      ユリシーズ・N・オーウェンの娘です」


【00:41–01:00】


アーシュラ:「この仔牛は、私の“子”──

     私は敬虔なキリスト教徒で、

     男性と関係を持ったことは一度もない。

     だけど……もう、間に合わないの。

     お父さん、ごめんなさい。

     もう、手遅れになってしまったの……」


言葉の合間に嗚咽が漏れ、スマホを持つ手が小刻みに震える。背後の床には血痕が点在している。


【01:01–01:15】


アーシュラ:「この動画を……ネットにアップします。

     もう手遅れかもしれないけど、

     どこかで、誰かが──

     何かに繋げられる可能性は、

     ゼロじゃないと思うから……」


スマホの録画インジケーターだけが赤く点灯し、アーシュラの声は次第に遠のいていく。


【01:16】

録画ランプの赤い光が弱まり、やがて電源オフのチャイムが一度響いて静寂。




──────────────────


当該動画は投稿日が4月1日であったこともあり、よくできたフェイク動画として好事家から高評価を集めた。

後日、彼女が本当にアーシュラ・N・オーウェンであることが明らかになり、報道は過熱した。

地元警察の発表によると、アーシュラはその後に衰弱死したとのこと。なお、映像内の未確認生物については、「当局からの言及は控える」とだけ述べている。

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