第21話 ふくらむ生地、腐る経済
イースト菌を探すのは、予想以上に骨が折れた。
最初は小麦粉と水を混ぜて寝かせてみたが、何日経っても変化がない。
最終的にカビが生えた。
次に、暖かい川辺に置いてみる。
今度は腐った。
「……うーん……」
風通しを変え、気温を変え、容器を変え、あらゆる条件を試した。
二十度目の挑戦を超えてからはもう数えていない。
何十度目の挑戦かわからないくらいで、ふと生地が僅かに膨らんだ。
表面に気泡が生まれ、独特の香りが立った。
「これだ……!」
生地をそっとすくい、焼き台に載せる。
緊張して、焼き上がりを見守った。
生地はふっくらと膨らみ、香ばしい皮が割れて中が覗いた。
「……やっと……!」
手でちぎり、指先で確かめる。
やわらかい。
これだ。
これがパンだ。
村の者たちに分けると、皆目を見開いて驚いた。
口に運んだ瞬間、歓声が上がった。
「……まぁ、かつ丼の一部でしかないんだが」
ふと冷めた気持ちも湧いたが、それでも達成感はあった。
イースト菌が上手く繁殖する条件が見つかりパンが作れる。
これで、ようやくパン粉も作れる。
だが、安心したのも束の間だった。
パン作りに熱中しているあいだに、また村で大きな問題が起きていた。
貨幣が流通し、経済が活性化したのはいい。
しかし、人々は便利な貨を蓄え始めた。
物よりも小さくて隠せるアルミ貨は、すぐに窃盗の標的になった。
さらに問題は、貨幣そのものが簡単に作れることだった。
「……贋金か……」
アルミは余っている。
鋳型も技術もある。
数人の集団が夜に密造し、贋金をばらまいた。
結果、通貨の信用が揺らぎ、物の値が上がり始めていた。
「なんだよも〜〜〜〜!」
広場で呻きながら頭を抱える。
確かに戒律には贋金について触れてないけど。
「余計なことばっかして……!!」
空を仰いで深く息を吐いた。
かつ丼を食べたいだけなのに。
どうして人類は、こうもめんどくさいのか。
焚き火がパチリと弾けた。
――贋金の取り締まり。
――新たな刑罰制度。
――信用を支える仕組み。
また、やることが増えた。
とわ子は諦めたように腰を下ろし、燃える薪を見つめた。
「……でも、やるしかないんだよなぁ……」
かつ丼のために。
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