第3話 告白

 改めて真由美の気持ちを聞かされ、かなり気持ちが落ち込んでいた。しかし、今更そんな話を眞子がしてくると言う事は、やはり母親の復讐?などと酷いことさえ考えてしまった。

「秀之さん。」と言ってまっすぐに見つめて来る。消沈した表情で眞子に向き直り、秀之も見つめ返した。

「勘違いしてるでしょ?」

「えっ?」

「きっと、私が想っている事と反対のことを思っている表情だわ。」

意味が解らなかった。

「最近、私の事目で追っている瞬間が増えてるでしょ?」

図星だった。40代の眞子と暮らしていれば、そりゃ、目のやり場に困る瞬間なんて幾らでもある。しかし、我が子と同年代の眞子をそんな目で見てはいけないと、無意識に自制した。

がしかし、わざとする様な節があり、戸惑いは隠せなかった。65歳の秀之にとっては、結構刺激が強かったが、まだ、男として枯れて居ない自分を再発見した様な気持ちで、眞子を見つめている時があった。

「ごめん、そんなつもりで居たわけではないけど、気分を害してしまったよね。」

「だから、違うって。秀之さんは全然気づいて居ないけれど、世間でいうイケオジで、結構女性の心を掴んでしまう威力があるんだよ。」

「俺が?こんな爺さん、特に若い君なんかには鬱陶しい存在じゃないのか?」

「女性の恋愛感情に年齢は全くと言って関係ないの。ビックリするようなイケメンより、いい感じで歳を重ねて、穏やかで、イケオジが若い子に人気なのよ。まして、秀之さんは清潔感あるし、一人暮らしして居たから、家事の大変さもわかって居て、尚且つ、なんでも自分で出来る男性は素敵なの。」

「ふうん、そんな物か。」

「私が、一緒に住みたいと思ったのは、確かに最初は母のことがきっかけだった訳だけれど、私、本気で秀之さんの事好きになって居たの。決定的だったのは、あなたが離婚したこと。こんな素敵な人が他の人のご主人だなんて、とても残念だったけど、知り合いを通じてあなたが離婚したって。」

「えっつ?どこからそんな情報?」

すると、少しにやけた感じで眞子が言った。

「秀之さんの会社の総務に、伊藤さん、伊藤ゆりさんていらっしゃるでしょ?彼女私のファンなんです。私の個展を見に来てくれて、意気投合。」

その後、偶然僕が勤めている会社の総務にいることがわかり、母親のことや、自分のことを話す様な仲になって行くうちに、僕が離婚したことを聞かされた。さらに、眞子が気になる存在だと言うと、僕の気を引くために僕の引っ越した近所に個展のポスターを仕掛けたらしい。しかも、その立案者は伊藤ゆりさんらしい。

「驚いた。」と呟いたが、その後の言葉が出てこない。

眞子はさらにニヤけて「こう見えても、私、母ゆずりで結構いけるでしょ?」

そう言いながら眞子は椅子から立ち上がり、僕の座っている横に立った。そして、僕の手を取り、彼女の左胸へと持って行く。

「わかる?私の心臓の鼓動が、早く、強くなっていること。こんなこと、とても恥ずかしくて普通なら、絶対出来ないんだけれど、1ヶ月あなたと過ごして見てわかったの。やっぱり私はあなたが好き。もちろん男性として。」そう言いながら更に眞子は僕の肩に頭を乗せつぶやく「ようやくわかったの。母の気持ち。こんなに穏やかで、安心させてくれる空気を纏っていたら、そりゃ忘れられなくなるって。」

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