第38話 V対抗・バーチャルカップで美少女絡み放題!!

 その日、"V対抗・バーチャルカップ"はかつてない注目を集めていた。


 日本全国、いや海外のファンまでもが息を呑んで配信を見守る中、数千万人の視聴者が集まったバーチャルアリーナには、二大VTuber事務所のエースたちが集結していた。

 ホロサンジ、そしてニジライブ。

 まさにVの頂点を賭けた戦いの開幕だった。


 ステージ中央。

 重々しいファンファーレが鳴り響き、スモークの中からふたりの男ー山郷と角畑が現れた。


 黒と白、それぞれのスーツに身を包んだふたりは、互いに軽く頷き合い、マイクを手に取った。


「皆さま、本日はこの場にお集まりいただき、誠にありがとうございます」

 山郷の低く落ち着いた声が、会場の空気を静かに引き締めた。


「今日、我々は新たな一歩を踏み出します。

 過去、数多くの軋轢があったこの業界に、対話と共闘の風を吹き込むために――」


 そして角畑が続ける。


「ここにいる全タレントが、これからの未来を築く者たちです。

 我々運営もまた、彼らを縛るのではなく、支える存在であるべきだと、私は考えています」


 静寂が広がった。

 やがて、その中に、小さな拍手が生まれた。

 それはやがて波のように広がり、やがて爆発的な歓声となってバーチャルアリーナを満たした。


 ステージ袖からその様子を見つめていたVTuberたち――夜街、闇ノ、そしてあんこたち――は、どこか信じられないものを見るような表情を浮かべていた。


「……あのふたりが、ここまで言うとはね」

 夜街がぽつりと呟き、うなずいた。


 そして、張り詰めた空気を一瞬でぶち壊したのは、画面右からド派手に転げ落ちるように飛び出してきた司会者――ポンコツみこだった。


「にゃっほ〜〜〜〜い!! みこだにぇ!!!」

 叫びながら勢い余ってモニターのワイヤーに足を引っ掛けて転倒し、爆音とともにBGMが途切れた。


「ぴぎゃあっ!……いたたた……」

 そんな彼女の登場に、画面上のコメント欄が一瞬で「wwwww」で埋め尽くされた。


「……し、司会の……みこちだにぇ……!」

 自らを立て直しながら無理やり笑顔を作る彼女を見て、硬かった空気は一気に和らぎ、会場には和やかな笑いが広がった。


「ではではっ! ゲーム大会の開始前に〜、スペシャルな新人VTuberのデビュー戦があるにぇっ!」


 そう言って画面が切り替わった。


 まず紹介されたのは――

 ニジライブから、秘密結社Assax所属・鯱鉾クロマル!


 ドス黒い和風の装束に身を包み、肩には金属の装飾が光った。

 だがその顔は、キリッとした目元に、意外なほど愛嬌のある口元。


(お、お披露目か……!)

 裏で見守っていたあんこは、ついにあのシャチ女がステージに立つその姿に、こぶしを握っていた。


「――鯱鉾クロマル、参上ですわ。悪しき心、叩き割らせていただきます」


 次いで紹介されたのは、ホロサンジが送り出す新人。

 ホロの猛獣(でもかわいい)、ランラン!


 ピンク色の耳とふさふさのしっぽ、つぶらな瞳のキツネ型ケモ耳ケモーノが、やや緊張気味に登場。


「ら、ランランです……う、うぅ……誠心誠意、がんばらせていただきます……」


「さあ! ふたりの新人による第一競技はこれだにぇっ!」


\ ドン!! /


【かぶって叩いてじゃんけんポン!】


 異様な盛り上がりを見せる観客。

 新人ふたりはステージ中央に立ち、ヘルメットとハンマーを持った。


「じゃ〜〜〜んけ〜〜〜ん……ポン!」


 勝負は一瞬だった。

 クロマルが俊敏な動きでハンマーを振り下ろし、ヘルメットでかろうじて防御しようとしたが、間に合わないランラン。

 隠そうとしても隠しきれない、伝説の暗殺者の風格――


「勝者! クロマルーーー!!!」


 しかし、負けたランランはその場で涙目。

「あぅぅ……はじめての勝負で……負けてしまいました……無念千万です…」


 コメント欄が一気に湧いた。

《ランランがんばった!》《クロマル強すぎ!》《かわいいで死ぬ》《ランラン守りたい……》《ランランの語彙力……でも好き》


 その可愛らしさと必死さで、ランランは敗北にもかかわらず多くのファンの心を掴んだようだった。


 バーチャルカップの幕開けは、波乱と笑い、そして未来への希望に満ちた一幕で始まったのだった。



 それから、三時間が過ぎ――

 白熱したバトルと新星たちの華やかな活躍により、観客たちは最初からクライマックスのようなテンションを保ち続けていた。


 第二競技まで、笑いあり、涙あり、そして時折ガチのゲームプレイもあり。

 配信者たちによるチーム制バトルロワイヤルや、お絵描き伝言ゲーム"Vピクトセンス選手権"では、ポンコツみこの画力がまたも伝説を更新し、コメント欄は爆発的な「草」に埋もれていた。


 だが、そんな空気が、あるアナウンスによって一転した。


「さぁ〜〜て、お待たせしましたにぇ!!!」

 ポンコツみこが高らかに叫ぶ。


「次の競技は……第三競技!

 ついに奴らがやってくるにぇ……そう、ニジライブが誇る、黒き影! “秘密結社Assax”の登場だにぇ!!!」


\ ドンッ!! /

 ステージ照明が一瞬にして落ち、アリーナは暗転した。


 次の瞬間――巨大なスクリーンに、漆黒の六芒星と逆十字が描かれた、謎めいたロゴが映し出された。

 背筋が凍るようなダークなBGMが流れ出し、観客席からは悲鳴と歓声が入り混じったどよめきが沸き起こった。


「来たぞ……あの連中が……」

「Assaxだ! ニジライブの秘密兵器……!」


 ざわめくコメント欄。そして、画面が切り替わった。


 ステージ中央、濃密なスモークが渦を巻く中、黒いマントを翻して、あんこたちが登場した。

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