合同パーティー


〔土竜の盾〕の四人とグーダンを潜り、三周目で20階層まで踏破することが出来ました。本人たちの宣言通り前衛としての火力はあったのですが、力業というか何というか……。


「お前らもうちょっと考えて動けよ。これはレスだけじゃ大変なのも仕方がなさ過ぎるぞ」

「フィル、分かってくれて嬉しいぞ。こいつら何回言っても敵を見つけたら駆け寄っていくんだよ」

「けどアイリスの回復って凄いね! 私魔法の回復って初めて受けたけど、下手な回復薬よりもずっと効果が高いんだもん。本当なら回復薬代くらいは支払うべきなのに本当に道中の魔石と魔力回復薬だけでいいの?」

「今回は合同パーティーだから、本来は報酬も貰うべきじゃないと思うんだけどね……」

「それは駄目よ、だって私たちが下に行けなかった理由も解決してもらってたし、毎日美味しいスープが飲めたし、お肉だって私たちが焼くよりもずっと美味しかったし、やってもらってばっかりだったもの」


 阿吽の呼吸で連携が取れているから何とかなっていたようなものの、誰かが敵の視線を引き寄せるなどの連携ではなく、複数匹が来た時など前後左右にさっと分かれて攻撃するという感じの連携なだけなので、敵からの攻撃があれば全員それなりに怪我をしますし、ばらけて攻撃するものだからレスさんは攻撃魔法ではなく補助魔法でサポートに回っているという感じでした。


 私が11階で怪我をしたのは、前方のオークとコボルトに気を取られていたせいで、木の上から噛みつきに来たスネークの攻撃を避けきれずに頬に切傷が出来たくらいだったのですが、レスさん以外は毎回満身創痍と言える感じの怪我をしていたのです。

 回復薬は勿体ないので、切傷などは薬草をすりつぶして貼り付けるという中々野性味溢れる治療方法を取っており、見かねて回復魔法を使うようになりました。

 同じくフィルも影魔法で敵の動きを拘束して、彼らの動きをサポートするようになった事で15階以降を安全に進むことが出来るようになりました。


 そして彼らは料理が出来ないらしく、ドロップアイテムの肉も串に刺してただ焼くだけという豪快なやり方でしたので、二度目の挑戦の際には塩などの簡易調味料を購入することを勧めたくらいです。

 一度目は彼らの戦い方を見て私たちとの連携を考えながら、二度目は15階まで進んでこの先も行けることを確認してから装備や回復薬など準備出来るものをしっかり整え、三度目の挑戦で踏破が出来たという感じです。


「アン達もスープくらいは作れるようになっておいた方が良いと思うわ」

「えぇ~、荷物が増えるし、干し肉だけでも何とかなってるし、味付けとか……」


 料理が苦手らしい二人はごにょごにょと言い訳をし始めるけど、私だってスープと肉を焼く以外は出来ないし、ダンジョンでそれ以上は出来ないだろうと思ってる。


「荷物の事はこの後ゲルシイに行ったら解決だな。俺たちも前回は20階層までしか潜れなかったけど、これを手に入れることが出来たからな。

 前回は深層階を目指さなかったけど、お前らも装備が整えば行けそうだと思うんだよな。グーダンで熊との戦いも慣れたし、今回は時間制限だってない。テリューはどう思う?」

「まあ俺たちもマジックバッグは増やしたいと思ってたし、ポイントも貯まったからランクも上げられる。あとフィル達が護衛依頼を受けたら、そっちも初級にランクアップだろう? 上級ダンジョンでもCランクなら銀の初級以上で入れるんだもんな」


 フィルとテリューの意見が重なり、ゲルシイに行くことが決まったようです。

 最初は二人だけで入ったグーダンのダンジョン、まさかこんなに何度も潜ることになるとは思っていなかったけれど、終わってみれば素材と回復薬などの販売で貯金が数倍に増え、〔土竜の盾〕という友人も出来ました。


 四か月過ごしたグーダンの街(そのほとんどはダンジョン内だったけれど)からゲルシイに向かうには、いくつかの町と村を経由することとなりそうです。

 ギルドで確認すれば護衛依頼も数件ありました。

 川船の町ルパインに向かう馬車は乗車率が高いこともあり、先日の〔煉獄の砦〕のような上級パーティーが乗り込み護衛をしてくれることもある為募集はありません。

 ですがウィスラー侯爵領方面、プレーサマ辺境伯領方面の馬車は数件の募集があり、ウイスラー侯爵領地との境界の町が目的地で銀ランク以上という指定だけの馬車の護衛依頼を受けました。


 山脈に近い街道を走るという事で魔獣の襲撃を警戒していましたが、魔獣除け魔道具のお陰もあって然程大変な事もなく無事に町までの護衛を達成することも出来ました。

 ゲルシイの街までは更に三週間程歩きましたが、ダンジョンでの連携を練習するためのよい時間となりました。

 テリューは少し厚みのある剣を使っていましたが、グーダン踏破を機に厚みと大きさを増した両手剣に変更したようです。盾役不在のパーティーでしたが、これでテリューが盾役も出来るようにということで、道中は主にその練習となりました。



 時間停止のないマジックバッグですので、魔獣素材は魔石や牙などの腐らないアイテムだけを回収し、肉は食事で消費、毛皮は勿体ないですが焼却処分をしています。

 ダンジョンのドロップ品の場合は毛皮なども処理されているので持ち歩けるのですが、自分たちで解体する森の魔獣の場合は腐ってしまいますからね。

 そうして三週間後の水の三か月目、ゲルシイの街に到着しました。


「アイリス、フィル! 会いたかったわ!」

「まさかこんなに早く再会できるとは思ってなかったよ、二人も久しぶりだね」


 ゲルシイの街で再会したのはオトマンとネリアでした。グーダンを出発する時点で連絡をしていたので、夏の長期連休に一緒に潜る約束をしたのです。


「テリュー、こちらは私たちの同級生でネリアとオトマンよ。二人も私たちと同じ聖と闇の魔法を使えるわ。オトマン、ネリア、彼らが手紙にも書いていた〔土竜の盾〕の皆よ」

「リーダーのテリューだ。サブリーダーのレス、アンとシエナの四人で〔土竜の盾〕というパーティーを組んでいる」


 彼らにもネリア達の事は話していて、今回一緒に潜ることを提案していたのでお互いに自己紹介をしていきます。どちらかと言えば私たち四人は魔法を使うことが多かったのですが、これでフィルは前衛に集中できるようになるだろうし、私とネリアの二人で回復が出来るなら、かなり楽に潜れるのではないかと思います。


「魔導学園って聖属性持ちがそんなにいるの? お貴族様って凄いのね~」

「いや、僕らがいた五年間でも僕たち以外にいたかは知らないよ。隠したがる人が多いし、聖属性持ちの普通の子は教会に行ってたみたいだしね」

「そうそう、わたしとアイリスは最初から亡命希望だったから大分特殊なのよ。けど、グーダンで聖属性を隠さないで動けるなら大分行けそうだよね」


 アンが希少属性持ちが四人も揃っている事に驚いているけれど、希少だったからこそこのメンバーで団結できるようになったのだと伝えれば納得してくれました。

 さあ、準備を整えたらゲルシイに潜りますよ!


  

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