第24話

 次の日、フィアルカは指令を受け取った。ジニアもその紙を覗き込む。

「イア、アルテミスさんについていくことになったのね…相談してよかったわね。」

ジニアの声に、フィアルカは微笑んで頷いた。経験を積めば怒りも制御できるようになるのではないかという、アルテミスとアイリスの配慮だ。今まで騎士見習いは、功績を立てないと騎士になれなかったが、ジニアとフィアルカは、五日後の任命式で騎士になることができる。功績というよりも、二人の力量故だ。魔法騎士団の中ではすでに、二人は騎士となっても申し分ないほどに強いのだ。

「騎士としての初任務だ。アルテミスさんは隊長と呼ばなければならないらしい。ジニアとは、合同にならない限りこの部屋でしか会わないということになるな。」

そっか、とジニアは小さくつぶやいた。アルテミスとアイリスの指令に、文句はない。しかし、寂しいものは寂しいのだ。

「氷属団長の任務は、基本的には増援要請対応と重要依頼対応でしょう?そんなに会えないものなの?」

ジニアの疑問に、フィアルカはあぁ、とつぶやいた。そしてぱっと計算して疑問の答えとともに口にする。

「重要依頼は一日に一人につき平均一つか二つが基本、増援要請は数日に一つ。重要依頼の目的地が遠方にあることもあるから、常に万全な状態でいなければならない。一人が倒す魔物の数は、重要依頼だけに絞っても一年で平均して約七百五十体。増援要請は重要依頼がない人、または終わらせてから向かう…少なくとも三日に一日は休日を取れるようにしてあるそうだ。」

フィアルカの早口の説明が終わった頃には、ジニアの目は遠くを見ていた。フィアルカも、今後の忙しさに話すだけで疲れた目をしている。

「え…そっちはそんなに忙しいのね…こっちは全然よ。増援要請対応と普通の依頼がたまにあるくらい。炎属性は人数が多いから、かなり余裕があるのよ。氷属性は、その予定の多さから察するに、半分くらいしかいないのよね。」

ジニアの言葉に、フィアルカはため息をついた。基本的には二人で一組だから、余計に一人あたりの予定がどうしても多くなる。

「いや、人数はほぼ同じだ。こっちは二人で一組だから、どうしても一人あたりは多くなる。確か、炎属隊の騎士はある程度の功績を立てれば単独任務が多かったはず。もちろん、見習いや騎士になったばかりの人は隊長とか、上官と行動しなければならない。だから、当然シフトに余裕が出てくるんだ。」

なるほど、とジニアは頷いた。そしてふと宙を見ると、ふわりと微笑む。フィアルカはなぜ微笑んだのか不思議に思ったが、とりあえずはなにも言わなかった。

 炎属隊、氷属隊、風属隊、水属隊、土属隊の隊長が全騎士と見習いの前に立っている。全員背筋を伸ばし、微動だにしない。すっと氷属隊の隊長、アルテミスが一歩前に出る。

「騎士見習い、フィアルカ=ヴァイオレットを、氷属隊騎士へと任命する。」

嬉しさを押し込めて、あくまで真面目にヴァイオレットは敬礼した。

「はい!」

アルテミスが元の位置に戻ってから腕を下ろすと、服にあたってパンっと小気味良い音がした。アイリスも一歩出る。

「騎士見習い、ジニア=ツイーディアを、炎属隊騎士へと任命する。」

ジニアもぱっと敬礼をして、フィアルカをちらりと見てウィンクした。

「はい!」

それでも真面目な声が出るのだから、大したものだ。そしてアイリスが下がると、今度は殉職者に黙祷を捧げる。みんなが黙って頭をたれ、手を合わせて仲間の死を悼む。普段は死を悼む暇なんてないから、みんなこの日に悼み、そして日常生活に戻る。それが、常だ。

―ユルサナイ。

小さく声が聞こえて、フィアルカは眉をひそめた。どうやら、怒りでなくともこの声はするらしい。魔物は目の前にいないのに。

―静かにしろ。僕は今、お前を求めていない。お前の出る幕ではない。

心のなかで、強く拒絶する。しかし、声はただ小さくなっただけで、ずっとつぶやいている。

―ユルサナイ。ユルサナイ。ユルサナイ。

―うるさい、なにを許さないんだ。他のことを言ってくれ。

拒絶しても、理由を聞いても、ずっと言葉を変えずにつぶやく。フィアルカはそっと眉をひそめて、その声から意識をそらした。この声を無視する技術も必要そうだ。

「やめ。解散。」

事務的な声は、アイリスのものだ。今年は、炎属隊員の命が最も多く散っていった。彼はすべての隊員の顔を、名前を、覚えている。それでもこんな声が出せるのは、切り替えが素早いからだ。そうしないと、心が折れてしまう。

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