第16話
気がつくと、周りに魔物はいなくなっていた。血だけが地面を染めている。転がっているのは、仲間だろうか。そのうちの一つに銀髪が見えて、フィアルカはそっと目を伏せた。その他の仲間は遠くにいて、フィアルカは馬を操って彼らに近づいていった。そして、十分近づいたとき、その瞳の恐怖に気づいた。
「皆さん、どうされましたか?」
答えはなんとなくわかっているのに、思わず聞いてしまった。聞かなければよかったと、その直後に後悔した。
「化け物だ!」
ジーリッシュの大きな声が聞こえて、フィアルカは身をすくませた。それに続いて、ルピナスとペステが囃し立てる。
「化け物だ! 化け物だ!」
「あいつおかしいぞ! 化け物!」
手を見れば、なにかの血で染まっていた。さらに馬に、青ではない、なにか変わった色が見えた気がしてよく見ると、いつの間にか朱に染まっていて。パラパラと消えていってようやく、それが何かがわかった。
「あ…」
魔物を大量に倒したのだと、直感的に理解した。ただ、そんな体力は自分にはないはずで。怒りがそうさせたのだろうか。何も覚えていない自分に恐怖した。
「今日は、撤退だ。近辺にもう魔物はいない。市民を守った仲間に、敬礼!」
馬から飛び降りて、皆戦いに散った仲間たちに敬礼をした。フィアルカもそれにならった。横ではジニアがじっと下を見て肩を落としている。親しくしていた者が、あの中にいたのだろう。
それから撤退を始めた炎・氷属隊の中で、フィアルカは孤立していた。自らのしていたことが、魔物相手に戦っている騎士たちにも化け物だと言われるほどのことだったのだと、自分に恐怖していた。
『今日、最も多くの魔物を倒したのはお前だ。頑張ったな。』
撤退前にアルテミスに言われた言葉が、脳裏をよぎる。それを全く覚えていないということは、言い出せなかった。ジニアにも近づけなかった。もし自分が彼女にも怖がられていたら、という恐れが孤独を上回った。フィアルカは自分のことで精一杯で、ジニアが悲しそうな目で彼女を見ていたことにも、気づかなかった。
フィアルカは部屋に帰っても、ジニアに話しかけなかった。彼女の顔も見れず、風呂の用意がされていることを確認して中に入り、ドアを閉めた。内側からは鍵がかけられ、ジニアはその間、風呂に入ることはできなかった。
バシャバシャと何度も手を洗う。この手に血がついていたのだと思うと、何度洗ってもその色が落ちる気がしなかった。体中に飛び散っていた返り血も今は落ちているが、生臭さが未だに残っている気がして手で何度も擦る。
『化け物…』
その言葉が何度も脳裏をよぎる。あの声は、いつも休憩時間に優しくしてもらっていた騎士のものだった。自分の行為がどれほど残虐だったのか、覚えていないだけに恐怖が込み上げてくる。頭から水をかぶって、フィアルカは唇を噛んだ。いくら流しても、あの血の匂いが体に染み付いて取れないような気がした。
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