第11話
魔法の訓練は、あまり辛くなかった。辛いものといえば襲ってくる睡魔と疲労感、そして筋肉痛の予兆だけだ…本当はかなり辛かったかもしれない。
「ふぅん。で、私よりも先に寝ているということね。」
アルテミスは鬼だったが、上には上がいるものだ。怒っているジニアは、まさに魔王のような黒黒としたオーラを全身にまとわりつかせていた。
「あ、う、その、ジニア…」
普段は仏頂面のフィアルカも、これには申し訳ない、と体を縮こませている。
「いえ、別に私はフィアルカが先に寝たことを怒っているというわけではないのよ。約束を守れる確証はない、と言っていましたし。でも…」
怒りの頂点が来る予感に、フィアルカはさらに体を小さくした。ジニアはすぅっと大きく息を吸った。
「泥をたくさん服につけたままでお風呂にも入らずにベッドに直行して寝るなんていう愚行を犯す人がどこにいますか!」
ジニアの怒りの焦点はフィアルカが予想していたものとは少しズレていて、服に泥がついた状態でベッドに入ったことに対しての怒りが最も大きいらしい。フィアルカは僅かな時間の睡眠により回復したなけなしの体力で懸命にそれを聞いていた。しかし再び寝るのも時間の問題だ。
「ふぅ。これは洗っておきますから、今日はお風呂に入ってすぐに寝てちょうだい。」
一瞬で収まったジニアの怒りに、フィアルカはほっとした。ジニアもそれは見逃してくれるらしく、すたすたと風呂に向かっていった。
「疲れているでしょうから、今日は私が洗ってあげるわ。」
え、というフィアルカの声は、どうやらジニアには届かなかったらしい。にこやかに笑いながら、ジニアはフィアルカを風呂の中に連れて行って体中を洗った。フィアルカの目が死んだ魚のようになったのに、ジニアは風呂を上がった後にやっと気がついた。それを意に介せず、操り人形のようにベッドに入る。
泥のように眠っていたはずのフィアルカはふっと起きて、首を傾げた。普段はまだ起きないのに、なぜか起きてしまったのだ。ベッドから降りようとして、数秒固まる。
「筋肉痛が、ない。ジニア…じゃないか。もっと遠くからかけられた…?」
どうやら起きたのは治癒魔法をかけられたからだと気づいたのはいいが、誰にかけられたのかもわからず、フィアルカはただ首を傾げた。ふと思い立って荷物の中の箱を取り出す。中身が何かは分からないが捨てられずに物心付く前から持っていたものだ。それを見ていると、なんだか落ち着くのには理由があるのだろうか。魔法で何重にも封がされており、フィアルカはそれを開けようとは思えなかった。母が作ったものだと昔聞いたことがあるが、それも本当かどうか怪しいところだ。
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