第5話
「あなた、意外と魔法を扱えるのね。氷属性なの?」
隊長室までの道のりを歩いていると、不意にジニアがフィアルカに話しかけた。フィアルカは相変わらずの仏頂面でただ頷く。
「氷属性…きっと氷属隊ね。隊長は真面目で頭が硬いらしいから頑張ってね?」
なぜそんなに自分に構うのかわからないまま、フィアルカはとりあえず再び頷いた。
『ここに入りなさい。私はここまでです。』
二人を案内していた鷲が姿を消し、ジニアとフィアルカは目の前の扉を見た。ジニアはどうやらフィアルカに扉を開けさせたいらしく一歩下がったので、フィアルカは扉に手を伸ばした。コンコンコン、と叩く。
「フィアルカ=ヴァイオレットとジニア=ツイーディアです。」
僅かに間があり、許可の言葉が聞こえたのでフィアルカは扉を開けた。ジニアを先に入らせ、自分は後から入り、扉を閉める。
「君がジニア=ツイーディアでそっちがフィアルカ=ヴァイオレットだね?」
淡い紫色でさらさらの髪の男性がにこやかに聞いた。ジニアは相変わらず微笑み、フィアルカは相変わらずの仏頂面で答える。
「「はい。」」
声が重なったのでジニアは驚いたようだった。しかし誰もそれを意に介せず、話を進める。
「俺はアイリス=アルストロメリア、炎属隊長だよ。よろしくね、ジニア。君は見習いとしてこれから俺のもとについてもらう。」
ジニアは一瞬目を細めてアイリスを見て、満足したのか笑顔で答えた。
「はい。よろしくお願いします。」
フィアルカはその後ろにいた男性を、じっと見つめていた。なにやら気がのらないらしく、顔も暗い。隊服が青いのでおそらく氷属隊、つまりフィアルカの上司だろう。
「アルテミス。俺の後ろに隠れてないでさっさと出てこないと、炎属隊団長の後ろにいるただの不審者扱いされちゃうよ?」
アイリスの言葉に、アルテミスと呼ばれた、フィアルカよりも頭二つ分背が高い男性が渋々と言ったふうに前に出てきた。フィアルカを見て、なぜかホッとしたように表情を緩める。
「アルテミス=ハーデンベルギア、氷属隊長だ。フィアルカ=ヴァイオレット、お前は俺の管理下に入る。命令には逆らうなよ。」
アイリスは、アルテミスの仏頂面に苦笑していた。瞳は青みがかった灰色で、髪は青色だ。顔も整っており、普通に笑っていたらもてるだろう。しかしこの磨きのかかった仏頂面から察するに、常に仏頂面なのかもしれない、とフィアルカは思った。
「はい。よろしくお願いいたします。」
ジニアも、仏頂面が二つ並んでいることに口角がわずかに上がっていることを隠せていない。
「今日は軽く実力を見せてもらうから、荷物を寮に運んで、これから渡す隊服を着て鍛錬場に来て。」
アイリスの言葉に、二人は頷いて地図と隊服を受け取った。バラが腕に刺繍されており、見習いだとわかりやすい。
地図を眺めながら部屋を出ると、フィアルカはもうここがどこなのかわからなくなってしまった。ジニアは苦笑して白く長い指で現在地を指し示す。
「ほら、今はここよ。まぁついていらっしゃい。私はもう道筋を把握したから。」
フィアルカはこくりと頷くと、歩き出したジニアの一歩後ろをついて行った。ジニアはまさか後ろからついてくるとは思っておらず、すぐに後ろを振り向く。
「後ろにいたら、話しにくいでしょう? 隣においでなさいな。」
フィアルカは少し小走りにジニアに近寄り、左側を歩き始めた。二歩分の距離に、ジニアは首を傾げる。今まで知らない人と歩くときでもその間の距離は一歩分だったので、妙に遠く感じられたのだ。
「ずいぶん遠いわね。もう少し近くてもいいのよ?」
フィアルカはぴくりと肩を震わせると、ふるふると首を振った。さらに距離を空けようとする様子に、ジニアは苦笑する。
「わかったわ。なにも言わないから、距離をさらに開けようとするのはやめて頂戴。他の人に迷惑よ?」
フィアルカははっとして斜め後ろに下がり、再びジニアの一歩後ろを歩き始めた。どうやら二人が打ち解けるのにだいぶ時間が掛かりそうである。
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