6.僕は落ち着いている

 辞書を強く抱いているから、

 心臓が二つあるみたいで、

 小さな赤ちゃんを抱いているようだけど、

 今泣かれたらぼくは困ってしまう。


 怖くて、吐きそうだった。

 でも捨てられなかった。


 これを捨てたら、たぶん二度と元に戻れない。


 きみは早くこの辞書を捨てるべき、

 と言うかもしれないがぼくは捨てない。

 もしこれが爆弾で、

 何をしてもぼくを殺すものなら、

 ぼくは絶対に捨てるよ。


 でもこの子が生物だったら? 

 ぼくがこの子を愛していれば、

 きっと健やかに成長すると思う。

 だからこの子を捨ててはいけない。

 倫理的な問題でね。


 それにこの子には、

 ぼくの記憶が詰まっていて、

 それは明朝体の言葉で刻まれていて、

 ゴシック程は目立たないし、

 丸文字ポップ体みたいに可愛いくもない。


 でも確かに残された思い出を秘めていて、

 それは来年の夏になったら全てが分かる気がするの。


 夏でも違う夏、暑さも違う暑さで例えればね、

 ぼくは家にいて縁側でアイスを舐めているとするよ、

 時間は午後の三時かな、アイスを舌に333するの。


 そして家で電話が鳴っているいの。

 222ってね。


 遠くで大型犬が11と吠えるのが聞こえて、

 そしたらどこかの交差点で救急車が、

 000と鳴るかもしれない。


 もう一度言っておくね。


 ぼくは断じて人を殺してはいないし、

 殺そうともしていない。


 でも落ち着きのない、

 オチのない話はさておき、

 その時のぼくは怖かった。

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