夏から帰るとき、ぼくはいないからね

聖心さくら

1.遺体が立っている

 おばあちゃんの遺体が立っている。

 でもそんなことより、辞書に眼玉が生えた。

 これが一番気がかりです。


 おばあちゃんが亡くなったのは一年前、

 ぼくが大学生になって始めての夏休み。


 お父さん、お母さん、おばあちゃん、ぼく、

 この四人で一軒家に住んでいて、

 ぼくが生まれる前におじいちゃんは亡くなったけど、

 八十歳のおばあちゃんは、

 八月三日という真夏のとても暑い日に、

 買い物から帰る途中で、トラックに轢かれたの。


 ビニール袋に夏野菜のトマトを一杯に詰めて、足腰が悪いのにわざわざ遠くの安いスーパーまで行って、それで暑さにやられたのかもしれない、赤信号なのに道路を渡って、それでトラックに轢かれたらしいけど、トラックの運転手が農家さんだったらしくて、一か月後に死んだセミみたいな顔をして、夏野菜が詰まった段ボールを持ってきた。


 お父さんもお母さんも、平気な顔して受け取ったけど、ドアを閉めてから大声で泣き始めて、たぶんその運転手にも聞こえていたと思うけど、それで結局その野菜は誰にも食べられずに腐ってしまって、それでお母さんから聞いたの。


「もうトマトは食べられない」って。


 たぶんね、轢かれたおばあちゃんの身体は、

 新鮮なトマトと混じっていたと思う。


 ぼくはその時、何も知らずにアイスを舐めていたよ。

 この縁側に座ってね。


 でもそんなことより、最近、

 本棚の整理をしていたら、

 小学生の頃に使っていた辞書の様子が変なの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る