第46話 明音編 5
突然だけど自己紹介をさせてもらうよ。
僕の名前は笹倉草太
何処にでもいる普通の男…なんていうテンプレートな名乗りがこれでもかと似合う凡人大学生だ。
オタク趣味でやや根暗という陰キャのマストを完備したような人間で当然として小中高と彼女いない歴と童貞歴が同じな悲しき雄型ヒューマンである。
当然クリスマスは1人さみしく家でゲーム、バレンタインとかは自分自身がコンビニで買ったチョコを虚しくポリっと食べる様な人間だ。
当然こんな性格なので異性の…それも美人なんかと対面してしまえば無自覚に緊張してしまいまともに言葉を発する事すら困難になってしまう。
とりわけ僕等オタクが勝手に陽キャとカテゴライズしてる存在に対しては異性どころか同性に対してもフリーズしてしまう。
まさに蛇に睨まれたカエルのごとき矮小な存在が僕という人間だ。
そんな僕に奇跡が用意されていた。
用意されていた奇跡という名の宝箱に入っていた存在…それは彼女と呼ばれる存在。
そう…恋人だ…。
僕の人生屈折19年目にして奇跡のもと彼女が出来たのだ。
こんなに嬉しい事はない。
今までなら彼女…とゆーか、2次元のキャラを嫁だとか彼女だとか妹あるいは姉だとか言って推して来たがとうとうそんな僕にもリアルな彼女が出来たのだ。
触れるし話も出来る。
まさに奇跡的だね。
「そう君できたよ~♪リクエストの肉じゃが!でもこんなので良かったの?私もっと凝った料理出来るよ?」
「ふふふ!彼女に作って欲しい料理ランキング個人的ナンバーワンが肉じゃがなんです!他にも作って欲しいのありますけどまずは肉じゃがなんですよー!」
「ふふ、童貞くさくてマジ笑える〜♪」
「どど…童貞ちゃうわ!!」
「え?童貞じゃないの…?」
「あ…いえ…童貞です…彼女いない歴イコール年齢です」
「え〜彼女いた事ないの〜さーびし〜♪なら私がそう君の初彼女としてたっくさん可愛がってあげるね〜♪」
「はっはい!ありがとうございます夏芽さん!」
「も〜下の名前で呼んでよ?明音って!でもサーヤ呼びのが萌えるのかな?アロン君は?」
「あはは!」
そう…僕は少し前から急激に伸びだしたVチューバー”暁サーヤ"の中の人、夏芽明音さんとお付き合いしている。
そして今はそんな彼女の家にお呼ばれ中だ。
何でも彼女の両親は仕事で彼女を残して単身赴任中らしく実質彼女の一人暮らし状態だ。
つまりこうして彼女の家に行くというビッグイベントが何の気後れもなく出来れてしまうのだ。
初彼女が出来てこうしてお呼ばれまでされてしまう。
今は間違い無く僕の人生のピークと言っても過言では無いだろう
「あっ、そう君、口についてるよ?ペロっ!」
「ふょおぉっ!?あっ明音さん!?」
「舐め取っただけじゃ〜ん!マジ面白反応〜」
彼女は半年前に当時の彼氏とその他とのハメ撮り映像が流出し、ごく限られた界隈では有名人だ。
つまり非処女どころかビッチに値する人間だ。
でも僕から言わせてもらえばそれが何だと言う話だ。
成人を間近に控えた女性の中でどれだけの女が処女を維持してるというのか?
余っ程のブサイク以外はほぼ卒業してるというのが僕の見解だ。
この見解はそこまで間違った認識ではないと誠に勝手ながら確信している。
そして明音さんは美人だ。
それも異常なレベルで、今は野暮ったい前髪で顔を隠し普段はバストサイズをナーフする特殊なブラで貧乳を装っているが実際はかなりの巨乳なのだ。
どうやってあんなブラでアレだけの肉の塊を押し込めているのかは世界七不思議の一つに数えても良いくらいだが一つ言えるのはナーフブラさんは今日も頑張っておられるのだ、その役目を果たされたその日は我が神棚に祀ろうと思う。
御神体としてね!
……
そもそも元々の素材の良さは相当な物で前髪から覗く彼女の目は切れ長なまつ毛と憂いを帯びた瞳でひと目見てこの人美人だと確信した。
普段から顔を隠す為かマスクをしている彼女だがマスク美人とかそんなレベルではないくらいのパワーがある。
そもそもオタクにとって目隠れ美人など2次元の中だけの存在だと思っていたのでもはや彼女の見た目は僕にとってはご褒美に他ならない。
そんな人とお付き合い出来るのだ、非処女のビッチなどさしたる問題では無い…いや、些事と投げ捨てるどころかご褒美だろう。
美人で隠れ巨乳でエロい女とか天然記念物級だ。
そもそもだ。
何故僕みたいな冴えない男子が彼女のような上物と付き合えたのか…。
それは今から大体一ヶ月程前に遡る必要がある。
あれは僕が"聖剣アロンダイト”という痛いハンドルネームでVチューバーのファンをやっていた頃の話だ。
アニメから声優に、声優から大手Vチューバーへと推しを変え、コメントを読んでもらえないとかそんな感じの理由で大手から個人勢の過疎チャンネルVチューバーに僕は流れた。
もっともガチ恋として推しているVチューバ”暁サーヤ"は僕が自力で見つけたVチューバーではない。
彼女の事は知人から教えられたのだ。
「草太にはこの子の事を見てもらいたいんだ」
「暁サーヤ…この子がなんなの?」
「今度、俺がプロデュース?アドバイザー?何って言えばいいのかな?まぁ…俺のツテ?でデビューする事になるVだよ、見たら色々教えて欲しい。」
「デビューさせるって…お前何者?」
「まぁ…色々と御縁があってね、運が良かったんだよ。」
「ふーん。まぁいいや、了解」
僕にもこの大学内で友人と呼べる存在は少なからずいる、その1人が彼、三浦啓太だ。
彼は以前とある厄介事に巻き込まれていた。
俺達オタクの天敵である陽キャ、その中でも特出したイケメンチャラ男の中岸智也。
奴はこの大学内ではある意味有名人だった。
背が高くて細いがヒョロガリとかではなくしっかりと鍛えていてガッチリした体型の文系タイプのイケメンだ。
眼鏡がよく似合う爽やかスマイルで沢山の女を虜にしていた憎むべき陽キャだ。
そんな陽キャに三浦は弱みを握られその知識を陽キャの養分になる様に利用されていた。
と見せかけて三浦は水面下でコソコソと陽キャに対して罠を仕掛けていたみたいで今や陽キャが買った機材やらコネやらを独占、陽キャは大量の借金を抱える羽目になった。
「人を貶め、利用して成り上がろうとする様な相手に容赦とか必要ないだろ?」
とは三浦の言葉だ。
その結果、彼はなんとVオタの悲願たるVチューバをプロデュースする側という立場を手に入れた。
持つべき者は諸葛孔明並の策士オタクだと痛感した。
彼が手掛けている四人のVチューバーはなかなか好調な滑り出しを実現していて彼も毎日忙しくも楽しそうだ。
そんな中で彼から先の話を振られた訳だ。
暁サーヤの見た目はTHEっギャルと言った出で立ちで正直、初見の印象ではそこまででは無かった。
しかし友人からの頼みだし何となく毎日みて友人に感想を伝えるなんて事を繰り返していた。
そのうちに愛着が湧き、友人から暁サーヤの性格や素の面なんかの話も聞き、彼女のチャンネルやツイ◯ター(✗)にも積極的にコメントを残す様にしていた。
そうしてると彼女はよく僕のコメントを読むだけでなく、コメント返しをしてくれる様になった。
嬉しくなって僕は以前よりももっとコメントするようになり知らずの内に僕はサーヤを推す様になっていた。
そんな時、僕は三浦からサーヤの中の人が夏芽明音という女性だと打ち明けられた。
女性にしては背が高くて目立つが基本猫背で前髪も伸ばしっぱなしで地味な印象を受ける子だった。
あんな子が陽キャで明るい下ネタを話すサーヤの中の人なのかと驚いた。
しかしそのギャップに僕の中の推したいと言う気持ちは更に膨れ上がった。
そうして推し活に精を出す毎日のなか、サーヤは炎上した。
炎上…ネットスラングの一つで配信者や記載者が安易な発言、書き込みをしてそれが読者、視聴者の反感を買い、荒れる事を言う。
配信者がもっとも気を付けなければならない事象の一つだ。
彼女はその地雷を見事踏み抜き炎上した。
元々情緒不安定な所があるのは配信を見ていて何となく察していたがまさにキレやすい現代っ子そのものな印象を受けた。
「いやぁ…荒れに荒れてるね、しかしまさか彼女にあんな落とし穴があったなんて驚きだよ。」
「うさんくせぇ…お前知ってたんじゃねーの?」
「まさか…そこまではしらないよ…実写AVに興味なんてないからね…」
「結局の所、彼女をデビューさせて僕に監視させて何がしたかったの?」
「あの女はあのクソ陽キャの元カノだからね、ささやかな復讐のつもりだったんだよ、あの性格だし、さぞかしネット界のならず者達にもみくちゃにされると思ってたんだけど…いやぁ〜まさかあそこまでの地雷だったとはね〜。」
「まぁ…気持ちはわからんでもないけど…で?結局僕に監視させてたのは?」
「推し活は楽しいでしょ?」
「はぁ?」
「俺の気はもう済んだから後は草太に任せるよ、生かすも殺すも草太次第。まぁ、好きにするといい。」
「えぇ…」
夏芽明音が中岸と結託して三浦の弱みを握るのに加担していたのは三浦自身から聞いていた。
慰謝料とかを請求すればある程度は絞れた筈だけど彼はそんな物に興味はないと言っていた。
そもそも中岸からは奴がカラカラの雑巾みたいになるまで絞り切っていたらしいのでもうお金関連には興味がなく、彼女を精神的に疲弊させる事が彼の目的だったらしい。
それがいざ大学に入学してきて見れば地味女にイメチェンして陰キャに徹しているものだから復讐へのボルテージもだだ下がりだったらしい。
夏芽明音…彼女は元々暁サーヤに負けず劣らずのギャルだったらしいけど今やその名残は微塵もない。
今にして思うと彼女が地味女にイメチェンしたのは恐らくは炎上中に最大火力を誇ったあの転載映像、ハメ撮り映像に起因してるだろう事は容易に想像できた。
つまり三浦が復讐する前から彼女はどん底に堕ちていたわけだ。
そんな精神状態でVチューバーなんてやればいずれ炎上していても、そりゃそうだろって話だった。
それからの彼女は配信をろくにしなくなった。
リアルでも大学に来る割合が減っていて精神的にかなり参っているらしかった。
これは僕にとっては由々しき事態だった。
推しが配信してくれないのは死活問題だ。
彼女は収益化も果たせていない弱小V。
応援するには馬鹿みたいにコメントしまくってツイ◯ターでも何でも彼女に対して全肯定コメントをしまくるしか無かった…。
それが実りを得たのかはわからないが彼女はまた配信をする様になった。
また露骨に僕のコメントを拾う様になった。
「もぉ~アロン君たらぁ〜面白ぉーい!ふふ。」
アロン君とは僕のハンドルネームである聖剣アロンダイトから来ている。
心底嬉しそうに僕のコメントに対して反応しその他のコメントには適当な塩反応が彼女のデフォルトとなっていった。
コメントは炎上前とは比較にならない程に増えていて下から上へと流れるコメントは目で追うのがやっとなスピードだ。
炎上商法なんて言葉があるが今の彼女の同接数は三浦が手掛けれてる四人の清楚形式のVチューバーを軽く凌駕している。
まぁ…もっとも彼女に付いてるリスナーはセクハラ目的やエロ目的、あとは露骨なアンチばかりで登録者数が余り増えていないのが彼女の現状を物語っていた。
聖剣アロンダイト [でもサーヤが配信をまたしてくれる様になってよかったよ。]
片栗棒 [サーヤたんはぁはぁ…]
サナダマン [この自己承認欲求権化女マジでキモイんだけど?シネよカス!]
クリームソーダ [ねぇねぇ喘いでよ!エロい声聞かせてよー]
無限機構 [こんな事してて恥ずかしくないんですか?]
片栗棒 [サーヤたんはぁはぁ]
クリームソーダ [ねぇねぇ!?聞いてる?喘げよ!]
「アロン君のおかげだよ!私アロン君の為に配信してるまであるから!じゃないともうやる意味とかないもん」
サナダマン [マジで意味不明なんだけど?頭沸いてるの?]
クリームソーダ [サーヤの喘ぎ声ASMR販売希望]
藍采和 [つーか1人のリスナー贔屓し過ぎキモ]
聖剣アロンダイト [応援してるけど無理しないでね、自分を大事にする事を忘れないで。]
[アロン君……うん!私頑張るね!]
とまぁこんな感じでどうにも彼女の配信意欲はアロンダイトありきな所が露骨になって来ている。
率直に言ってしまえば依存されているのが見て取れるのだがファン目線から言わせてもらえば特別扱いされているのに悪い気はしないのは当たり前の事で僕は更に彼女にのめり込んでしまった。
それは彼女のリアル…つまり夏芽明音に接触してしまいたいと思う程に。
無論、たかだか1ファンの身分で推しに接触しようなど烏滸がましい行為であるのは百も承知だけど、眼の前に推しの中の人がいるのに何故、我慢出来るのかという話だ。
しかし僕がアロンダイトですと馬鹿正直に接触しても警戒心の強い彼女の事だ、きっと彼女の中の危険人物リストにのって接触どころではなくなってしまうリスクすらある。
だから出会いはドラマチックに演出しようと色々無い知恵を絞って考えたのだ。
とは言ってもこちらは百年選手の陰キャだ。
ドラマチックだとかロマンチックだとかそんなモノとは縁遠い所で育って来た人種だ。
余計な事を企てた所で痛い目を見るだけなのは目に見えている。
何と言っても聖剣アロンダイトの存在が鍵になるのは間違いないのだ。
現状の彼女はアロンダイトに盲目的だ。
アロンダイトが赤だと言えば今の彼女は青すら赤と言ってしまえる程に盲目的なのだ。
コレを利用し、直球勝負に出る事にした。
聖剣アロンダイト
[突然申し訳ありません。
僕は貴方のファンであり1リスナーである聖剣アロンダイトと言う者です。この様な形で連絡する事に驚かれるでしょうが信じてもらえたなら幸いです。僕は〇〇大学の〇〇学部に所属している者です、もし、信じてもらえるなら直接会ってお話がしたいです…勿論無理にとは言いません。
見ず知らずの者の言葉を信用できないのは当然の事ですし無理強いするつもりもありません。
だから会うか会われないかはそちらに一任します、勿論会えなかったとしてもファンで居続けていく事には変わりありません。
突然の無茶振り申し訳ありませんでした。]
この文章は、三浦から教えられていた彼女との個通用のチャットサーバーから送り付けた。
勿論、これは彼女が三浦にアドバイス等を貰う為に三浦が作ったサーバーだから彼女のファンが知るはずも無いモノだ。
そんな所に自分のファンを名乗る男がいきなり連絡してくるのだ。
普通は怖いし警戒するだろう。
だから常識的に考えれば来ないのが普通だし来たとしても黒いグラサンを付けた怖いお兄さんを同伴している可能性すらある。
だから僕は賭けに出たのだ。
彼女が聖剣アロンダイトに向ける思いが僕が思ってるより強いであろう可能性に。
そしてその賭けは僕の勝利という結果で幕を閉じた。
待ち合わせの場所に彼女はいた。
たった1人で。
僕は彼女の元へとゆっくり歩き出した。
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