第28話 後悔
時は秋菜が明音に智也は自滅の道を歩んでると話した日にまで遡る。
秋菜が確固たる意思をもってそう断言したのに驚いたのは明音だけでは無い。
秋菜の隣にいる琢磨もまた同様に断言する秋菜に驚かされていた。
何故そんな当然の様に断言出来る?
それではまるで智也が自滅すると秋菜は確信を持っているようじゃないか…。
そんな疑問を持った琢磨は明音が走り去った後に秋菜に訪ねてみる事にした。
「秋菜さん…さっきの…自滅って話…」
「本当は全て終わるまで琢磨には知られたくなかったんだけどね…。」
「どういう事?」
「琢磨は貴方の義兄、中岸智也が大学卒業と同時に起業を考えてたって話は知ってるかしら?」
「起業!?」
「あの男は株とか投資でたまたま運良く大金を得たみたいなの…、そのお金で起業を企んでいたみたいなんだけど投資先の一つに私の義父の会社が含まれていてね?だから義父に頼んであの男の投資取引に細工してもらったのよ。」
「なっ…どうしてそんな危険なマネを!」
「危険は無いわ…琢磨のお陰であの男はもう私に手出し出来ない、ロリコン趣味と社会的地位を天秤にかけるくらいの知性は持ち合わせているからね。」
「それでも…万一があったらどうするんだよ!」
「ありがとう琢磨…そしてごめんなさい…でも私は貴方に恩返しがしたかった…それだけなの…。」
「その気持ちはうれしい…でも危険な真似はやめてくれよ…秋菜さんが危険な目に遭うのは嫌だ…そんなの釣りあってない。」
「……、そうね、心配かけてごめんなさい…。」
「でも…よかったよ…秋菜さんが無事で…これから何かする時はちゃんと相談してくれ…。」
「ふふ…そうするわ。」
「で、自滅ってのはどういう意味なんだ?」
「さっきも言ったけどあの男は投資先に義父の会社も含めていたの、そして私は義父に頼んで細工をしてもらったのよ。」
「じゃ…」
ここまで聞けば琢磨にもおおよその想像は付く。
中岸智也はハメられたのだ。
このいたいけそうに見える少女に。
「アイツは今借金とかでも作っちまったのか?」
「ええ、しかもその額一千万」
「いっ…一千万!?う…嘘だろ?」
「嘘じゃないわ…義父が掴んだ情報によると本当に一千万相当の借金を抱えてるみたい…」
「あのおっさんどんな手品を使ったんだよ…」
「いえ、あの男が義父の会社に作った借金は精々300万程度らしいわ。」
「それでも十分な金額だけどな…」
「あの男は起業に際して四方八方に敵を作ってるみたいでね、義父の会社以外の投資先は基本的にダミー企業で支払ったお金は返って来ないんですって、オマケに借金までして事務所や機材の購入に人員の募集までしたせいで借金が面白いくらいに膨れてるみたい。」
「や……」
ヤバ過ぎだろ…
琢磨の頭の中に浮かんだのはそんな言葉だった。
たしかに琢磨はあの義兄を殺したいと思う程恨んでいたし憎んでいた。
しかしいざあの義兄が地獄に落ちている様を目の当たりにすると少し怖くなってくる。
同情とか哀れみの感情はまったく無い。
ただ自分がもし同じ立場だったらと思うと怖くなってしまったのだ。
「たかだか大学生が返済できる規模を軽く超えてるな…いったい何をしてそこまでなったんだか…」
「私も詳しくは知らないわ…義父から聞いただけだしあの男がどんな会社を立ち上げたかったのかとか全く興味もないしね…」
「アイツは…智也はこれからどうしていくんだろうな…」
「さあね…普通は家族が子供の肩代わりをするのが定番なんでしょうけど借金の額が異常だし簡単に肩代わり出来る物でもないでしようね…良くて勘当か…あるいは離婚…とか…?」
「離婚…か。」
あの義父なら智也を勘当し家から追い出すのも普通に有り得そうだ。
そして母さん…あの人も中岸を切り捨てる選択を普通にするだろう。
母さんは変わった…中岸に染められ完全に人を優劣でしか見ない人間になった。
いや、もしかしたら最初からそういう人間だったのかも知れない。
父さんと一緒の頃はその本性が隠れていただけで元々そういう人間だったのかもしれない。
何にしても母さんが何を考えるかは大凡の予想は付く。
長男は大量の借金を拵えた愚か者。
末っ子は女を性欲処理の道具としか思ってない強姦魔 の狂人
母さんはこんな連中と一緒にはいたくないだろう、あれでプライドというか自意識の高い人だ。
自分の身内に馬鹿と狂人がいるなんて認めたくないし消し去りたいだろう。
しかしそんな事は出来ない。
人殺しなんてしたらそれこそ人生詰むからな…。
母さんの取るべき行動。
それは中岸との決別。
俺を取り込み中岸から立儀…いや、母方の旧性である宮河に戻り再スタートを切ることを画策してるかも知れない。
俺は後数ヶ月で高校を卒業だ。
なら働ける年齢になる。
離婚後に俺を一家の大黒柱に仕立て上げて金を搾取するつもりかもしれない。
そんなのごめんだ。
絶対にごめんだ。
「秋菜さん、学校が終わったら付いて来て欲しい所があるんだ。」
「付いて来て欲しい所?」
「うん、父方の祖父母の家なんだけどね…」
「………っっ!!!
わかったわ。絶っっ対に行くっ!」
「お…おう…よろしく」
「ええ…こちらこそよろしくね。」
勢いがすげーぜ秋菜さん……。
俺は祖父母の力を頼る事にした。
もう俺の力でどうこう出来る範囲を超えている。
借金一千万の化け物を抱えた連中と人生を共にして俺の人生を台無しになんかされたくない。
そんな義理を立てる必要性は無いんだ。
アイツ等が俺を捨てた様に今度は俺がアイツ等を捨てる。
それだけだ。
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それから数日後の事。
夏芽明音は疲れ果てていた。
それは彼女にストーカーが現れたからだ。
ストーカーの名前は中岸智也、明音の彼氏である。
もっとも明音の中では既に別れた事になっている。
しかし恋人同士の定義は双方の付き合っているという合意の意思が無ければ成り立たない。
つまるところ智也はまだ明音と付き合ってるつもりだし明音は彼にとっての彼女なのだ。
しかしラインはブロックされ話しかけても避けられ無視される。
理由は解っている。
あの日両親に問い詰められた時明音を家に連れてきた筈なのにいつの間にかいなくなっていてそれから連絡も取れなくなった。
ただ一文を残して。
【もう無理、別れる】
しかしそんなモノ到底認められる訳もなく智也はこうして明音に付き纏っていた。
それは一般的にストーカーと呼ばれる行為となんら変わりなかった。
明音が家を出る時に待ち伏せされ、結局学校に来るまで粘着され今も下校時に校門の前で待ち伏せしているのだ。
もう嫌だ…
こんな欠陥馬鹿男に付き纏われるなんて真っ平ごめんだ…。
しかしどれだけ避けても何故かこの男は明音に付き纏って来た。
「へへ…明音ぇ!見つけたぜぇ!?何故俺を避けてるんだぁ!?借金のせいかぁ?へへ、馬鹿だなぁお前もあのクソ親共も…何にもわかってねぇ…金なんて向こうから簡単に集まって来るんだ!俺の才能でいくらでも稼げるんだよょぉ!借金なんて有って無いようなモンなんだよぉ!それを目くじら立ててよぉ馬鹿じゃねーの?」
「馬鹿はアンタよ…結局アンタって顔とチ◯コが良いだけのただの欠陥馬鹿男じゃない…アンタなんかより琢磨のが何千倍もましだったわよ…」
「はぁ…?お前まで…お前まで俺を見下すのか…?良い思い沢山させてやったのに…言うに事欠いて琢磨以下だって…?巫山戯んなよ?明音ぇ?」
「ひっ…触らないでよ!」
「ふふ良いのか?そんな態度とって…?」
「はぁ?」
智也はおもむろに自身のズボンのポケットに手を突っ込むとスマホを取り出しある画面を明音に見せ付けた。
「はぁ!?それって…」
「お前と俺のハメ撮り画像だよぉ…?」
「はっ!?ふざけんな!消せ!消せよ!」
「あぁ〜ん馬鹿じゃねーの?消す訳無いじゃ〜ん、これを拡散されたく無かったら俺を避けたり見捨てたりするんじゃねぇよ!?ラインのブロックも解除しろ!」
「いっ…嫌よ!誰が…」
「あぁん?だったらこの画像ばら撒くぞ?画像はコレだけじゃない、動画だってあるんだぞ?お前が俺のイチモツでひーひー喘いでる所を撮った動画が沢山あるんだからなぁ!?」
「さっ…最低…」
「なぁに被害者ぶってんのお前?同意だったろうが!もっともっと〜!なんでも良いから突いてぇ〜ってお前が言ってたんだぜ!?」
「あっ…あぁあ!!」
明音は頭を抑えうずくまる。
私はなんて愚かな事をしていたのだろうか、こんな口だけ達者な駄目男にノセられて、何が大人の魅力だ、
何が余裕ある態度だ、何が!何が!!
昔の私をぶん殴りたい!
「ハハッハハハ!そうだ、お前、俺の為にフーゾクで働けよ!パパ活もいいなぁ!俺の為に文字通り身を粉にして貢げよ!明音ぇ!」
「いっ嫌よ巫山戯んな!どうして私がアンタみたいな駄目男の為にそんな事しなきゃならないのよ!私はアンタのオモチャじゃないのよ!!」
「おいおい、これは善意ある提案だぜ?俺に貢げぱ画像と映像をバラまかないでやるって言ってんだよ!」
「や…やれるもんならやってみなさいよ!どうせそんな…そんな度胸アンタに有るわけ無い!!」
「はは…ははははアハハハ!!!俺がヤらないとホントに思ってるのか!?俺はやるぞ?俺のことを馬鹿にしたお前等全員地獄に叩き落としてやるよ!ひひぃ!」
明音はコイツならやるだろうなと分かっていながら敢えて智也を挑発した。そうなるのが分かっていながら…。
この男のオモチャになって風俗に回されるくらいなら晒し者になった方がマシだからだ。
確かに自分のあられも無い姿がネットに出回るのは嫌だ…。でも誰かもわからない男の性玩具になるならネットに流された方がマシだった。
だから敢えて挑発したのだか本心を言えば当たり前だが絶対に嫌だ。
自分の裸が、喘いでる姿が、みっともなく悶えてる姿がネットを介して誰でも見れてしまうのだ。
それがどれ程に屈辱的か考えただけでもおぞましい。
それでも…それでも誰かもわからない男の相手をさせられて性欲処理のオモチャになるよりは幾分マシだと思えたのだ。
「ふふ…ひひひ…馬鹿な奴だ…」
そうぼやくと智也はフラフラと歩き去っていった。
アイツを受け入れれば不特定多数の男の慰み者、
断ればネットに流されデジタルタトゥーの出来上がり、同じく不特定多数の男に性欲処理の道具にされる…。
詰んでいた。
どうしたって詰んでいた。
何故こんな事になったのか…
わかり切ってる…琢磨を裏切り切り捨てあんな駄目男を選んだからだ…あんな…顔とチ◯コしか取り柄の無い男を選んだから…。
やり直したい…。
琢磨と一緒にいたあの頃に…戻りたい。
叶いもしない願いを私は無駄に願う様になっていた。
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