第15話 裏
微睡みから現実に引き戻される。
夜突然目が覚めるなんて事は良くあることだ。
寝付きが悪かった…
突然の尿意を感じた…
様々な理由がある…
悪い夢を見た…そんな理由もあるだろう…。
今回に関してはおそらくそんな理由だ。
夢の内容は覚えていない…。
夢の内容なんて目が覚めたら大体は忘れている物だから仕方ないけど思い出したいとは思はない。
大体予想はつくから…。
不意に物音が聞こえた。
隣の部屋…
私にあの義父が充てがった忌まわしい部屋。
そこから物音が聞こえて来るのだ。
「またか…」
あの男はとうとう夕方時だけでなく深夜まで訪れる様になったわけだ…
本当にいやらしいし汚らわしい…。
何故あんなにもいかがわしい事しか考えられないんだ…それにあの無駄な行動力には畏怖すら感じる…。
母は私よりあの男を信じたのだ。
信じられない。
私と母とそしてお父さん…
あの本当の家族と過ごした日々が遠い。
思わず涙が出る…そんな時だった…。
「何言ってんだアンタ…アンタはそんなのでも秋菜さんの父親だろ?父親としてあの子の前に出て来たならその義務を果たすのが大人じゃないのか?」
この声は…まさか…琢磨…?
私の部屋からは琢磨の声がする…
じゃまさかあの狭い部屋の中で琢磨はあの義父と二人っきりなの?
ありえない…琢磨は何を考えているんだ
そんなの危険過ぎる…。
私は直ぐにでもこの部屋から抜け出し隣の部屋に行ってあの二人を止めないといけない…だけど…
怖かった…。
義父の前に出ていくのが堪らず怖かった…。
私はそのまま壁に耳を当てる。
「最低だなアンタ…彼女の弱みに漬け込んで…」
「君は何かな?秋菜の彼氏かなにかかな?いいねぇ学生の恋愛…青春だねぇ?でもね…学生の恋愛なんて無意味なんだよ、大体が成就しない!君のような子供があの子にしてやれる事なんて何もないさ!勉強になったと思って手を引くんだね?ソレが君の為にもなるんだよ?」
「学生の恋愛が成就しないね…そんな事アンタなんかに言われるまでも無くよぉーく理解してるよ…それにこれは俺がしたくてやってるんだよ…」
琢磨は昔両思いだった幼馴染みの彼女がいると話してた…。
しかし義理の家族にその幼馴染みの彼女も妹も母親までも奪われたのだ。
学生の恋愛が成就しない。
そんな事は琢磨が最も身に沁みて理解しているのだろう。
そんな琢磨が私をこんな危険な真似までして助けてくれる…。
彼を動かす原動力が何なのかは秋菜自身気にはなっていた。
「はは、意味がわからないね…そんな事して何になる?意味がない!生産性のない…………、君…もしかしてて……図られたよ…君…録音してるだろ?」
「っ……!」
録音…
確かにそうだ……義父から弱みを引き出すならソレが一番手っ取り早く確実性のある方法だ。
私だってその方法は考えた。
でもこの男の言う通り私は今でも母に愛されたいと思っている…母に幸せになって欲しいと思っている。
その結果この男の存在を許容しないといけないというジレンマに陥っているのだから救いがない。
「どうせ君も秋菜に気に入られたいからこんな無意味な事をしているんだろう?アレはたしかに美人だ、君の様な思春期の少年にはさぞかし輝いて見える事だろうねぇ?でもね?秋菜は感謝なんてしないよ…?秋菜は無意識に他人を見下してる…彼女は君を同列には見ないよ?それを理解してるかい?」
言いがかりだ…
私は別に他人を見下してるわけじゃない…
ただ他人が苦手なだけだ…
他人は常に私を色眼鏡で見てくる。
私に興味なんて無いクセに私に無用な期待を寄せてくる、ソレが嫌だから私は他人を遠ざける。
私はあの日から常に自分さえ良ければそれでいいって考え方で生きて来た。
他人はいつか私を捨てる。
裏切る…。
だから私は他人を遠ざけて生きて来た。
今の私は結果に過ぎないんだ。
「いや…さっき言っただろ…俺はやりたいから勝手にやってるんだよ…秋菜さんに感謝されたい?されてどうなる?それこそ意味がない…そんな事で俺の鬱憤は晴れない…」
「はぁ…?君…何を言ってるんだ…?」
「俺はアンタみたいな他人の幸せを食い物にして愉悦する糞が地獄に落ちてくれたらそれだけで満足なんだよ」
そうか…今分かった…
琢磨は私と似てるんだ。
琢磨も大好きだった人達に裏切られて生きて来た…。
大好きだった人達を奪われて生きて来た。
彼の善行はそんな人達に対する当て付けなんだ。
私を助けてる事に意味なんてない。
彼は自身の善行に見返りを求めない。
何故か?
彼自身が言っているじゃないか…
意味がないから…
やりたいからやっている。
単純だけどとてもわかりやすい。
ああ…本当に彼は私に似ている。
だから私は彼を信頼出来たんだ。
「…録音は充分とれた…あんたを破滅させるならコレで充分………俺にケガさせたり最悪殺したりしたらどの道後悔するのはアンタだ………嫌ですよね?そんな人生をこれからおくるのは?……取り引きしませんか?沙流さん…貴方にとって悪い話じゃないはずですよ?
簡単な話ですよ………もう秋菜さんに手を出さないでくれますか?それと彼女が母親と和解出来る様に手助けしてあげて下さい。」
そして彼は決してその人達を許してなんていない。
興味無いフリして自分を守っているんだ。
本当は復讐したくてたまらないのにそれすら意味がないからと彼は自分の本心にフタをする。
それはとても歪で屈折してるけどとてもシンプルで単純…でも彼はある種のリアリストだ。
その気になれば意味がないからという自分の言葉に意味をもたせる。
事実復讐に意味なんてない。
自分の気持ちが晴れるだけで生産性はこれっぽっちもないのだ。
彼と言う人間はそれをしっかり理解し復讐を切り捨てて生きてしまえる強さを持ってる。
凄いと思う。
彼が理解出来てしまえば彼と言う人間の凄さが良く分かる。
多分私はこの瞬間彼に惹かれたのかもしれない。
彼の歪な強さに惹かれたのかもしれない。
どうやら義父は琢磨の口車に乗った様だ。
隣の部屋から出ていく気配があった。
そしてしばらくして琢磨もコチラに戻ってきた。
わざわざ義父が出て行った後数分ずらす徹底ぶりだ。
私は直ぐに寝たフリをする。
琢磨の表情を盗み見ればとても穏やかな顔をしている。
助けてもらったから…そんなシンプルな理由じゃ断じて無い。
助けられても私は決してその人を信用も信頼もしない。
絶対に裏が…邪な本心があると…それを前提に考えて行動してしまうから…
琢磨はそれがない。
彼は私に対して媚びない。
邪な意志も見返りもない。
善意ですらない。
ただそうしたいからそうするというシンプルな動機。
そんな彼にだからこそわたしは惹かれてしまう。
そんな彼にだからこそ自分の無防備な姿をさらせてしまうのだ…。
気付けば私はぐっすりと眠りに落ちていた。
いつぶりかもわからない安眠を私は手にできたのだ。
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