第23話 超常公安局:水野技官の記録

 ※用語の意味や世界観の補足は、「第23話 補足:主な用語」をご覧ください。


 内政省とは、内務省の生まれ変わりである。というのが通説だ。旧内務官僚の悲願が達成された形なのだろう。私には関係ないが。

 超常公安局はいわゆる主要な警察機構に属さない司法警察官のようなものだ。法に縛られず、様々なことをしているやつもいるだろう。そういうやつを取り締まるのは警察だ。我々は警察官僚なのだ。警察組織の上部に属し、捜査の指揮権を有する。


「おいおい、技官さんよ。こっちに口出ししないでもらえますか?」


 中央警視庁の捜査会議にて、発言したら、この有様よ。現場からは嫌われている役職だ。ただ、あいつらにはわからないだろう。我々の仕事の複雑さを。

 内政省全体の超常現象事案を取り仕切る我々は、自分で言うのもなんだが、とても大変な役職だ。だって、内政省全体だぞ。局内の垣根は無いに等しいこの部署はまさに地獄だ。誰だ、内務省復活を掲げたやつは。今すぐにブチのめしたい気分だ。旧自治省、旧警察庁、旧行政管理庁。これを統合したやつは頭がおかしい。そして、特別内部部局制度を導入したやつもだ。なんだ、その制度。そのせいで我々は大変な思いをしているんだ。警察の仕事? ウチだ。地方行政の管理? ウチだな。 選挙対策? ウチだ! 消防の仕事? 確かにウチだ。選挙候補者の身辺調査? ウチだよ! 幽霊対策? ウチか? ウチだよな。 宗教団体の調査? ウチじゃねぇよ! 異常火災? ウチだよ! えっ妖怪? ウチだよな? 超常国家からの移住者? ウチじゃねぇよ! そうだよな? 違う? 嘘だろおい! 超常現象対策? ウチじゃ……ねぇよな? ウチか? わけわからん。転生者? 誰だよ! 担当ウチだよ! 漂着者? ウチじゃねぇよ! そこもあそこもウチが担当! これでもおおよそ半分は公正法務省に投げ渡してやってるが、それでも多いくらいだ。なんだ、この統合や制度を作ったやつはイカれてるのか? いっそ内政省じゃなくて国務省だろ。国家担当省だろ! なんだ、担当が広すぎる上、なんで超常公安局なんて部署に一まとめにするんだ! そのうち宇宙探査庁も吸収するのか? そしたら宇宙省か? コズミックホラーじゃねぇーんだよ! 宇宙の仕事は奴らに任せとけばいいんだ。そしたら地球省か? 間違ってないな。治部省仕事しろ! もっと自を出していけ! 元外務省! 名称変更程度でへこたれるなよ! ばーか!

 上司から、君暇だろって言われて派遣されるのだ。どこに? そりゃ仕事さ。

 霊的火災の可能性ってことで中央消防庁職員と共に消火された建物の中へ。焦げ臭さに湿った空気が体を通り抜ける。何度経験しても慣れないものだ。ギシギシと軋む床に踏み抜かぬよう慎重に歩みを進める。


「声が……するな」


 うめき声なのか、泣き声なのか、はたまた笑い声なのか。手元の機械を声のする方へ向けてみる。ピーっという機械音が響き渡った。中央消防庁隊員は少し少し後ずさる。超常に経験が少ない隊員なのだろう。


「ご安心を、すぐに対処しますので」


 営業スマイルを隊員に向け、懐からスプレー型の除霊薬を取り出す。この程度なら、これで十分だ。声のする辺り全体をスプレーをかける。ギャーっという悲鳴と共に音は消え去った。

 ふぅっと息を吐く。この除霊薬いくらするか知ってるか? 知らないよな。備品管理担当が怒らない範囲で使わないといけないんだよ。知ってたか?


「あー、除霊作業終了しました。皆さんは足元に気をつけて現場検証してください」


 そう言い、火事場を後にする。この程度なら、中央消防庁にも超常対策部門を設けてほしいものだ。ウチの担当を減らしてくれ。

 焦げた瓦礫の中から、子供の笑い声がほんの一瞬だけ聞こえた。気のせい、だよな?

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