第20話 ボンバーうーまん

 買い物が終われば一度生徒会室に戻って来て欲しい。


 そよのスマホに朝霧先輩から連絡が入り、俺達はビニール袋を持って生徒会室に戻って来る。


「おつかれさまでーす」


「おつかれさまですー」


「ご苦労だったね、ふたりとも」


 生徒会長の席に座る、副会長から労いの言葉をもらう。


「なんかあれだな」


 ふと思い付いたように雷堂先輩が俺達を見て言ってくる。


「買い物帰りの夫婦みたいだな」


「なっ!?」


 この先輩は、初対面でなにをぶっ込んで来てんだよ。


「ふふ」


 そよは大人の女性っぽい余裕の笑みを浮かべてやがる。なんでそんなに余裕なんだよ。


「緋色くんはそよのことが好きみたいなので、そう見えても当然かもですねー」


「うそんっ!?」


 この同級生はなにをぶちこんでおられるのでしょうか。あの、副会長様。眼鏡の奥の瞳がえれぇ怖いのですが。話が違うじゃないみたいな感じを出さないで。


 ひ、広員、違うんだ。違うんだ。


 勝手に言い訳をしながら広員の反応を伺おうとすると──。


「緋色くん、美雲ちゃんのことも好きみたいなので、この生徒会、修羅場ですよねー」


 このゆるふわ系はなにを言っちゃってんのかな。


「ええ!?」


 広員が大きな声を出すもんだから、全員の視線がそちらにいってしまう。


 めっちゃあわあわしてはります。


 そりゃ、いきなりそんな爆弾を投下されたら、そんな反応にもなるわな。


「おお。緋色って意外と女ったらしいか」


 雷堂先輩が感心したように言ってきやがる。


「ち、違いますよ!! そよも、言葉足らずだろ、今の」


「てへ」


 このゆるふわ系小悪魔めっ。ちょっと可愛いとか思ったじゃないか。


「まぁ、緋色くんが女の敵ということは、今は置いておき──」


「そこまで酷い評価になります?」


 まぁ、朝霧先輩からしたら、俺は広員のことが好きということで弱味を握って生徒会のパシリとして使ってるわけだからな。こんな風にぶっちゃけられたら、脅迫するにもできないから不機嫌というわけか。


「報告だが、雷堂。学食の方はどうだった?」


 話が急に真剣なものに切り替わり、感情が追いつかないけど、雷堂先輩はすんなりと報告してくれる。


「ああ。さっき、学食の厨房器具の業者立ち会いに同行させてもらったんだが、すぐに直るそうだ。明日にでもサービスエンジニアが来て直してもらえるらしい。明後日には通常運転の予定だ」


「ふむ。そこまで長期間じゃなかったか」


 当然だが、朝霧先輩と雷堂先輩はタメ口で話している。でも、なんだかそれは信頼関係があるような、そんな話し方に聞こえる。


「ふ、ふふ……サービス、エンジニア……♡」


「なぁ、サービスエンジニアってなに?」


 あ、うん、はい。気のせいだな、これ。


 朝霧先輩の中で、サービスエンジニアは変態発動のトリガーみたいだな。サービスエンジニアで変態発動できるのはこの人だけだろうな。


「雷堂先輩。サービスエンジニアってのは保守とか修理をする現場職の人のことですよ」


「ああ。あの、スパーク持ってた人か」


「スパナだと思いますがね。あなたの名字に雷があるからってスパナとスパークは間違えないでしょ」


「俺のこと雷属性だと思ってる?」


「バカだと思ってます」


「手厳しいぜ」


 コホン。なんて変態を切り替える咳払いがされる。


「明日から家庭科室の使用許可が下りた。大事を取って1週間ほどの借用書を提出したのだがな」


 朝霧先輩の報告のあと、こちらを見てくる。


「女子大好きな変態ボーイは?」


「え、まって、それ、おれ?」


「他に誰がいる?」


「さっきサービスエンジニアで変態を発動させた先輩に、そのいじりをする資格はないですよ」


「勘違いするな。わたしは責められても興奮するぞ」


 だめだこの生徒会、はやくなんとかしないと。


「買い出しの途中で考えたのですが」


 この話題を続けると大火傷しそうなので、まともな発言に移行する。


「お弁当を作るというのは手間暇がかかります。ですので、カレーにしようかと」


「なるほど。カレーなら決まった不特定多数の相手に対応できるな。それは華麗な提案だ」


「あっれ。副会長ってこんなにも面白くない人?」


 隣のそよに問いかけると、笑みをこぼす。


「それは、緋色くんがそよと美雲ちゃんに魅力を感じているからそう見えるだけで、そよは今の面白かったですよー」


「きみはそのキャラでいくのね──」

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