第2話 お見合い相手、好きな子でした

 あとは若い2人で。なんて、老人二人が嬉しそうに言いながら出て行きやがった。あのじじぃ二人の方がイチャコラしてる風に見えたんだが……親友かなんかか?


 いや、今はじじぃの交友関係など心底どうでも良い。目の前を見てみろ陽。


 俺のお見合い相手は奇跡的に片想い中の女の子、広員美雲だぞ。こんな奇跡、ファンタスティック!!


 とか、心の中で小躍りをかましている俺とは裏腹に、広員は顔を真っ赤にさせて俯いていた。


 そりゃ、そうだ。事故とはいえ、ついさっき、告白の練習を見ている風景を見ちまったんだ。逆の立場なら俺が顔面を赤くして俯いていたことだろう。


「お、見合い相手って広員だったんだな」


 こちとら喜怒哀楽の怒哀が消え状態だ。まさにじいちゃんの言う通りの喜楽状態。漢字がちげーけど。


 そんな感情が爆発してるから、呂律が回らんのなんのって。


「う、うん」


 会話の手応えはなし。そりゃまぁ向こうからすれば当然といえば当然、か。


 広員とは中学から一緒なだけあって、会話は多い方の女の子だ。いや、むしろ女の子の中では一番喋っている間柄と呼べるかもしれん。喋っていて楽しいし、面白いし、なによりも心が穏やかになる。だからこそ好きになった女の子だ。


 だから、ね。あんまりこの子と沈黙ってのは今までなかったから、こう、シーンとなると気まずくなる。


「あ、あの、緋色くん」


 えらく緊張している広員は、いつもの柔らかい顔をどこかに忘れてしまったのか、カッチカチの顔付きであった。


「さ、さささ、さっきの……さっきの、なんだけど……」


 チラ、チラと俺の様子を伺う仕草をしてみせる彼女は、意を決したかのようにこちらに尋ねてくる。


「さっきの教室でのこと、聞こえてた!? ──よね?」


 最初のコンタクトから、そのことを聞きたいことはわかっていた。というか、彼女はずっとそのことが気掛かりなのは察していた。だからこそ、正直に言ってやる。


「聞こえてた」


「……っぅぅくぅぅぅぬぅぅ……」


 言葉というのもは難しい。あまり正直過ぎるのも良くないのかしら。広員の頭からは、今にもマグマが噴火しそうになっていた。桜島もびっくりだね、こりゃ。


「大丈夫だって。別にそのことを言い回す趣味なんてないからさ」


 広員が告ろうとしている奴をほふる趣味はあるけどねー。


 とか心の中で冗談を抜かしたが、自分の言った発言は本物だ。自分の好きな人の恥ずかしいことなんて誰にも言うつもりはない。


 それなのに、どうして唸っているのかな、この子は。しかし、この子の唸り声もまた可愛いのなんのって。


「あ、あにょ!! そ、そそそ、その……あ、あれは、練習であって、本番ではないのです!!」


「あ、ああ。まぁ、そうだろうな」


 一人でやってたし、あれが本番の告白だなんて思う奴はいないだろうよ。


「だ、だから!! だから、その……まだ聞きたくないというか……聞かなかったことにしてくださしゃい!! お願いします!!」


 勢い良く頭を下げるもんだから、机に思いっきり額をぶつける。


「いてっ」


 清楚系とは思えないダメージ音が聞こえてきたんだけども。


「ぷっ……」


 額を押さえて痛がる彼女を見て、ついつい吹き出してしまう。


「うう……緋色くん。笑うなんてひどいよぉ〜」


 泣きそうな小動物みたいな顔が、かわいくて、愛おしくて、今ここで俺の思いを伝えたくなる。


「はは……ごめん、ごめん。大丈夫?」


「も、もう……」


 でも、だめだよな。広員には告白の練習をしてまで思いを伝えたい相手がいるんだ。片思いの人だからこそ、彼女の邪魔にだけはなりたくない。


 そんな俺の複雑な表情を、広員はじっと見つめていた。まるで何かを確かめるように。


「──なんだ、なんだぁ?」


 こちらのやり取りを見ていたのか、二人のじじぃがやって来た。ウチのじいちゃんが俺と広員を見比べて、ニヤリと笑い出す。


「お前ら、相性良いみたいじゃねぇか。なぁ?」


 俺のじいちゃんが、広員のじいちゃんの方を見ると、コクリと頷くと、厳格な顔のまま口を開けた。


「そんなに相性が良いのなら、二人で住むべきだ」


「は?」


 この厳格なじじぃ、今、なんて?


「そりゃ良い。おい、お前ら。部屋用意してやるから一緒に住んでみろ」


「はあああ!? ちょ、待てじいちゃん。そりゃいくらなんでも……」


「え……」


 広員がぽつりと呟いた。その瞬間、彼女の頬がほんのり赤くなる。


「一緒に……住む?」


 彼女は俺の方をちらりと見て、それから慌てたように視線を逸らす。でも、その表情には嫌そうな色は見えない。むしろ──


「住みます!!」


 ええええええ!?


 なんで、広員は乗り気なんだよ。あんた、好きな人いんだろ!?


「私は緋色くんと一緒に住みます!!」


 めっちゃノリノリなんですけど!?

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