火の揺らぎ〜魔法とは何か〜

千夢来人

1章 魔法との出会い

「フレイムアロー」

 それは僕の眼の前で、起こった出来事だった。人の手から炎が生まれて、熊の目を貫いた。

「大丈夫かい?」

 ヴィンセントさんが僕に駆け寄ってきた。僕はさっき目の前で起こった出来事に驚いて、体が固まって動かない。

「口を開けてどうしたんだい?」

 近づいてきた彼は、優しく声をかけてくれた。

 僕は言われて、自分が口を開けているのに気づいた。ちょっと恥ずかしくなってしまって、目線をそらす。

「そうか。無事なら良かった」

 ヴィンセントさんはくるっと振り返り、獣の方を向いた。獣は目から血が激しくでていたが、僕を餌と思っていたときより、激しく唸っている。どうやら彼を敵と思ったらしい。

「ちょっと待って、すぐに片付けるから」

 彼が走りだし、一気に間合いを詰めると、熊に反撃をさせない速さでその命を貫いた。

「今から処理するから、少し待っていてくれないか」

 ヴィンセントさんは慣れた手つきで熊を解体していく。

「よかったら近くで見るかい?」

 僕がじっと見ていることに気づいて、彼は声をかけてくれた。

「いや、やめときます」

 僕はさっきまで襲われていたこともあって、少し離れた所で彼を見ることにした。あっという間に部位ごとにまとめ終わった。

「解体終了っと。帰ろうか」

 彼に促されるまま、僕は彼の後ろを歩き出した。

「ヴィンセントさんは強かったんですね」 

「意外だったかい?」

 ヴィンセントさんは軽く笑って、返してくれた。

「正直言うとそのとおりです」

「まぁ、普段は学校の先生みたいなことをやっているからね」

 ヴィンセントさんが僕の村に来たのは、確か一ヶ月くらい前だったはずだ。それからは文字や計算を知らない村の人に少しずつ教えてくれている。

「え、みたいなことって先生じゃないんですか?」

 てっきり先生だと僕は思っていた。

「私は護衛として、雇われているんだよ」

「護衛?護衛ならセイヤ兄ちゃん達が、いるじゃないですか」

 セイヤ兄ちゃんは、村の守衛だ。毎日交代しながら村の危険がないか入口で見張りをしてくれている。よく休みの時に僕も話を聞いていた。

「セイヤ君は、門番みたいなものだから、あそこにずっといるのが仕事なんだよ。私は周囲のことを見守るのがメインの仕事かな」

「見守るのが仕事?」

「そうだよ。だから今日もオル君を見つけられたでしょう」

 言われてみれば、彼はたまたま来た訳でなくここにピンポイントで走ってきた。

「そういえばどうやって、ここに来たんですか?」

 村の周りには結構広い森が広がっている。森の入口付近は比較的安全だが、少し奥に入ると凶暴な動物が増えてくる。今日はいつもより山菜を取りに奥に入ってしまったようで、よほど森に慣れていないと僕の所に辿り着くのは難しく思えた。

「僕は結構広い探索魔法が使えてね。村の人がある程度離れたら、知らせが来るようにしているんだ」

「魔法ってそんなこともできるんですか?」

 僕が知っている魔法は暖炉に火を付けるとか、洗濯の時に水を出すくらいで、そんな魔法は聞いたことがなかった。

「知らないのも仕方がないよ。どちらかと言うと冒険者向きだからね」

「ヴィンセントさんは冒険者だったんですか?」

「そうだよ。ここに来たのもギルドの依頼なんだ」

 冒険者、この村には荷物の護衛としてしか来ない人達だ。

「見えないかい?」

「はい。冒険者って鎧を着込んでいる人達だと思っていました」

 それを聞いたヴィンセントさんはなんか納得した表情をした

「魔法を使う専門職の人は、もっと動きやすきい服装の人が多いよ」

 魔法と聞いて少し気になったことがあった。

「さっき使った火も魔法ですか」

「フレイムアローのことかい?」

「そうです」

「そうだよ。興味あるのかい?」

「え、なんでですか?」

 ヴィンセントさんは、くすっと笑った。

「声が大きくなってるかな」

 僕は自分の声がそんなに大きくなっているのに、気づかず恥ずかしくなった。

「そんなに大きかったですか」

「うん」

 恥ずかしくて、ヴィンセントさんの顔が見れない。

「君さえよかったら魔法を教えようか?」

「へ?」

 彼の提案が突然過ぎて、声が裏返ってしまった。

「私でよかったら教えるよ」

「僕でもできるんですか?」

「魔法は勉強してみないと、できるかできないかは分からないんだ」 

 ヴィンセントさんは当然のことの様に言う。

「少し考えても、良いですか?」

「もちろん。急いでいることではないからゆっくりで良いよ」

 話しているうちに村に着いていた。

「私は報告があるから、警備の所に寄って帰るよ」

 彼は軽い足取りで歩いていった。

 僕も、日が落ちる前に帰ろうかな。ヴィンセントさんの申し出は嬉しいけど、家のこともあるからな、どうしようかな。

「オルだ。ヤッホー」

 声をした方を見ると、幼なじみのディミが手を振ってこちらに寄ってきた。

「どうしたの?難しい顔して何かあった?」

「ディミか、実は・・・」

 ディミに今日の出来事と、ヴィンセントさんに魔法を教えようかと提案されたことを話した。

「ふ〜ん。で習うかどうかを悩んでいると?」

 僕は頷いた。

「そこまで何を悩んでいるの?」

 ディミが首をかしげる。

「魔法なんて、縁がなかったから、僕にできるかなって。それに家の手伝いもしないと行けないしさ」

「な〜んだ。そんなことを考えてたの?」

 急にディミが僕の目の前に飛び出した。僕は驚いて一歩下がってしまった。

「オルらしくな〜い。いつもみたいにとりあえずやってみなよ。してから考えてみたら」

 僕はディミを睨んだ。

「他人事だと思って」

「他人事ですよ〜」

 ディミが意地悪な表情をする。夕日に照らされたディミはいつも見ている彼女と違ってとてもきれいに見えて、思わず顔をそらしてしまった。

「でも、ディミの言う通りかもね」

「でしょう?それにおじさんとおばさんも私と同じ考えだと思うよ。私はそろそろ帰るね。バイバ〜イ」

 ディミは、走って去っていった。

 帰ったあと、両親に帰って相談して見ると、

「家のことは気にせず、気になったらやってみたら良い」

 とディミが言った通りで、僕は勉強することに決めた。

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