第20話 誕生日二日目

 掛田さんの誕生日の翌々日、朝10時――。

 俺は駅で掛田さんと待ち合わせをしていて、ホームに置かれたイスに座っている。


 トントン――。

 ちょうど正面に見えるバス停で待っている人々を観察しながら、ボーッとしていると、唐突に肩を叩かれた。

 びくりとしたけど、左側に視線を移すと……。


「割ヶ谷、おっはよ」


 とびきりの笑顔をした掛田さんが挨拶をしてきた。

 この前に見た私服姿とは、また一味違う良さがある格好をしている。

 まぁ、素直に言えば、可愛かった。


「おはよう」


 掛田さんの目を見て挨拶を返してイスから立ち上がった。


「時間もギリギリだし、急ごっ」

「あぁ、そうだな」


 そうして、運良くちょうど来た急行電車に乗り込む。

 そのときの、掛田さんに腕を掴まれて引かれている感触が生温かくて、無性に記憶に残った。


 車内は意外とそこまで人が乗っていなくて、座席が空いていたから俺たちは座った。


「二人だけでどっか行くのって初めてだよね」

「確かに、そうかもしれない」


 ということは……。

 広義のなのではないか。

 付き合ってないにしろ、男女二人だけで遊びに行くなんて、少しぐらい深い意味を持たされても言い訳できない。


「デート……だね」

「…………」


 掛田さんが、恥ずかしそうにそう言った。

 こちらを見てくる顔も赤くなっている気がする。

 俺は、肯定も否定もできなかった。


「わたし、楽しみだなぁ」

「俺も、楽しみ」


 掛田さんは微笑んだ。

 やっぱり、笑顔が一番だと思った。


 話が切れたタイミングで、ふと前を向くと、正面に座っていた二人組の女性がこちらを見ていたことに気づいた。

 意識して声を聞いてみようと耳をすませば、微かだが内容が聞こえる。


 初々しいね――。

 女の子の方が積極的じゃん――。

 あっちからなのかな――。


 どうやら、俺たちの話をしているのかもしれない。

 完全にカップルに間違えられている感じだ。

 なんだか複雑な気分になる。


 女の子、あの子のことすごい好きそう――。


 何を見て聞いて、そう思ったのかは分からない。

 だけど、その発言が俺の耳には鮮明に聞こえた。

 そして同時に、掛田さんが俺を好きだという事実が深く思い出させられる。

 誕生日という名目で出かけているのだが、それも掛田さんからすれば特別な意味があることなのかもしれない。

 いや、絶対にそうだ。

 そう思うと、俺の行動に責任を感じてきた。


 男の方も、あんな子だったら満更でもないんじゃない――?


 そうなのかもしれない。

 掛田さんと遊びに行くことを約束したとき、俺はそれがどんなことなのか、心の奥では理解していただろう。

 本当は……。


「割ヶ谷? 神妙な顔してどうしたの? 体調わるい?」

「いや、大丈夫。なんでもないから」

「なら良いんだけど」


 あの二人組は、すでに違う話をし始めている。

 彼女らに勘違いされたことは、決して嫌ではなかった。



   / / / / /



 電車は終点につき、俺たちは駅ビルの外に出た。

 夏休みの街は人で混雑している。

 人混みをかき分けながら、目的地の映画館へと歩いていく。


 10分も経たずに、ここら辺ではトップクラスの大きさを誇る映画館に着いた。

 見る映画は掛田さんの希望で、最近話題のホラー系だ。


「そうだ。なんで掛田さん、ホラー映画見たいの? 好きとか?」

「あー……。むっちゃ好きとかじゃないんだけど、なんか流行ってるっぽいし、見たいなーっつって」


 掛田さんのことだから、偏見かもしれないけれど、恋愛系やそういう類のものを提案してくると考えていた。

 だからその作品を聞いた時は、てっきり怖いモノが好きとかの趣味を持っているのかと思ったが、実際は違うらしい。


「割ヶ谷は怖いの大丈夫?」

「まぁ、ほどほどなら」

「そっかぁ。わたし、他の人よりかは怖がりかもしれないからさ」


 良かった――。

 ほどほどとは言ったが、この映画の程度によっては悲鳴が洩れるかもしれない。

 俺が怖がる隣で、掛田さんがなんでもない顔をしていたら、面目が潰れるかもだったから、掛田さんも同じなら多少はそうなっても安心か。


 俺たちは機械で予約していたチケットを発券して、ロビーで入場を待つ。

 その間にポップコーンとドリンクを買っておく。

 ホラー映画にポップコーンは相性が悪い気がしたが、せっかく映画館に来たのだから食べておこうということになった。


 しばらくするとアナウンスが流れて、俺たちはシアターに入る。


「あれ、もう半分くらいなくなってない?」

「あ、ほんとだ」


 広告映像が流れている途中、掛田さんがポップコーンが減っていることに気づいた。

 俺たちが、少し食べすぎたかもしれない――と笑い合っていると、部屋が暗くなって上映が始まった。

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