まだまだお手伝いは継続で
「にひひひひっ、素直じゃないんだから」
よかったら表に出てみてよ。と笑うコタローの言葉に、わたしは玄関の方へと行って、そのドアを開けてみた。
「うす……」
「わっ、イチローくん!」
いつからいたんだろう。ちょっと疲れてるのかな、目の下に薄いクマのあるイチローくんがそこに立っていた。
「これ、この2週間ちょっとの給料。もう弁護料は抜いたから、ほんの少しだけどこづかいくらいにはなるだろう」
「わっ、すごい。わたしはじめてだよ、自分でお給料もらうの」
ありがとう、と受け取ると。「じゃっ」とイチローくんが帰ろうとした。
だからわたしはその手を思いっきり掴んだの。
「イチローくん。わたしね、まだわからないことがたくさんあるよ! こわいのは苦手。でも、もう少し色々勉強して、わかるようになってイチローくんやコタローのお手伝いがしたい」
「別に。弁護料分くらいは働いてもらったんだ、もう地獄の役所なんか行かなくていいんだぞ。今日言ったみたいに、嫌なことだってたくさんある」
「でも、それがいっぱいあるのがイチローくんのお仕事なんでしょう? それならわたし、もう少しお手伝いしたいと思うんだ。だって、あんなにたくさんの書類、大変だと思うもん。……だめかな?」
そう言うわたしの顔を見て、イチローくんはおどろいたような、少し泣きそうなような、変な顔をした。
「あっ、だからほらお手伝いだから、お給料とかもいらな……いたっ」
「ばか、働いたらしっかりその分をもらうようにしとけ。カモにされるぞ。あと
べしっとわたしのおでこにデコピンをしながら、イチローくんはそう言って笑った。
「えっ、じゃあ」
「これからもよろしく頼む。でもきつかったらコタローに言うこと、いいな?」
ちょっと照れてるようなイチローくんの顔はめずらしい。なるほど、クラスの子たちがスマホで誰かの写真を撮りたくなる気持ちがほんの少しわかったような気がする。
「じゃあ」と帰ろうとするイチローくんの手をわたしは握ったままだったので、少し変な顔をされた。
「イチローくん、ごはんまだでしょう? せっかくだから寄っていってよ。ごはんときゅうりとか、ちょっとしたおかずならまだあるし! おじいちゃんおばあちゃんも、昔お世話になったって言ってたから喜ぶと思うんだ」
「あ、いや、それは」
「菊乃、どうしたの外でそんな話して……あら」
様子を見に来たおばあちゃんの声がすぐ後ろからする。
そうなの、おばあちゃん。イチローくんね、あんまりごはん食べないんだよ。だから今からでも一緒にいいかな?
「あらぁ、あなた。空木先生のお子さん? お孫さんかね? ようお顔が似とうけども」
「ああ、えっと。そう……かな、はい」
菊乃、せっかくだから上がってもらいなさい。というおばあちゃんの言葉に、わたしは思わずイチローくんの顔を見た。まっしろな髪、とってもきれいな顔。
おばあちゃんおじいちゃんが昔お世話になったってことは?
今わたしよりもちょっと年上って計算が合わなくない?
あれれ、イチローくんって本当はいくつなんだろう。
ま、いっか。なんだか不思議なことがいっぱいだけど、イチローくんもコタローも悪い人じゃない。まだまだ知らなきゃいけないことがたくさんあるけど、わたしはもう少しイチローくんをお手伝いしたいと思ったんだ。
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