子供が可愛すぎて氷の伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽

第一章

第1話 ラッキージンクスの令嬢と氷の伯爵様

私――キーラ・ナイトミュラー男爵令嬢と婚約を結べば、みんな真実の愛に目覚めて、真実の愛の相手が見つかるらしい。




そのせいで、私と婚約を結べば、真実の愛が見つかるというジンクスの噂がたち、真実の愛のジンクスを求めて婚約を申込み、真実の愛の相手が見つかれば、私と婚約破棄をするという繰り返しだった。




おかげで、私はラッキージンクス扱いの令嬢となっていた。




そして、9番目の婚約の時に私は知らない男に夜会で襲われた。




何とか未遂ですんだが、婚約者であったヘイスティングス侯爵家の跡取りジェレミー様とはそれが理由で婚約破棄。彼は9番目の婚約者だった。




それから、私にはラッキージンクス令嬢だけでなく、ふしだらな令嬢という噂がたった。おかげで、婚約を申し込んでくる家はなくなった。




それから、数日後。




私は、リクハルド・マクシミリアン伯爵家に来ていた。雪の街と有名なマクシミリアン伯爵領。雪の降る中で馬車を乗り継いでやって来た。






マクシミリアン伯爵邸へと馬車が到着すると、当主であるリクハルド・マクシミリアン伯爵様が馬車の扉を開けて私に手を差し出した。そっと、その手に乗せて馬車を降りた。




広大な手入れされた美しい庭。お城のような白亜の邸に豪華だなぁ、と圧倒される。




「遠いところをよく来てくれた。キーラ嬢。俺がマクシミリアン伯爵家当主である、リクハルドだ」


「初めまして。キーラ・ナイトミュラー男爵令嬢と申します。マクシミリアン伯爵様にお会いできて光栄です」




スカートを持ってお辞儀した。顔を上げれば、冷たい水色の髪に透き通るような水色の瞳。冷たく他者を見下ろすほどの高身長の彼が私を見ていた。




「では、こちらへ」


「はい」




その彼の案内で部屋に通された。見渡せば、部屋の中も豪華だ。暖炉で暖められた部屋。それなのに、彼の威圧感から部屋までも凍りそうだった。




噂通りの方だ。




見目麗しく、冷酷非情。若くして伯爵位を継いで当主となったリクハルド様。そのために騎士団を退団したという話も聞いたことがある。




「楽にしなさい」




立ったままの私に、冷たい表情のままのリクハルド様が座るように促した。彼が目の前に座ると、私も合わせて座った。




「では、さっそく話をしてもいいか?」


「も、もちろんです」


「キーラ嬢。婚約を申し込んできたが……」


「は、はい。マクシミリアン伯爵様。突然の婚約の申し込み、ご迷惑おかけします。それなのに、お受けしてくださりありがとうございます」




婚約が申し込まれなくなった。リクハルド様は、初めて我が家から婚約を申し込んだ唯一の方。突然の申し込みに驚いているのだろう。


お父様が突然、前触れもなく申し込んだせいで。




婚約などに頼らなくても、今までの婚約破棄のおかげで、私にも、ナイトミュラー家にも慰謝料はたっぷりで、お金にはまったく困らないのに……「このまま結婚できなかったらどうするんだ。とりあえず行け」と言って家を追い出された。




婚約破棄されたどころか、ふしだらな噂のせいで我が家は醜聞まみれだった。そして、お父様は「疲れた」と言って、外国での仕事を見つけて私を置いて出て行ってしまった。




おかげで帰るところはないのだ。




重い沈黙が流れると、空気を察したリクハルド様が執事に手を挙げた。




「ケヴィン。温かいお茶を淹れてやれ」


「かしこまりました」




目の前のテーブルに淹れられたお茶が冷めていることに気づいたのか、リクハルド様の指示で新しいお茶が淹れられた。




ちょうどいい温度で淹れられたお茶を飲むと、目の前の冷たい雰囲気からホッとする。




「……美味しい。これはミュントスの茶葉ですか?」


「わかるのか?」


「お茶は大好きです。色んなお茶を嗜みましたし……でも、ミュントスの茶葉は寒い気候のところしか育たないと聞いてます。だから、とても珍しくて……あまり飲んだことないのですぐに気づきました」




ミュントスの茶葉は、ミュントスの山でしか摂れない珍しい茶葉だ。しかも、そのせいで高級茶葉であり王都などの街ではたまにしか出回らない。




さすがマクシミリアン伯爵家だ。ミュントスの山はマクシミリアン伯爵領にあるし、貴重な茶葉をおかしな噂のある客人に出すとは……。




お茶を飲む私をジッとリクハルド様が見つめている。鋭い目つきのせいで、いたたまれない気分はある。




どうせ、すぐに婚約破棄されるだろう。私はラッキージンクスと呼ばれた令嬢だ。すぐに真実の愛がリクハルド様にも見つかる。そのうえ、今はふしだらな令嬢という不名誉な二つ名まで手に入れた。


私と婚約を続ける意味はない。




「キーラ嬢」


「は、はい」


「名前をキーラと呼んでも?」


「も、もちろんです」


「では、俺のこともリクハルドと、名前で呼んでくれ」




ということは、私はリクハルド様と呼ぶ権利を得たのだ。この気難しいと言われる氷の伯爵様に。




「では、キーラ。結婚は? する気はないのか?」


「してくださるなら嬉しいですが……」




むしろ、こんな貴重なお茶を出してくださってありがとうございますと思える。




「では、今夜からはマクシミリアン伯爵邸で過ごされるといい。部屋も準備してある」


「ご、ご迷惑をおかけします……」




王都のナイトミュラー邸を売って、海外に行ってしまったお父様。私の行く場所として、マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込んで、住むところを確保した。




それでも、リクハルド様からここに住んでいいと言う言葉を聞くまでは、少しだけ疑っていた。


リクハルド様を見ると視線が交わる。なんだが照れてしまうと、そっと顔を反らした。




「……婚約者になるのなら、一緒に住んでも問題はないだろう」


「そ、そうですね」




恥ずかしそうにした私を見て、不埒なことを考えていると勘違いされてないだろうか。そんなことをかんがえてなかったけど、ますます恥ずかしい。




「……では、結婚前提の婚約を結ぶということでかまわないか?」


「お願いしたいですが……あ、あの、私の噂をご存じないのですか?」


「噂など些細なことだ」




あれが些細な噂だろうか。まったく細かいことを気にしてない気がする。さすが冷酷非情な伯爵様だ。




「君に問題がないのであれば、すぐに婚約を結ぶ。結婚しても、形だけとはいえ夫婦としても責も負う」




いや、重い。なんだろうか。重い言い方ですよ。




すでに結婚を考えているような言い方だ。そんな方は初めてで驚いてしまう。




でも、この言い方の理由もわかっている。私に結婚の意思確認する理由も。




リクハルド様が、婚約者を持つのは、私で二人目だ。




誰とも二度目の婚約を結ばないという噂のリクハルド様。


彼には、前婚約者であった令嬢との間に子供がいるからだ。








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