第3話

## 📘 第3話:沈黙の伏線


神崎レイは、鏡を見るたびに思う。

自分の顔は、嘘をつくためにある。

目元の角度、口元の緩さ、声のトーン――

すべてが“信じさせるための設計”だった。


だが最近、鏡の中の自分が、

誰かに見透かされているような気がしてならなかった。



朝倉ユウと会うたびに、

レイは“自分の台詞”が少しずつ狂っていくのを感じていた。


彼は、何も問い詰めない。

何も暴かない。

ただ、沈黙の中で“見ている”。


それが、いちばん厄介だった。



ある夜、ふたりはホテルのラウンジで落ち合った。

レイは、いつものようにターゲットの情報を整理しながら、

ユウとの会話を“演出”していた。


「あなたって、いつも余裕そうね。」


「そう見えるようにしてるだけだよ。」


「じゃあ、私と同じね。」


「……いや、君は違う。

君は“余裕があるように見せてる”んじゃなくて、

“余裕があると思わせたい”んだ。」


レイは、グラスを持つ手を止めた。

その言葉は、彼女の“演技の構造”そのものだった。


(どうして、そこまで見抜ける?)



その夜、別れ際にユウが言った。


「君の嘘は、優しい。

でも、優しさって、いちばん危ないんだよ。」


レイは笑って返した。

だがその笑みは、もう“演技”ではなかった。

動揺を隠すための、反射的な防御だった。



帰り道、レイはスマホを開いた。

ユウの名前を検索する。

だが、出てくる情報はどれも“整いすぎていた”。


(……これは、私と同じやり方。)


彼の経歴、肩書き、SNSの投稿――

すべてが“見せるために作られた”ものだった。


(まさか……)


レイは、初めて“可能性”を考えた。

この男も、私と同じ側の人間かもしれない。



その夜、レイは眠れなかった。

ベッドの中で、何度もユウの言葉を反芻する。


「君の仮面、少しだけ温度があるね。」


あのときは笑って流した。

でも今ならわかる。

あれは、ただの比喩じゃなかった。


彼は、レイの“仮面の裏側”に触れようとしていた。

それは、詐欺師にとって――

殺意にも等しい行為だった。

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