第3話 知を知る時

僕は木々の隙間から見える、地平線から昇る朝日を馬車の前でガンの隣に座り見つめる。


「坊やは寝ないのかい?」


レイヤとフロスは寝ているが、僕が一向に眠る気配がなかったからか朝日が昇ってきた辺りでガンに声をかけられる。


「僕は寝れないんです」


「寝れないって?」


「生まれた時から寝たことないんです」


「本当に?」


「本当ですよ」


「本当に⁉疲れたりとかしないの?」


ガンは僕が思っていた反応よりも凄みと勢いを持ち聞いてくる。


動揺しながらも自分の現状を正確に答える。


「生まれてからずっと眠るという行為をしようと目を閉じたりしてもずっと頭は起きていて、それでも疲れることがないんです」


「まさか。それは……」


ガンはなにかを思い出したのか少し目を伏せ考え込む。


「…それは特異スキルかもな」


「特異スキル?」


「ああ。なんだ?レイヤ先生とかに聞いたりしないのか?」


「いや、特に…。あ!そういえばママが『それは神様からのプレゼントよ!アリアと同じなんだから!』って言ってました!よく考えたらアリアって誰だろう?分かりますか?」


「アリアか……。アリアは俺達エンペルの仲間の一人だよ」


「へぇー。パパとママたちの仲間なんですね!」


「あぁ」


「僕はそのアリアさんという人と同じということでママたちは喜んでいたんですか」


「そうだろうな。ただ、アリアはもうこの世にはいない」


「え…」


「アリアはエンペルでの最後の活動、イェゲーレとの戦いで殺されてしまった」


「そうなんですか…」


「あぁ、だがな坊や。坊やと同じスキルでアリアも嬉しいだろうよ」


ガンは目を遠くへ向け言う。


その視線は何もない所をただ見ているようだが、何かがその瞳には確実に映っていた。


僕が何も言えずにいるとガンが


「スキルについては分かるか?」


僕は分からないと答えると自慢げに


「俺はスキルについて色々知っているんだ」


と言った。




聞くとガンは冒険者とは、別にスキルについての本を集め、調べていているらしい。


「スキルっていうのは知ってる?」


「誰でも持つことが出来る技?みたいなのでしょうか」


「まぁそんな感じだね。例えば簡単な怪我なら通常より数倍早く治る『再生』とかかな。人によって違って持っている人もいるし、いない人もいる。そのスキルの中でも強さや汎用性には大きな差がある。時を止めるスキルもあると聞く」


「時を…」


「けど時間を止めるほどのものは普通のスキルではない」


「それが、特異スキル?」


「半分正解かな、特異スキルっていうのはエクストラスキルに進化する可能性があるスキルのこと」


「エクストラスキル?また新しいスキル…」


「難しかった?」


「いや、大丈夫です。続けてください」


「オッケー。特異スキルというのはさっき言った通り進化の可能性があるスキルで、そこまで強かったり特別ということはない。だがこの世界で持つことが出来るのは一人だけで、同じものは持っている人が生きている限り発現することはない。その数少ないスキルの中からまた少ない可能性で特異スキルが進化してエクストラスキルという強力なスキルに進化する。例えば時間止めるスキルとか、君のお父さんが持っている『勇者』というのはエクストラスキルだ」


「勇者?パパ以外勇者はいないんですか?」


「スキルの名前が勇者ってだけで、女神に祝福されたものが勇者だから。勇者のスキルを持っていない勇者もいるよ。今はいないけどね。勇者のスキルと女神に選ばれた勇者は別物だよ」


「へぇー。どうやってエクストラスキルになるんですか?」


「それが実は分かっていないんだ。一部では感情の揺さぶりがあるラインを越えることが進化する方法だと言われている。だけどそのラインが普通に生きていても超えないから進化はそうそうしないとか。他には女神様からの一瞥がなければいけないだとか眉唾物の噂がほとんどで正確なものは分かっていない」


「へー、じゃあその強くなる可能性があるスキルを僕が持っているってことですか」


「あぁそのはずだ。ただまだ正確なことは分からない。それと内容もそこまで詳しくは知らない」


「そうですか」


小さな声で


「アリアが教えてくれなかったからな…」


その言葉に僕は触れないでおいた。




その後も会話は淡々とと進む。


会話がなくなってきたところで質問を求めてくる。


「なにか質問ある?」


知りたいことはたくさんあった。だが、僕は一番知りたいことは…。


「実は…」


先程の襲撃について詳しく説明をする。


「そんなことがあったのか…。大丈夫だったかい?」


「怪我はないんです。パパに助けてもらって」


ガンはその言葉に笑みをこぼし


「それは良かった。レイヤ先生は凄いだろう?」


「はい!」




少し考え僕らを襲ってきたサベージという吸血鬼について思い出す。


「パパが倒した相手、魔人について知りたいです!」


「魔人かー…そうか分かった」


「ありがとうございます!」


「そうだなー。なにから説明しようか」


「じゃあ、魔人と人の違いから」


「分かった。まずこの世界には大きく分けて二つの勢力があるんだ」


「二つ?」


「そう二つだ。一つは女神に生み出された、俺達人族。そして、魔王に生み出された魔人族」


「なにか違いはあるんですか?」


「人族は説明した通りスキルを所有する。強く相手になにかを及ぼすスキルは脳への負担がもの凄く大きいから、負担を防ぐためにスキルは使いすぎと何か副作用が出て、使用が一時的にできなくなったり解除される」


「じゃあ魔人は?」


「魔人は人と違ってそもそもの身体的な能力が上回っている。種類によって違う特徴をもっているのが魔人だよ。例えば吸血鬼の吸血とかね」


「魔人もスキルを扱う?」


「いや、使わないよ。それは魔人と人の最大の違いであって、魔人が使うのはスキルではなく魔法という点だ。魔法は魔人の体内に流れる魔力というのを消費して発動する。スキルは使いすぎても直接的に命に影響を及ばすことはほぼない。その前に副作用がでて使えなくなるからね。だが、魔法には制限はないが、魔力は体を動かすのにも使われているからね、使いすぎると命に関わる」


理解出来ないでいる僕を見てガンは「まぁ、簡単に言えば人間はスキルを使って、魔人は魔法を使うっていこと」


「そういうことですか」


簡単に言いすぎな気もするが僕はそれで理解出来た。




「他には質問ある?」


「えーっと」


「別に何でもいいよ。お父さんの英雄譚とか」


「そうですねー…」


僕の言葉が出てこなそうだったから気を使ったガンが話題を振る。


「そういえば勇者についての説明してなかったね」


「お願いします」


「勇者の特権というか勇者になるとできることが一つあるそれは聖剣を持てることだ」


「それが特権なんですか?」


「あぁ。聖剣は女神に選ばれたものに授けられる剣だ。普通の人には与えられないしそれ相応の力がなければ使うこともできない。ただ、扱うことができれば単純に身体能力が聖剣を操る時は数倍に跳ね上がると言われている」


「正確に分かるんですか?」


「残念ながらその数値というのは正確な指標がないから分からないんだ。刀身から溢れ出す光は女神マリアの光で、その光を浴びると、浴びた時間によって魔人は魔力が一時的に減り弱体化するし、神聖系の剣だから神聖系でのみしか倒せない相手にも対応可能だ。人は長時間浴び続けると身体に不調がおきたり、スキルの効果が弱体化するんだ。そんなのを直接見たら治るのもとても時間がかかるからお父さんは見ないでって言ったんだよ」


「だから見ないでって…」


「勇者のスキルについても説明しておくか。勇者のスキルが持つ能力は火、水、草を創造する力があることかな」


「それだけですか?」


「それだけで済ませることができるスペックじゃないんだよこれが」


「どういうことですか?」


「それと、火、水、草を創造するということは。これはこの世界における基本の元素を無から生み出す力があるということだ」


「それのなにが凄いの?」


「この世の源を生み出せるってことなんだよ。女神の力を持っていると同義だ」


「それが凄いの?」


「普通はできないからね。まぁ大きくなったら分かるよ」


「そっか」


「フロス様についても知りたい?」


「うん」


「フロス様は姫様という立場があったがもっと別の存在で知られていた人なんだ」


「別の?」


「それは聖女という立場なんだ。聖女については?」


「知らないです」


「聖女というのは人ではないんだ」


「人じゃない⁉」


「人じゃないというのは大げさだったかもな。ただ聖女の体は人なんだが魂が違う。スキルが人の体に宿る女神の祝福だとしたら、聖女は魂に祝福を受けた人達のことだな。魂の色が違うみたいな感じだな。魂が体に入る前に女神が直接一瞥を向けたことで聖女という人種になると言われている」


「それがママなの?」


「あぁ。だけどな聖女は差別の対象になっているんだ」


「え…ママが差別どうして?」


「それは、女神マリアの寵愛を独占しているという理由でだ。昔よりはマシになってはいるんだけどな」


「どうして?そんなよくわからない理由で?」


「大昔はそんな差別はなかったらしい。だがイェゲーレが発足されたころからその差別が始まった。イェゲーレが率先して差別をこの世界に浸透させようと動いていた。差別の理由なんていうのは浸透させやすくするための根拠のないでまかせだよ」


「噂だけでそこまでなるの?」


「あの組織は表世界にも大きい権力を持っていたことでその思想が蔓延していた。しかも奴らは聖女を差別するだけではなく、聖女狩りという聖女を殺して回っていたんだ」


「そんな人を殺すことを皆は正しいと思っていたんですか?」


「昔の人は聖女狩りなど行動まであったら従うしかなかったんだろう。今の人達はそういう風に皆言われて育ってきたから正しいという意見がほとんどだ。そもそも聖女は人じゃないっていうのが常識として根付かされていたしな」


「そんなひどい。というかどうしてイェゲーレはそんなことをするんですか?」


「聖女が死んだ後に魂が固まり残る『聖マリアの雫』を集めていた」


「どうして『聖マリアの雫』というのを集めていたんですか?」


「それは分からないままだ。ただ今は聖女狩りはもう存在しなくなっている。行動を起こす組織はなくなったからな」

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