第2話
「あぁ、さすがは伊織。僕の自慢のひとり娘っ!ありがとう伊織。うんうん、そうだよね。伊織なら大丈夫だよね」
アハハハハー
なーんて、さっきまでとは打って変わって豪快に笑いだしたお父さん。その変わり身の早さといったらさすがというか、なんというか。
「それでお見合いはいつなのかしら」
「あぁ、明日だよ」
「明日ぁ?」
ちょっと待ってよお父さん!
まじで明日なの?トゥモローなの?
来週とか来月とかの間違いではなくて……?
「伊織がお見合い嫌だったらどうしようって思うと今までなかなか言い出せなかったんだよね。そうしたらいつの間にか前日になっちゃってたから焦ったんだけど安心だなぁ。良かった良かった」
いやいやいやいや、全くもって良くないから。
もっと前からわかっていたのなら、ちゃーんと伝えてくださいな。
明日なんて、明日……なんて。
心の準備は出来ていたって、何の支度も出来やしないわよ。
「あ、そうそう。」
パンッと手を叩いたお父さんが何かを思い出したのかゆっくりと口を開いた。
「お見合いとはいえ、明日は着飾らなくて良いからね。相手方が目立ちたくないみたいだから、普通の洋服に、普通の髪型で」
なるほど、それなら何も困ることはないか。
普通の洋服に、普通の髪型、ねぇ。
私の普通が相手方の普通と同じかどうかはわからないけれど、ようはいつも通りでいいってことよね。
「それからそれから、明日は公共交通機関を使って行ってね」
「わかっ‥‥‥」
あれ?どういうこと‥‥‥
「よし、それだけだよ。それじゃあ伊織、お休みなさい」
「ちょっと待って」
何かがおかしい。
「なんだい?」
「“交通機関を使って行って”って」
「うん、そうしてくれるかな。車で送迎したいところだけれど、何しろ相手方たっての希望だからね。それに、伊織は慣れてるだろ?毎日高校まで地下鉄で通っているじゃないか」
確かに私は慣れている。
いくら父がすごいからといってそれに甘えるのは違うと思って、この2年間。
私は毎日電車を使って、私の素性を誰も知らない隣町の高校に通っているのだから。
だからそれは問題じゃない。私が言いたいのはそんなことじゃない。
「お父さんは付いてこないの?」
まるで一人で行ってこいと言われたような気がしたのは、きっと私の思い違いよね。
「うん、明日は会議があるから付いていけないんだ。伊織一人で行ってくれるかな。お相手の写真を見せるからちょっと待っておくれ。」
紹介するとか言っておきながらまさかのまさか。自分で探せというのかしら。
そんなことを考えている私の前で、ポケットをごそごそと触っているお父さん。
胸ポケットを触ったと思えば今度はズボンの左ポケット、そして最後は右ポケット。
あれ?
「なーに、大丈夫だよ。相手方は伊織の顔を知ってるからすぐわかるはずさ」
アハハハハー
なーんて、笑えばすむと思っているのかしら。
写真が見つからないのなら、素直にそう言ってよね。
何から何までダメダメすぎて、もう突っ込む気すら起きないわ。
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