第16話

 夜会会場に入ると、アルベルトを避けるように貴族たちが端に寄った。



 その先には玉座に座った国王と、そこから見下ろす位置に


 あれが第一王子で、その隣にいる女性は誰だ。王子の前で床に伏せて泣いているのは、宰相殿とその夫人。では、あれがリリシア令嬢か?


 五人の姿が見えた。

 国王はもちろん王子や宰相夫妻のことはわかったが、もう二人、女性には見覚えがなかった。多分、宰相夫妻とともに床に伏せているのがリリシア令嬢だろうが。であれば、王子の隣の小柄な女性についてますます謎が深まった。


 まぁ、そんなことよりもとアルベルトはまず国王に挨拶をしなければと思い、国王のもとへ貴族の間を歩き、寄った。

 今日は、リリシア令嬢の連行ということでアルベルトのもとで修業している処刑人人見習いを四人連れてきていた。

 アルベルトが先頭で、四人が後に続くように歩いている。

 国王に近づく途中、令嬢のことを通り過ぎるタイミングで一瞥したが、その顔は見えなかった。



「国王陛下、アルベルト・アルバイン、今、はせ参じました」

 アルベルトは、帽子を胸元に持ち、お辞儀をした。

「よくぞ来てくださった。アルベルト殿」

 国王は、先日謁見した時よりも豪勢な服を着ていた。

「そこで床に伏しているものが、リリシア・ミッシュバルクです」

 国王が指をさしたので、そちらを向く。 

 やはり、あの方が。

 思った通り、伏せている女性がリリシア令嬢だった。


「わかりました、では」


 今日はリリシア令嬢を連行するのが目的だ。なのでここに長居しても仕方ないと、連れてきた四人より先に歩き出し、リリシア令嬢の前に立ち手を差し伸べた。

「どうぞ。初めましてアルベルト・アルバインです。今回あなたの処刑を担当する者です」

 目の前のリリシア令嬢は、赤色の華やかなドレスを着ていた。


 まだ、若いのに。


 リリシア令嬢は美しい女性だった。顔だちを見るにアルベルトと同じか少し若い女性のようで、アルベルトは、この若い女性を処刑しなければならないのかと自らの職を呪った。

 と、同時に手を握った令嬢に対し違和感を抱いた。


 なぜ、この方は私のことを見つめているのだ。


 リリシア令嬢の青色の目は明らかにアルベルトのことを見つめていた。

 他の貴族も、国王でさえまともに私の目を見ようとしないのに。全くそらすことなく、ジッと見つめてくる。

 アルベルトはその様子に不思議に思ったが、死刑宣告されたばかりだ。頭がおかしくなっているのだろうと解釈した。


 すると、

「娘に触るな!」

 アルベルトとリリシア令嬢の手を離させようと、涙を浮かべたミュラー・ミッシュバルク公爵が飛びついてきた。

 途端、リリシア令嬢の手が離れる。

 これが、正しい反応だとアルベルトは思った。

 一般市民でさえ私に触れたら呪われると触ってこようとしないのに、貴族であればなおさらその傾向は強かった。

 しかも、ミュラー・ミッシュバルク公爵と言えば、貴族の中でも高貴な存在だ。

 そのご令嬢も当然。

 しかし、手が離れたリリシア令嬢はそれでもなおアルベルトを見つめてきていた。

 父親であるミッシュバルク公爵の反応を考えても、やはり気が動転して頭がおかしくなっているのだろうとアルベルトは考えた。

 でなければおかしい、それ以外の理由に貴族の身であるリリシア令嬢が自分を見つめてくるのはおかしいと。


「陛下、お願いです。何とかリリシアをお助けくれませんでしょうか」

 ミッシュバルク公爵と夫人が、どうにかリリシア令嬢を助けようと国王に嘆願していた。

 それはそうだろう。自分の娘が処刑されるのだからと思った。

 それはアルベルト自身そうだった。リリシア令嬢に何らかの思いがあるわけではなかったが、やはり状況を考えても、国王には処刑執行の委託を受け入れたといったが、まだ本当は決心できていなかった。


「しつこい。貴様らも相応の身分であるから、我の寛大な心で処刑をリリシアだけにしてあげているんだ。リリシアが犯した罪は本来ならミッシュバルク家の者、全員を処刑してもおかしくはない重罪だ。これ以上、国王である我の判断に意見するなら、お前ら二人にも死刑を科すぞ」

 アルベルトでさえリリシア令嬢には同情をしてしまうほどだったが、国王はなおも厳しい姿勢を見せた。


「お父様、お母様。もう大丈夫ですわ。頭を上げてください。私は天から与えられた運命を受け入れます」

 ミッシュバルク夫妻と国王のやり取りのなかでも、やはりリリシア令嬢に気を取られていたアルベルトだが、そんな中、リリシア令嬢が突如立ち上がり、初めてその声を聴いた。

 令嬢から発せられた言葉にアルベルトは驚嘆した。

 いかに貴族といえども処刑は怖いはずで、いままで何人も貴族は処刑してきたし、自身の父親が貴族を処刑するのも幼いころから見てきていた。

 その経験から、多くの貴族が処刑のその瞬間まで足掻き抵抗していたのも知っている。

 しかし目の前の若き令嬢は、そのアルベルトの前で覚悟を見せた。

 それに、アルベルトは驚き、そしてまた自身も決心を固めた。


 私が処刑を迷っていてどうする。若きリリシア令嬢は死刑を宣告されたばかりだというのにこうして覚悟を決めているではないか。なんと誇り高き女性だろうか。今までの貴族たちは、最後の最後までその罪を認めず、醜く喚き散らしていたというのに。この誇り高き女性の覚悟に答えずしてどうする!



 アルベルトは、先程までの気が動転して頭がおかしくなっているというリリシア令嬢に対する評価を決めた。

 私のことを見つめていたのは、覚悟からくるものだったのだと。

 そのすがすがしいまでの様は、到底、気の動転からくるものではないことははっきりと感じた。


「お父様、お母様。今までありがとう。グランゼーノ王子、皆様、それではごきげんよう」

 リリシア令嬢は、ドレスの裾を持ち上げ、一礼した。

 さすがは大貴族の令嬢。処刑されるとわかったうえでのその仕草には気品を感じた。


 リリシア令嬢が今一度アルベルトを見てきた。



「では、参りましょう」

 その目はリリシア令嬢からの合図だとわかった。

 アルベルトはリリシア・ミッシュバルク令嬢を四人の見習いたちと共に連れだすように、夜会会場を出た。

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