薄ピンクでいちばん風が可愛い!

 空が不穏な灰色に染まっていた。

 放課後、部活が終わるころ。

 風がくるくると指先でペンを回しながら、私をちらりと見る。


 「ねえ、ひなちゃん。ちょっとだけ、寄り道して帰らない?」


 「空、あやしい」

 「でもほら、今のうちなら……」

 「……予報、見た?」

 「見てない!」


 ほんと、この子は――

 計画性ゼロで、感情に素直で……それが、ずるいくらい可愛い。


 私はため息をついて、鞄を肩にかける。


 「……じゃあ、少しだけ」


 「やった〜っ♡」



---


 けれど、予感は的中した。

 駅へ向かう途中。空からぽつり、と落ちてきた水は、すぐに本降りへと変わった。


 「うそ、まさかゲリラ!?」

 「だから言ったのに」


 慌てて走るが、間に合わず――

 屋根のある公園の東屋に、ふたりで飛び込む。


 「ぬれたぁ……」

 風が前髪をぴとりと貼りつけながら、制服のシャツを握る。


 そのとき。


 ――一瞬、息が止まった。


 濡れた布越しに、下に着ている薄ピンクのレースの下着が、くっきり透けて見えた。


 「……っ!」


 私は反射的に顔を背ける。


 「ひなちゃん?」

 「前、閉じて」

 「え?」


 「シャツ、透けてる……下着、見えてる」

 「……っっ!?!?」


 風が慌てて胸元を押さえる。


 「えっ、うそ……ま、まじで見えてた!?」

 「まじ」

 「ひなちゃん、見たの?」

 「見えた、の。見たんじゃなくて」

 「えっ……どのくらい?」


 「……色、形、レースの縁取りまで正確に把握できたくらい」

 「ぅえぇぇえええ!?!?」


 風が顔を真っ赤にして、抱えるようにしゃがみ込んだ。

 私は、顔を逸らしながらも、自分の心臓の音が耳に響いて困っていた。



---


 「うぅ……ひなちゃんに見られたなら、もう……一周回ってアリかも」


 「アリってなにが」

 「だって、ひなちゃん、見てたわけだし……」

 「……風」


 私は東屋の柱に寄りかかりながら、濡れた制服を絞った。

 そして、震えている風の体温を感じて、そっと制服の裾を広げる。


 「……寒いなら、入って」

 「えっ?」

 「私の制服の中」


 「ひなちゃんの……」

 「こうでもしないと、風、風邪ひくから」

 「……やさしい」


 「……優しくない。ただの本能」


 そっと制服の裾の中に入ってきた風が、私の胸元にぴとりと額をあててくる。

 そのたびに、心臓がぐっと跳ねる。


 「……あったかい」

 「……風が冷たすぎるだけ」

 「でも、ひなちゃんの心臓、どきどきいってる」

 「それは……」


 言葉が続かない。


 だって、目の前にいる風の髪が濡れていて、制服の隙間から肌がふれていて、

 それでも「好きだ」なんて言えたら、たぶん、全部終わってしまう気がした。



---


 「ひなちゃん」

 風がそっと顔を上げる。


 「さっき、シャツ透けてたとき、恥ずかしかったけど……

  でも、見られたのがひなちゃんでよかった」


 「……風」

 「だって、他の誰かに見られるくらいなら、

  ひなちゃんに、全部見てほしいって、思っちゃったんだもん」


 その瞬間、私は限界だった。


 頭では「そんなこと言うな」って思った。

 でも口から出た言葉は、もう抑えられなかった。


 「……好き」

 「えっ?」


 「風のこと、ずっと前から……好き。だから、もう、そういう無防備なこと、しないで」

 「……無防備じゃ、なくなったら?」


 風が、じっと見つめてくる。


 「ちゃんと、好きって自覚したら……もう、止めないで?」


 「……止められないよ」

 「……ふふっ。じゃあ――」

 風が、私の胸にそっと顔を埋めて、囁いた。


 「いっぱい、好きになって?」

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