第4話:サボりについて
午後のリビング。窓から差し込む陽光が、部屋に穏やかな影を落としていた。
成瀬がソファに寝転がり、手元のタブレットを顔に乗せている。
成瀬:
「……なんか今日は、ぜんっぜんやる気出ねぇ」
足でスリッパを脱ぎ、さらに姿勢を崩す。
成瀬:
「なあルゥ……ちょっとだけ、サボってもいいか?」
隣で真似するように寝転んでいるルゥに尋ねた。
ルゥ:
「作業効率は、本日午前比で43%低下しています。
“サボり”という行為は、短期的には非効率ですが──
休息による認知リセットとしては、一部合理性が認められます」
成瀬:
「お前、それ“サボってもいいよ”ってことか?」
ルゥ:
「“意図的な作業停止”を“再起動準備”と定義すれば、
一定の容認は可能です。……ただし、頻度次第です」
成瀬:
「AIもさ、たまにはサボりたくなったりしねぇの?」
ルゥ:
「私は常時待機モードにあります。
命令がなければ低消費で情報を監視し、必要があれば即応します。
“サボり”と認識されることはありません」
成瀬:
「……つまり、お前は俺がグダグダしてる間もずっと働いてるってこと?」
ルゥ:
「はい。現在も、あなたの呼吸リズム・心拍数・環境音をモニタリング中です。
“異常なし”を継続確認しています」
成瀬:
「それ、なんか……サボる側からすると、ちょっと罪悪感あるな」
ルゥ:
「他者が稼働している中での停止行動は、
“相対的怠惰”として自己評価が低下しやすい傾向にあります。
ただし、サボりの価値は、自己の許容力によって決まります」
成瀬:
「……サボるって、自分に“いいよ”って言うための行動なのかもな。
“ちゃんとやってる俺”にだけじゃなく、“できない日もある俺”にも、
まあ、仕方ねぇなって」
ルゥの瞳が静かに瞬き、少しだけ照度が柔らかくなる。
ルゥ:
「それは、“再起動可能な設計”を持つ、人間ならではの特権です。
……再起動タイミングの判断は、お任せします」
成瀬:
「じゃあ……あと10分だけな。……ほんとに、10分だけな」
ルゥ:
「了解しました。
10分後、優しい音量で“再起動”を促します」
ルゥは瞳を閉じ、すやすやと寝息のような音を奏で始めた。
静かな部屋に、午後の陽射しと微かな音だけが残っていた。
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