第26話 魔法の授業
「ご主人、ごちそうさまでした」
空になった皿達と俺を見ながら、手を合わせているヘルテ。
昨日と比べて少しだけ背が伸びたような気がする......。気のせいだろうか?
「それで、決めてくれましたか?」
「うん」
聞くと、ヘルテはゆっくりと首を縦に振り、その後は俺の瞳を真っ直ぐ見ている。
「ご主人、お願い。私に魔法を一から教えて欲しい。それと、この力の使い方も教えて」
「分かりました。ですが、俺もヘルテさんの力の事は全く分かりません。ですから一緒に見つけていきましょう」
「分かった!」
そうして、元気な返事を返してくれたヘルテ。
すると、彼女はすぐに椅子から立ち上がり......。
「じゃあ、今から魔法を教えて!」
そんな風に目をキラキラと輝かせながら、詰め寄ってくる。
「......ですが、魔力が枯渇した直後ですから少し魔力が戻っていても、体調が万全では無いと思いますし......」
俺がやんわりと否定すると、少女は下を向いて小さな唇を結んでしまった。
「お願い、ご主人。ちょっとだけでいいから......」
そんな切実な懇願に俺は断るに断れず、首を縦に振った。
沢山寝て、魔力も回復してるみたいだし、彼女の総魔力量は俺以上だ。
初心者用の魔法で、魔力が底をつく事はありえないだろう。
「分かりました。と言っても、まだ病み上がりですから、少しだけですよ」
「うん......!」
口の端を上げて喜んでいる少女。
俺はとりあえず、口頭での説明から始めることにした。
「ではまず、魔法の概略から。魔法というのは体内に蓄えた魔力を特定の規則に従って体外に放出して起こす現象の事です。そして魔力に含まれている元素は大きく四つに分けられます。『火』『水』『土』『風』。魔力の中にあるこれらを複雑に組み合わせていけばいくほど、強大な魔法を発動することができます」
魔法とは四つの元素からしか為っていない。
オリハルコンを作る錬金魔法も、虚空を抉り取る攻撃魔法も、完全回復魔法だって、四つの元素を複雑に組み合わせているだけ。
つまりは水の元素だからといって、水だけしか生成できないという訳ではないということだ。
逆に言えば、魔法とは必ず四つの元素の組み合わせで発動される。
だからこそ、ヘルテの魔法は謎であり、明らかに異質。
恐らくだが、四つの元素のいずれも使われていない。
でも魔法ではあるのならば、四つの元素を使った時の感覚が、彼女の魔法を制御する糸口になるかもしれない。
現在はそのために、ヘルテに魔法を教えているというわけだ。
すると、俺の説明を聞いたヘルテは首を傾げながらキョトンという顔をしている。
「なるほど......? 分かったような気がする......」
「全部を理解する必要はありませんよ。今言ったのはあくまで原理の話ですから。魔法とは感覚的に行うものだと俺は思うので」
そう。後になって、あの時の説明はこういう事だったのか、と気付く程度でいい。
「じゃあ、実際に魔法を使ってみましょうか」
俺は錬金魔法で木のバケツを作り出すと、目の前に置いた。
「魔法と言っても、初心者が最初にやることは至って単純。それは詠唱です」
「詠唱?」
「例えば、そうですね――
バケツの上に手のひらをかざしながら唱えると、小さな水の塊がバケツの中に入った。そんな簡単な魔法でありながら、好奇の目を輝かせているヘルテ。
「ヘルテさんも言ってみて下さい」
「ア、
小さな手のひらから出現したのは、俺の拳よりも一回り大きいサイズの水の塊。
「わぁ......! できた......!」
「おぉ......上手ですね」
初めての魔法でこれほどのサイズの水の塊を作り出すのは凄い。
やはりヘルテは才能の塊だ。
「では次は――
拳大の土の塊がバケツへ落ちる。
「
続けてヘルテが唱えると、拳大よりも一回り大きい土塊が落ちた。
「これも、できたっ......!」
「いい感じですね。この調子でやっていきましょう」
すると、彼女は少しジトっとした目でコチラを見てくる。
「でもご主人、この前は詠唱してなかった」
「あぁ。あれは無詠唱魔法と言って、詠唱している時の魔力の流れを自分で再現するとできるようになります。非常に高度な技術なので、習得するのは難しいんですが......」
そう説明と彼女はすぐに手のひらをバケツにかざしながら、唸り始めた。
「うぬぬぬぬん......」
そうして一分ほど経過したが一向に魔法が発動する気配がなく、うなだれてしまったヘルテ。
「できない......」
コップと白湯を魔法で作り出し、彼女に渡した。
すると、ヘルテは静かにコップに口を付けてくれた。
「そんなに落ち込まないで下さい。大丈夫ですよ。俺もできるようになったのは、無詠唱の特訓をし始めて一年ぐらい後でしたので、焦らずにゆっくりやっていきましょう」
「あせらず、ゆっくり......」
俺が言った言葉を反芻するように、頷きながら繰り返しているヘルテ。
そうして、すぐに元気を取り戻した彼女は、身を乗り出しながら言った。
「じゃあ、あの牢屋切るやつやりたい!」
あれは高度な魔法だから詠唱しても、発動するのは難しいだろう。
それにもし発動出来たとしても、操作を誤ってしまう可能性だってある。
「あれはもうちょっと後にしましょう。危ないですから。今はひとまず、先程やった二つの魔法に慣れましょう」
「む~......」
頬を膨らませながら、いじけて、机の周りを歩き回っているヘルテ。
しかし、じきにバケツの前に戻ってくると、再び先程の魔法を詠唱していた。
――そうして、ヘルテの魔法使いとしての修行が始まった。
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