S級パーティを追放された最弱錬金術師~山奥でスローライフを満喫していたらいつの間にか国が滅んでいたんだが。一方俺は培った経験と奴隷少女が持っていた史上最強魔法『創世』で無双する~
ゆるふわ衣
追放と旅立ち編
第1話 何気ない日常
S級ダンジョン。
冒険者の誰もが羨むその超高難易度のダンジョンで、一つのパーティが魔物と交戦を繰り広げていた。
五人の冒険者達と、
冒険者達は前に三人、後ろに二人と、陣形を作って戦っていた。
短い茶髪を生やした筋骨隆々の僧侶、ゴイールは巨大な杖を振り回しながら叫ぶ。
「ふん!
杖の向いた先にいるのは、長い金髪を揺らしながら、鋭い眼で敵を見据える女性。
武闘家ミスティンは、際どい巨大な胸を見せつけるような際どい格好をしながら、舞を踊るように蹴り込む。
「はぁ!
ゴイールの強化魔法を受けたミスティンは、渾身の一撃を闘牛に叩き込んだが、相手はびくともしない。
ミスティンはすぐに後ろに飛び退いて、ミノタウロスの攻撃をギリギリで避ける。
「チッ! 流石に固いわね! 魔法の方が効くのかも。クーディ!」
名前を呼ばれたのは後方にいる長い緑髪のしているエルフの青年。
彼は魔法使いだ。
「はいはい、しょうがないなぁ......。イハイト君! 頼むよ!」
クーディは渋々承諾すると、同じく後方にいる青年に細く小さい杖を向けた。
それに頷いたイハイトという青年。
黒髪黒目の精悍な顔立ちをした背の低い青年は錬金術師、そして荷物持ちだった。
――加えて彼は奴隷だった。
首に奴隷の紋様が刻まれており、契約によって主人の命令を逆らうと死ぬことになる。
1パーティ分の巨大な荷物を背負いながらも、汗一つかかずに涼しい顔をしているイハイトは杖無しで補助魔法を唱えた。
「
魔法を受けたクーディは少し鼻で笑い。闘牛に杖を向けながら呪文を唱える。
「ふっ......。我が疾風を食らうがいい!
杖から射出された嵐のような風の塊は高速で魔物に衝突し、闘牛は体を切り刻まれながらうめき声をあげる。
しかしまだ息は残っているようで、血眼になりながら自分が生きた爪痕を残そうと最後の力を振り絞って迫ってくる。
それを迎え撃つは、パーティの中心人物であり、リーダー。
短い黒髪を携えた美しい少女、ズキリアは腰の大剣を抜いて、駆ける。
「イハイトくん! お願い!」
荒れ狂う闘牛に向かっていく少女は軽やかな声を上げた。
それに合わせてイハイトは再び補助魔法を唱える。
「
すると、少女の持っていた剣は眩く輝く始めて......。
「――はぁぁぁぁ!」
圧倒的な剣の出力を以て、巨大な闘牛の角以外を跡形もなく消滅させてしまった。
そうして、S級の魔物。ミノタウロスを討伐したのは、この国で冒険者ならば名前を知らぬものはいない、国内最強S級パーティ『黒曜の翼』。
彼らは戦闘が終了するやいなや、すぐにダンジョンの奥地へと進んでいく。
クーディは闘牛の角を拾うと、イベルトのリュックに突っこんで、彼の背中を軽く叩いた。
「まっ。イハイト君は今回活躍できなかったけど、頑張ってればいつか、多少は報われる時が来るんじゃない?」
唇を尖らせながら、得意げな顔を浮かべているクーディ。
「あ、ありがとうございます。精進します」
それに対して、口の端を上げて嬉しそうにしているイハイト。
するとミスティンは豊満な胸を揺らしながら、エルフの青年を野次る。
「とか言って、アンタだってイハイトの補助魔法もらってたじゃん! 絶対ちょっとは効果あるんだから、感謝しなさいよッ!」
バチンッと、クーディの後頭部が叩かれ、彼はヒリヒリとした痛みから少量の涙を浮かべる。
「――っ! 確かにそうかもしれないけど叩くことはないだろぉ! 僕の大事な金髪が抜けちゃったらどうするんだ!」
そんな楽しげな会話にパーティ全員は笑いに包まれた。
◇◆◇
ダンジョンの途中で昼食を取ることになり、主にイハイトが調理から配膳まで行う。そうして、皆は一同に会してワイワイと楽しそうに食事を摂っていた。
「おぉ、食え食え。お前ひょろっちいんだから、もっと食べた方がいいぞ」
色んな野菜と肉類を水で煮る。これが冒険者の定番の食事だった。
ゴイールは太い腕を動かして、鍋からすくった食材をイハイトの皿に上乗せしていく。
「はい! 俺も一応筋トレとかしてるんですけど、栄養が魔力の方に吸われちゃって中々上手く行かなくて......。なので、もっと沢山食べます!」
そんな威勢の良い返事を聞いて、酷く嬉しそうな笑みを浮かべるゴイール。
「ハハハ! いっぱい食ってくれ! それに、俺だって若い頃はそんな悩みがあったもんだ! でもまぁ、気にするな。お前はよくやってくれているよ。ちゃんと荷物も持ってくれているし、曲がりなりにも補助魔法が使える。時間はかなりかかっているが、ダンジョンのトラップが見破れる、錬金術で多少の物は作れる、それでいいじゃねぇか」
豪快に笑うゴイール。そしてイハイトはそれを聞いて意気込むように言った。
「は、はい! でも俺、もっと皆さんの役に立ちたくて......! 」
「あぁ。無理はせず、ほどほどに頑張れよ!」
そう言うと、皿を持って他のパーティメンバーの元に歩いていくゴイール。
そうして一人で飯を食べているイハイトに、耳元で少女が囁く。
「イハイトくん。お疲れ様」
「ズキリアさん......」
少し顔を赤らめたイハイト。それを嬉しく思うように微笑むズキリア。
彼女は隣に座ると、優しく表情で青年の瞳を覗き込んだ。
「私、イハイトさんが頑張ってるの知ってますから。例え戦闘で活躍できなかったとしても、私だけは絶対味方ですからね」
そんな発言に、イハイトは少し返答しづらそうにしながら、なんとか言葉を紡いでいく。
「え......? あ、は、はい......。それは、ありがたいですね」
すると、ズキリアは口をもごもごと震わせて、小恥ずかしそうに口を開く。
「それに私、イハイトさんみたいな泥臭く努力してる人が、す......。す......」
青年は目を見開いて頬を赤く染め、その続きの言葉を待っていたが......。
「――やっぱりなんでもありません! ご、ご、ご飯のお邪魔してごめんなさい! それじゃあね!」
そう言って、ズキリアさんは逃げるように去っていってしまった。
俺は少し残念に思いながらも、息をつく。
首にかけてある、スファレライトという宝石のネックレスを手に取って見やる。
このパーティは皆、良い人達ばかりだ。
俺の生まれはスラムだった。
その国は酷く人間差別が酷く、ただ人間族だというだけで獣人や亜人に虐げられ、俺は奴隷として一生を過ごすことを幼少期から覚悟していた。
しかし、このパーティは奴隷の俺を買ってくれた。
奴隷ということもあり、総魔力量の十分の一の魔力しか使えない、という縛りを始めとして様々な制約があったが、パーティの皆は俺に良くしてくれている。
皆は俺を奴隷どころか、対等な人間として扱ってくれて、給料もくれている。
少しばかり誤解をしている所もあるみたいだったが、皆の温かい優しさの前では些細な誤解なんてどうでもよかった。
それ以上に、俺を迎えてくれる居場所がある。
そんなたった一つの事実が、どれだけ俺の支えになっていることか。
加えて、ズキリアさんは俺の中で特別な存在になっていた。
彼女は首にある奴隷の紋様、それを覆い隠すように宝石のネックレスをくれた。
宝石が放つ黄金色の輝きが、俺が奴隷であることを忘れさせてくれるようで......。
少し離れたところで楽しそうに談笑している彼らを見ながら、温かなスープをすすった。
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