2-9

舞台のセットは王宮みたいな作りで、三人がいる。座っている二人は、服装から見ると、多分王と王妃、そして、立っている方は、楽器を持っている、恐らく、昔のハイネじゃろう。


ハイネが構えると、曲が始まり、歌い始めた。


歌の内容は、主に王の功績を称える物である。

昔々、ベルトゥルフ王国はまだ小さな国でした、周りは瘴気フリッラントによって発生している魔物が跋扈している。


その現状を変えたい王は、幼馴染である王妃とその姉、そして、自分の弟と一緒に、瘴気フリッラントを封印する旅を始めた。


途中で出会いがあって、対立があって、仲間の犠牲もあった。

そして、国がどんどん発展し、今とほぼ変わらない規模になり、魔物との戦争も最終局面になった。


「素晴らしい、なんと素晴らしい歌だ!」


歌が終わると、王様が大喜びしている。


「陛下に御満悦になると、詩人としての光栄です」


ハイネは深く礼をした。


「大臣よ、この方に褒美を」

「御意」


幕の後ろから大臣の装いをした役者が現れて、小道具の金貨をハイネに渡し。ハイネが再び礼をした後、大臣と共に退場した。


「これで、式典の準備が全て整ったな」


残り二人になると、王は嬉しそうに机の上に置いていた紙を取り、ハイネの名前を書いた。


「ウルガー、この御時勢でこんな事をして、少々不謹慎と思いますか」

「何を言っている、エルーシア、前線から朗報が伝えている、戦争は間もなく終息する。その後、民に必要な物は何だ?娯楽だ、先に担当者を見つかった方が、手間を省くだろう?」

「そうですね、早く戦争が終わればいいね」


話が終わると、二人が遠くを見る、終戦を期待している。


突然、ステージのライトが消え、赤いスポットライトが点灯し、その焦点にいるのは、黒いロープを着て、顔は鬼の形相の面を被って、明らかに悪役な人。


観衆も罵声を上げ、相当嫌われる人物みたい。


まぁ、それもそうじゃ、この国を一時支配した魔王だからな。

魔王と王様は戦闘に入り、数剣交わした後、魔王は王様の首を刎ねられた。


「ひぃ、芝居と分かるけど、本当に首が刎ねられたみたいに怖い」


血は出ないのはまだましじゃぞ、お主、歌劇だけと過激じゃないからな。


まぁ、くだらないダジャレはさて置き。さっきのあれは簡単なトリックじゃ、黒くなった時、王様の役者が事前に用意した偽の頭を被った。そして、剣が当たるタイミングにあわせて、自分の頭を服装の中に縮むだけ、まぁ、簡単とは言え、実現するには何回の練習が必要けどな。


王を殺した後、魔王は逃がした王妃を追い、今度は王子と共に始末しようか、王妃は既に幼い王子を逃がした。


怒りに満ちた魔王は剣で、王妃の体を貫いた。

ここで幕が下ろした、次開けた時、場面が変わった。

セットから見ると今度はハイネとその妻の住処らしい。


「まさかウルガー王が…あなた、これからどうする?」


国王の死はハイネが住む村まで伝われてきた。


「どうするって、今こそ詩人の力を使う時、みんなと力を合わせば、きっと…」


ハイネは拳を握り締める。


「駄目よ、風のたよりでは、規制がどんどん厳しくなっている、反抗の意思を持っている人はもう何処にもいないよ、あなた一人で何か出来る?」


「確かにそうかもしれない、でも歌はまだ禁止されていない、私の歌なら、きっとみんなに勇気を…」

「勅令!勅令!」


呼びかけを聞いた二人は外に出た。

家の外、馬を乗っている、ちょび髭を生やした、いかにも偉そうな小物みたいな人がいた。

ハイネとその妻以外にも、他の村人も集まった。


「皇帝陛下の御命令でございます、明日から、人心を激励する歌や曲を禁止する、詩人の操業を続けたい人は、」


役員は袋から、一冊、黒い本を取り出した。


「このヒンメルゲディヒト地獄詩を歌いましょう」

「ヒンメルゲディヒト?あれは人を呪う歌じゃねぇか!」

「それだけじゃねぇ、一度口にした人は、体はどんどん人離れな姿になる噂も」

「うるせぇ!うるせぇ!お前ら、これは皇帝陛下の御命令だ!従わない人、明日以降、見かけたら、即処刑だ!」


ハイネと一部の同業者は仕方なくヒンメルゲディヒトを受け取り、役人が去った後、ハイネたちは家に戻った。


「ねぇ、ねぇ、どうするの?あなた?もしあなたがウルガー王の御用詩人である事がばれたら、例えこんな仕事を辞めでも、絶対殺されるよ!」

「分かっている!」


ハイネはさっき貰ったヒンメルゲディヒトを地面に投げる。


「分かっている、でも、闇に落ちるでも嫌だ…きっと、何か手があるはずだ」


ハイネは頭を抱えて考えている。


「そうだ、昔の伝承では……」


その言葉を発した後、ハイネは狂ったように机上の楽譜を荒らす。


「これなら」


一つの楽譜を手に持ち、ハイネは意思を固めた。


「ごめん、愛する妻よ、私は、闇に身を投げます、それはみんなの為、そして君の為だ。だけど覚えて欲しい、例えどんな邪悪の歌を歌でも、私の心は決して、汚れない事を」


そしてまた歌が始める、今度の歌詞は、ハイネの妻への思いを込めた物。


それから年月が経ち、今度ハイネは、とある男女と対峙している、舞台のセットは森の模様。


「待ってください、そこのお嬢さん、その危険の矢をしまえ、私はただ、王子様の仲間になりたいだけです」


ハイネは両手を上げ、攻撃の意思がないのを表明したまま二人に近づく。


「これ以上近づくな!」


しかし、弓を構っている女の子は言われたとおりに動きなかった。


「どうした?アルヴァ、相手は悪人には見えないか?」


隣にいる、石剣を持っている男は彼女に質問した。


「王子様は知らないかもしれないか、私には通用しないよ、今この国には、善良な詩人なんでありませんよ!」

「ある、っと言ったら?」

「貴様、手に持っているのはヒンメルゲディヒトでしょう?まだ誤魔化すつもり?」


アルヴァの矢先はハイネが持っている本を指す。


フォーゲルショイヒェ案山子の歌、という物は聞いた事あります?」


フォーゲルショイヒェの歌、またの名は身代わりの歌、歌った人に寄生し、その人は受ける代償を変わりに負担する歌じゃ。


「そう、善意の歌を歌続けると、直に消えるか、悪意を受け続けると、徐々に成長する、そして、これが」


ハイネを身に着けるマントを外し、上半身をさらした。


心臓から、畸形な蛆のような猟奇的な生き物が、ハイネの胸から腹まで巻く。意思があるかとうかは分からないが、脈を打つたびにうねうね動く姿はある種生命がある象徴じゃ。


しかし、道具とは言え、いい出来じゃな、本物みたいに気持ち悪いじゃ。


「今こいつの姿だ」

「これは……酷い」


あまりにも悲惨な物を目に当たって、アルヴァは思わず弓を下ろした。


「皮肉だが、私はこの醜い生物のお蔭で、正気を保った。しかし、二人にもご覧の通り、こいつはそろそろ限界だ」

「限界?限界を超えたら、どうなる?」


王子は唾を飲み込む、ハイネに訊く。


「私は死にます、それだけではなく、今までこいつを育った呪いも一気に爆発する。でも安心してください、いざそうなると、私は敵に特攻しますから」

「王子様、どうする?」

「この人を仲間にしましょう、命賭けで訴えている人間は、信用できるはず」

「ありがとうございます」


こうして、ハイネは王子一行の仲間になり、歌でみんなをサポートする。


各重要な戦いも、ハイネの応援の歌と言う面目で、すんなりとオペラ形式で演じる、そして、物語の結末は勿論、見事に魔王を倒して、ハッピーエンドじゃ。


劇が終わり、ナスターシャとソフィアは劇場正面入り口前のベンチに座っている。


「いい劇だね、お姉さま」


しかしソフィアは若干不愉快なようじゃ。


「あれ、どうしたの?」

「何でクラウスナーが活躍するシーンはあんなに少ないの?おかしいですわ!きっと何かの間違いですわ!」


まぁ、主役はハイネじゃからな、何なら一番苦労したはずの王子さんもあまり印象的なシーンがないぞ。


「お姉さま、落ち着け、それは仕方がないよ。歴史という物は、所詮書いた人が勝ちみたいの物よ」

「あら、そうかしら、じゃ、わたくしもお金を出して、クラウスナーが大活躍するバージョンを作ろうかな」

「いや、そういう問題じゃねぇ!それに、お姉さま、何か大事な事を忘れていない?」

「ハイネ様の事でしょう?忘れていないよ、さっきからずっと劇場から出る人を見張っているわ。でも、おかしいですわね、今日の公演は全て終わったはずなのに、何でハイネ様はまだ出てこないだろう」


全ての劇が終わったので、二人は誰でも必ず通るこの道でハイネを探したいが、どうやらうまくいけなかったようじゃ。


「そもそもハイネさんでどんな特徴?お姉さまだけじゃ、見逃し可能性があるではないの?」

「そうね、じゃ、ナーシャちゃんも一緒に探して。えっと、その人は、いつも、菫色のドレスコートと、青黒と白のチェック入りのスカートを穿いて、頭には音符の飾りがある黒いキャスケットを被って、髪の毛長めの……」

「なるほど、若干スチームパンクとパンクを混ぜたファッションをしている女の人ですね」

「男ですよ」

「え?」


ソフィアの口から伝わった事実があまりにも衝撃的で、ナスターシャは唖然した。


「ハイネ様は男ですよ、まぁ、確かに女みたいな人だけとね」

「お姉さま、冗談うまいですね、そんな人有る訳ないじゃないか」


プーメランが刺さっているぞ。


「そんな人が実在したなら、一度この目で見たい……な……?」


ナスターシャはソフィアの後ろの何かを目撃して、驚きで口が塞がない。


「どうしたの?ナーシャちゃん?」

「う、う、うしろ、お姉さま、後ろ、本当にいった!」

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