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屋敷のとある小部屋、領事館時代では医療室で使われたみたいなので、ここはそのまま医療用品が沢山置いている部屋になる。今ミラはここで、ナスターシャの傷跡を確認しながら、ゼリー状の薬を塗っている。


「うん、多分これで大丈夫です」


ミラはナスターシャの手を離して、薬の蓋を閉める。


「ありがとう、ミラさん」

「ふふん、ナスターシャさまは面白いね、使用人の私に礼を言う何で」

「すみません、初対面の人は基本敬語なので」


会話しながら、ナスターシャは手足からどんどん消えていく傷跡を不思議そうに見つめる。


「へぇ~それなら、ナスターシャさまは意外とメイドの仕事に向いていますね」

「そんな事ないよ、僕どんくさいし、」


と言っている時、ミラは突然ナスターシャのスカートを剥いた。


「ふええ、いきなり何ですか?」

「すみません、服を直すためです、ブラウスも渡してください」

「あ、そうだった、でも、僕着替え持ってないよ」


ナスターシャはブラウスも剥く、それをミラに渡す。


「代わりの服でしたら、お嬢様は既に用意したので、ご心配要りません」


ミラは薬のビンを棚に戻し、隣にあるクローゼットを開き、何もない空間に手を突っ込み、しばらく何かを探している。


「はい、こちらになります」


服一式が、クローゼットの木板から生えるように出現した、ミラはそれをナスターシャに渡す。しかしナスターシャ、困惑しているまま、手を動かず。


「どうなされましたか?」

「あの、こういう服を着た事ないので、ちょっと分からない物が。例えば、これ、これは何ですか?」


ナスターシャはコルセットを持ち上げてミラに聞く。


まぁ、普段は寝間着と制服、後手軽で着れるワンピースしか着用しないので、このような華美なドレスは着慣れないのも仕方がないじゃ。


「それはコルセットです。着る方法がしらないでしたら、もしよければ、お手伝いますね」

「はい、お願いします」


ナスターシャは大人しくミラにドレスを着付けさせてもらった。


「はい、これで完成です」

「お?おお?」


白い三段フリルの黒いベルベットか絹みたいな材質のワンピース、フリルがたっぷり首から胸まで飾っている、胸元に大きな黒いリボンがあり、頭上には墨染めのミニハットを載せ、上には六本の白薔薇の造花が飾られている。


「凄く可愛い服だ」


ナスターシャは左右に動きながら、鏡中の自分を確認する。


「私もとても似合うと思います」

「でも、何故こんなにサイズがピッタリだろう?」

「さぁ?私が知っているのは、それはお嬢様子供の頃の服らしいよう。半年前、お嬢様がワグナーさんを命じて、大きな箱でこの屋敷に持ち込んだので、他にも沢山あるはず」

「ソフィアさんの?子供の服?くっ、つまり…」


ナスターシャは胸の部分を触り、胸の辺りのサイズは勿論、ピッタリだ。


「どうなされましたか?あそこはちょっときつ過ぎたでしょうか?」

「むしろ全然きつくないので、ちょっと自信が…、いや、なんでもないです」

「問題がないなら、お嬢様の指示では、ナスターシャさまはこの屋敷を歩き回っていいですが、その前にこれを持ってください」


ミラは何処かで見たことがあるランプをナスターシャに渡した。


「マリモくんだ!あれ、でもランプの形は前見た物と少し違うみたい」

「これはこちらからの指示も受けるタイプです、そして、ナスターシャさまが迷子にならないため、ナスターシャ様居場所もこちらに記録されます」

「要するに、ジーピーエスですね」

「じーぴーえす?魔法の呪文ですか?」


ミラは首をひねり、不可解な表情でナスターシャを見る。


「すみません、何でもないです。じゃ、僕は行きますね」

「いってらっしゃいませ、夕飯の時間になりましたら、また連絡します」


医療室を後にし、ナスターシャはこの広大な屋敷での冒険を始まった、と思ったが、数歩の旅だけで、彼女は足を止まった。


廊下の一面、七色に光るステンドグラス、その輝きは地面に映り、万華鏡のような虹の欠片を描く。しかし、この光景に惹かれたではなく、彼女はむしろガラスの上ゆっくり進んでいる、白いふさふさの毛玉の方に興味があるらしい。その毛玉は、ガラスの上にくっついて、S状の経路で移動している。ガラスの角に辿り着いたら、地面に飛び降りて、次のガラスを目指して移動する。


ナスターシャはその生物の進路を塞ぎ、そいつを持ち上げた。


「これは…ねこ?それでもアンゴラウサギ?」

「それは“ルンパ”です、ナスターシャさま」


いつの間にナスターシャの背後に立っているワグナーは、彼女の疑問を答えた。


「え?ルンパ?あの掃除用ロボット?」

「ロボット?それは何の事ですか?まぁ、掃除用ならあながち間違っていない、ルンパはゴミや塵を食べる生き物です。ですので、彼の仕事を邪魔しない方がいいと建言します。もしゆっくり見たいなら、待機室にいる方をお見せします」


ワグナーはルンパを取り、地面に戻した。


「ごめんなさい、見たことない生き物なので、つい。しかし、今のワグナーさんはやはり違和感があるな」

「と言いますと?」

「その喋り方だよ、いつもより丁寧だから、逆に慣れないな」

「そうか、分かりました。俺は融通が利かない男ではないので、お嬢様がいない場合は、普段の喋り方でもいいかぁ」

「あ、いつものワグナーさんだ」

「ルンパは初めて見た生き物?でも君は彼らの役割を知っているらしいが?」


ワグナーはナスターシャを案内して、ルンパの待機室へ向かった。


「それは、勘だよ、勘」


まぁ、流石に異世界の知識とか言えないよな。


「よーし、着いたぜ、ここがルンパたちのへやだ」


ワグナーは、キャットドアの着いた木製の扉を開けた。

部屋の中では、籠といくつの猫タワー置いている、あそこで遊んでいるルンパもいるし、籠で静かに寝ているルンパもいる。


「これ全部ルンパ?何匹あるだろう?」

「この屋敷の掃除は全部彼らに任せているので、計百匹がある」

「百匹!?でも、こんなに大勢の猫に掃除を任せたら、逆に毛だらけにならない?」

「ルンパの毛は年に一度しか落ちない、しかも必ず猫砂の上に脱毛するので、散らばらない、なので心配する必要がない」

「そうか」


ナスターシャは籠で休んでいるルンパを持ち上げる。


「しかし、本当に可愛いな、この生き物、うん?」


よく見たら、今彼女が持っているルンパの足は、包帯を巻いている。


「なるほど、それでミラは遅れたのか、まぁ、あいつらしいな」

「え?ワグナーさんはミラさんと知り合いですか?」

「あ、いや、それは友達から聞いた話だ。ここはもういいだろう?もし他の場所が見たいなら、俺が案内するから、早く付いてこい、置いていくぞ」

「ちょ、待って」


ナスターシャはルンパを優しく籠に戻り、走りながらワグナーの後を追う。


リビング、接客室、客室、書斎、展示ルーム、娯楽室、大浴場、大食堂。ワグナーはナスターシャを連れて色々な部屋を回す、時々彼女の質問を答え、そしてまた次の場所へ。


「くん、くん、何かいい匂いするよ」


大食堂で、ナスターシャは食べ物の香りに釣れて、長いテーブルの中央部分の後ろにある扉に近づく。


しかし、ワグナーは一足早く彼女を止まった。


「待った!あそこはキッチンだ、この屋敷のシェフはとっても神経質、えっと、聞いたことがある。だから、料理中は邪魔しない方がいいぜ」

「え、見るだけでも駄目ですか?」

「絶対にしない方がいい、包丁で脅された記憶が、いや、友人が話した記憶があります」

「包丁……、分かりました、我慢します」


しかしナスターシャの腹は抗議するように、でっかい音を鳴った。


「あ、すみません」


ワグナーは恥ずかしさで顔真赤なナスターシャを見て、少し考えているように見えた、そして何かを思いついたように、手をポンって叩く。


「何かを食べたいなら、確かお菓子くらい、貯蔵室にあったはずだぜ」

「本当ですか?ありがとう、ワグナーさん」


食堂の二つ隣の部屋、廊下の一番奥、ここはこの屋敷の貯蔵室。食料、ルンパの餌、服修繕用の布など、基本この屋敷に住む人が必要な物は大抵ここに置いている。今、ワグナーとナスターシャはここに足を踏める。


「何か、独特な香りがあるな、ここ」


部屋に入ったナスターシャ匂いに耐えず、鼻に皺を出るように息を止める。


「多分香辛料の匂いだろう、ここは何でもあるからな、お菓子、お菓子と」


ワグナーは匂いを構わず、奥へ進んでいて、お菓子を捜している。


しかし、強烈な匂いのせいで、ナスターシャはこの不審な事を気づかない。


「あった、はい、箱ごとあげるぜ。パンを沢山食べるから、これくらい余裕だな」


渡されるのは、この国でよくある庶民的なお菓子、貴族の屋敷にこんな物があるのは少し奇妙な話だ。


「これは、糖化円山蕨匱じゃないですか、しかも色んな味が楽しめる盛り合わせ箱だ!」


そなたたちのために説明しよう、糖化円山蕨匱とうかえんさんけつぎとは、丸状の山蕨餅を、水飴で箱状に包んだお菓子じゃ。最近では、水飴の代わりにショコラーデやヒンベーレのシロップなどを使った物もあるから、意外と味が豊富。この糖化円山蕨匱、確かナスターシャの好物のはず、前ちゃんと飯を食べない時はいつもこれを食べている。


箱ごと受け取ったナスターシャは早速開けって、ヒンベーレ味の方を口に突っ込んだ。


「ふふりはへぬふはふひひへほ(作りたてのほうが美味しいけど)、これも悪くないな」


食べながら喋るな!


ワグナーはこれを見て、何かを言い出そうだか、胸ポケットから赤い光が出だ。彼はそこに納めた懐中時計を取り出し、蓋中央の赤い点滅な光を見る。


「どうやらお嬢様がお呼びのようだ、俺行ってくるぜ。多分もうすぐで夕飯だから、お菓子はほどほどにな」

「はい、まははどへね(まだ後でね)」


いや、二枚目食べるな、忠告を聞け!


その後、ナスターシャは一人で屋敷の中にお菓子を食べながらふらふらして、まだ見ぬ場所を観覧する。


「ナスターシャちゃん、丁度良かった、こっち、こっち」


とある部屋の前に立っているソフィアはナスターシャを呼んだ。


ナスターシャと対照的に、ソフィアの服は白を基調としたドレス、胸元が大胆に開けて、フリルで囲む、あちこちで飾るリボンはどれも赤、ソフィアの髪色と同じ、スカートの部分は、コルセットのラインを沿ってフリルで上下分断しているデザインじゃ。


「おう、ソフィアさんの服もいいね」

「ありがとう、でもナスターシャちゃんこそ、とても似合いますわ、流石わたくしが選んだ服ね」

「ソフィアさんが?」

「ええ、まぁ、昔の服だから、サイズが合うとかは分からないけど」

「ビックリするくらいピッタリですけど」

「そ、そう?それは良かったわ。まぁ、服の話はさて置き、そろそろ晩餐の時間だから連絡しようと思ったら、偶然ナスターシャちゃんと出会ってよかったわ、一緒に行きましょう」

「うん」

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