第7話 異世界の成り立ちについて

「それで?何か聞きたいことあるんでしょ?」


 イザベラの言葉に頷いて俺は口を開く。


「何故魔法のことを王様やターナーに黙っていてくれたんですか?」


 俺は単刀直入に聞く。「魔法」の部分は周囲を意識して声量を落とした。


 イザベラは俺の顔を無遠慮にジロジロ見てくる。俺は少し居心地が悪くなる。


「ふぅん…どうも嘘をついてる感じじゃないねぇ…」


 イザベラは一つ頷くとそう呟く。


「君の問いに答える前に教えてもらいたいことがあるんだけど、君と、その彼女は、ベルトロス派なんだよね?」


 イザベラは先ほどまでの陽気な雰囲気からガラリと変わり今は真剣な表情だ。


「ベルトロス派っていうのは…?」


 確か昨日同じような言葉をイザベラが呟いていた。しかし俺には心当たりがない。無意識に未可子を見ると未可子も首を横に振っている。


「ベルトロス派を知らない…?…そんなことあるかな?私を騙そうとしてる?」


 イザベラは不安そうに俺と未可子の顔を見比べる。

 確かにイザベラからすれば俺と未可子は昨日少し会っただけの人間で信用できるかどうかわからない状態だ。

 そして昨日のターナーの様子から考えるとこの世界では「魔法」というのはどうもデリケートな話題らしいということは理解できていた。


「騙そうとはしていません。そこは信じてもらうしかありません。…というか、よく考えれば名乗ってすらいませんでしたよね。失礼しました。俺は鈴木悠介と言います。こっちは…」


「佐藤未可子です」


 そう。俺達はまだ互いに自己紹介もしていなかった。この状況でデリケートな話をしようとしても互いに牽制のしあいになってしまい話が進まない。


「ユウスケにミカコね。私はイザベラ。改めてよろしく」


 イザベラは少し表情を柔らかくして自己紹介をした。


「まずはこちらが持っている情報を渡すのが礼儀でした…実は俺達は違う世界から来ました」


 俺が言うと未可子が驚いたようにこちらを見てくる。

 確かにこのイザベラという女冒険者を信じて良いかはわからない。それでも今俺達には情報が必要だ。この国の王様を信用し切れない以上、目の前にいる女性を信用するしか俺達には手がないのだ。


「違う世界ねぇ…」


 イザベラは楽しそうに笑って俺と未可子の顔を見比べる。


「あまり驚かないんですね」


「そうだね。むしろしっくりきた。君らが着ていた変な服も、魔法が使えることも、違う世界から来たと言われればそんなもんかって感じかな。もちろん全部を信じたわけじゃないけどね」


 俺の言葉にイザベラは頷いてそう言うと酒を一口含む。


「違う世界から来たのは何故かな?」


「それは…俺達にもわかりません。ただ、どうやら元いた世界で何かの事故に遭って俺達は死んでしまったようです」


「…死んで…って。軽く言うねぇ君は」


 俺の言葉にイザベラは呆れた表情を浮かべる。


「俺にとっては大した問題じゃありませんでしたからね。元いた世界にさほど思い入れもないですし…」


 そう。理由は様々あるが、俺は元いた世界がそんなに良い物だと思っていなかった。


「そっか、まぁそこは深くは聞かないよ。それで、魔法が使えるようになった心当たりは?」


 イザベラは俺の言葉をさらっと流すと更に質問を重ねる。この感じが俺にとってはとても楽だ。


「元の世界からこの世界に来る前に変な老人と会いました。その老人の手下みたいな女の子に魔法の剣の使い方を教わったんです」


「私は火と氷の魔法を教わりました」


 俺の言葉に未可子が頷きながら続ける。


「老人ねぇ…名前は?」


「いえ…名前は。しかし自分の事を神だと言っていました」


「神って…いや。しかし実際君たちは魔法が使えるのか…まさかロンドベイル?…さすがにそれはないか…」


 イザベラは神と聞き鼻で笑うが、その後に何やらぶつぶつと呟き始める。


「それで?自称神に魔法を教えて貰ってからどうしたの?」


「その後すぐにこちらの世界に飛ばされ、魔獣に襲われて、どうにか倒したところにイザベラさん達が現れたんです」


「なるほどね…その話が本当ならば君達は本当にこの世界の事は何も知らないということになるね」


「はい。自分で言ってても信憑性の低い話だって事は自覚しています。それでも、イザベラさんには俺達を信じて貰うしかないんです」

 

 俺がそう言って頭を下げると、未可子も同じように頭を下げる。


「ふぅむ…どうしたものか…」


 イザベラは紫色の髪の毛をバサバサと手で纏めたり解いたりしている。


「…王様とターナーが魔法の力に取り憑かれてるからだよ」


 イザベラの言葉が俺には上手く理解できなかった。

 ぽかんとしている俺にイザベラが言葉を重ねる。


「何で王様とターナーに魔法の事を黙ってたのか知りたいんだろ?」


 イザベラがいたずらっぽく笑いながら言った言葉でやっと合点がいく。


 イザベラは俺の最初の問いに答えてくれたのだ。


「それじゃあ…」


「あぁ、君達のこと、信じるよ」


 イザベラは柔らかく笑った。

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