8.絶望前夜
「さ。着いたよ」
病院を出て、居住区とは反対の方向へ進んだ先に、土でできた巨大な壁が聳えていた。
「ここは……一番端っこか?」
「見たところ、何も無いですね」
付近には建物もなく、ただ何も無い空間が広がっている。地下帝国の端を示しているかのようだったが、まるで扉のような長方形の切込みが見える。
おそらく、横にある機械式のパネルを操作すれば開くのだろう。
「この先、過酷な試験が待っている。場合によれば……いや、死人が出ることもザラだ」
圭介たちは息を呑んだ。
「し、死人って……」
「僕らリーブズは常に死と隣り合わせだ。生ぬるい試験を生き延びて化け物共のエサになるより、地下に墓標でも立てられた方がマシだろう?」
白夜は覚悟を決めたように、大きく頷いた。続き、圭介も険しい表情を浮かべる。
夜鳥と寄辺は、不安そうに顔を見合わせた。
「これが最後の警告だ。さっきは盛り上がっていたみたいだけど、冷静に考え直してみるといいよ。今ならまだ引き返せる。居住区に残り、常に怯えながら日々を過ごすか。それとも入隊試験を突破し、リーブズとして命を燃やすか」
月霜は四人を一瞥すると、パネルに掌を翳した。
「月霜瑛人」
甲高い機械音が鳴り、土壁に人が一人通れるほどの長方形の穴が開いた。
月霜は迷うことなく穴へ向かい、体半分入った所で圭介たちへ振り返る。
「見本は見せた。じゃ、後は君たち次第。期待せずにのんびり待っているよ」
人を小馬鹿にする態度に圭介らが怒る暇もなく、月壁はすぐに閉まった。
数秒間の沈黙の後、最初に一歩を踏み出したのはこの男だ。
「白夜紳太郎」
白夜は月霜同様にパネルに手を翳すが、先程とは別の位置に穴が開いた。
しかし白夜は動揺することなく、真っ直ぐに穴へと歩を進める。
「紳さん、さっきと違う入口みたいですけど……大丈夫でしょうか……」
夜鳥の呼び掛けに、白夜が振り向くことはない。
「おそらく、ボクたちは分断される。どんな試験内容であれ、突破するのみだ」
そう言って、白夜は穴の奥に姿を消した。どんな思惑があるのかは知らないが、その瞳には覚悟が宿っていた。
「カッコつけやがって」
圭介も後に続き、パネルに手を置く。
「焔日圭介」
やはり穴は、二人とは違う場所に開いた。ただでさえ不安な状況の中、今から一人になってしまうのか。
……それでも、弱気ではいられない。美依を助けるまでは絶対に死ねない。目の前で誰かを失うのはもうたくさんだ、だから寄辺や夜鳥には居住区に残っていて欲しい……それに、気に食わないが白夜にも生き延びて欲しい。
進む。圭介は進む。この先に、何が待っていようとも。
「寄辺、夜鳥。またな」
穴の中へ一歩踏み出すと、地鳴りのような音を立てて土壁が閉まった。
と、同時に地面が揺れる感覚に襲われる。
「なっなんだ!?」
一寸の明かりも無く周囲の状況はわからないが、この感じを体が覚えている。
きっと、エレベーターだ。どういう原理か圭介にはわからないが、地上に向けて登っているような気がする。
やがて揺れが収まると、一つ、また一つと天井の明かりが灯った。
圭介は眩しさから腕を目の傘にした。細く閉じた瞼の隙間から見えてきたのは、四人の少年少女の姿だった。
「これで五人。やっと揃ったねー!」
「はあもうマジで。待ちくたびれて死にそうだっつの」
彼らは圭介を見るなり、口々に話し始める。
「ホンマ長かったわー。ジブン、あと一分でも遅かったらドツイとったで」
「まーまー。こうして集まったんだからいいじゃん! あーっやっと戦える……ドキドキする〜!」
「うげ、戦闘狂かよ。キモいなお前」
「あー、酷いこと言った! そんなことばっか言ってたら、最初に殺しちゃうよ?」
「はっ。やってみろよイカレ女」
「なんなんだよコイツらは……」
殺伐とした空気から目を背けるように、圭介は冷静に分析を始める。
入隊試験は、五人で行われるようだ。五人チームか、はたまた全員敵同士か……。どちらにせよ、相手を知っておくことは大切だ。
まずは、ポジティブな感情を全面に出しながら、どこか狂気を孕んでいる少女。
無防備にはしゃいでいるように見えて、常に視線を動かしている。いつでも臨戦態勢ってことか。
次に、少女と言い合いをしていた気怠げな男。
少女とはうってかわって、警戒心がむき出しだ。例えるならば、白夜に似た感じ。
そして、壁を背にして寝ている優男……と、関西弁の坊主男。
坊主男はおもむろに手を叩く。
「はいはい注目や注目ー。全員集まったっちゅーことやし。試験内容はさっぱりやけど、とりあえず自己紹介でもしていきまひょか? 年齢とかこの際どーでもええやさかい、名前と隊歴だけで頼むわ」
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