6.目覚

「――! ぇ! どうして……! 私は、こんな結末を望んでいた訳じゃない!」


 ――声が聞こえる。

 ソプラノがかった女性の声だ。意識は霞んでおり、圭介がいくら耳を傾けても上手く聞き取ることができない。


 ここはどこなんだ。目の前には焼け焦げてあちこちから煙が立ち上る街並み。


 そして、額に月の紋様が浮かんだ不思議な女性。


 圭介は必死に声を絞り出そうとするも、何故だか声を出すことすらできない。


「全部……思い出したよ。私は――――――。気づいちゃった……。また、今回も……」


 女性は髪を乱し、涙を浮かべながら何を言っているのか理解はできないが、様々な感情だけが圭介の中に流れ込んでくる。


 憤り。悲しみ。快さ。そして、この女性が誰なのか。


 俺は――――どうして涙が止まらないんだろう。


 すると女性の背後から、漆黒の長い腕が圭介の顔に向かって伸びていく。


『はは、ここでゲームオーバーだ』


「あああああああああっ!」


 視界が暗転していく。


 気づけば圭介は額にじんわりと汗を浮かべ、白い天井を見上げていた。


 彼を手にかけようとしていたフライングヒューマノイドらしき怪物の姿はなく、先程の女性の姿もない。


 代わりに、くるくる頭の内気そうな男の子と頭にバンダナを巻いた女の子が圭介を覗いていた。


「だ、大丈夫……? 焔日くん」


「お目覚めですか、焔日さん」


「寄辺……夜鳥……?」


 二人とも患者服を着ている。圭介が視線を落とすと、自分も同じ物を着せられていることに気がついた。


 ――そうか、ここは病院。俺は――――。


 学校での記憶が蘇る。一瞬にして地獄と化した教室。絶望に打ちひしがれるみんなの顔。そして、美依。


「くそっ!」


 圭介は起き上がろうと腕に力を入れたが、脇腹に激痛を覚えて再びベッドに倒れ込んだ。


 寄辺、夜鳥の二人も慌てて圭介を支える。


「だ、ダメだよ焔日くん! まだ安静にしてなくちゃ!」


「そうですよ焔日さん。動くと体に毒ですよ」


「離せお前ら! 一刻も早く美依を助けに行かねえと!」


「馬鹿が。今の状態でどうするつもりだ」


 カラカラと音を立ててカーテンが開いたかと思えば、隣のベッドからはいけ好かない眼鏡が圭介を睨んでいた。


「白夜……!」


 言われなくても、頭では理解している。しかし、心は逸るばかりだ。


 白夜の正論に、圭介はただ唸っている。


「落ち着いてください焔日さん。姫園さんを助けたい気持ちは光たちも同じなんです。でも、今はちゃんと休息を取るべきです」


「そ、そうだよ焔日くん。君は僕らと違ってかなりの重症だし……」


 美依を助けたい。しかし今のままではどうすることもできない。何度殴っても、椅子を叩きつけてもビクともしなかった化け物だ。


 それに、切り伏せられてもすぐに回復して美依を連れ去った。


 今のままでは無理だとわかっているからこそ、もどかしい。


「……そうだな、お前らの言う通りだ」


 悪い、美依。ちょっと待たせちまうけど、絶対に救い出すから待っていてくれ。全部終わったら一緒に桜を見よう。恨みも文句もそん時聞くからよ。


 ――――なんて心に誓い、圭介は深くため息をついた。


 その時、病室の扉がカラカラと開いた。


「あらぁん? みんなお目覚めみたいねぇん」


 白衣の姿に包まれた豊潤なメロンが――いや、はち切れそうなナース服を着た女性と、月霜が病室に入ってきた。


 月霜は白夜のベッドの横にある丸椅子に腰掛け、女性は圭介ら四人を舐めるように見ると、妖艶さが混じった唇に人差し指を当てる。


「元気なのは良いケド、病院ではお・し・ず・か・に。ねえん」


 ちゅ、と投げキッスを飛ばす女性。ベッドから降りていた白夜は訝しみ、一歩後ずさる。


「なんだコイツは……新手の化け物か?」


「や、やめなよ白夜くん……」


 こそこそと言葉を交わす白夜と寄辺。そんな二人を他所に、女性は続ける。


「アタシは双海ふたみメイ。みんな気軽に、メイちゃんって呼んでねぇん。そしてこのコは」


「月霜瑛人。今日から君たちの上司」

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