第6話 レベリング
俺たちは気を取り直して、中級ダンジョンへ向かう。
初級ダンジョンは出入り自由だが、中級からは特に危険が大きいため、誰でも自由に入れるわけではない。ギルドに所属する冒険者以外には開放されておらず、国で管理をするのが一般的らしい。
中級のミルダンジョンにも国から配備された兵士が入り口に立っていた。
なぜかこっちをチラチラ見ている気がするが。
俺たちが入り口に近寄ると、さらに兵士たちがこちらに注目しだす。
いったいなんなんだ……?
そのうちの一人が驚いた表情でロイスに話しかけてきた。
「やはり……閣下!? こんなところで一体何を?」
ロイスは少し気まずそうな顔をしながら答えた。
「……少しこのダンジョンに用があってな」
閣下?
俺は首をかしげ、ロイスに尋ねる。
「……ロイス、知り合いか?」
一瞬、兵士が俺の事をすごく驚いた表情で見た気がした。
「ああ、ちょっとな……」
あまり歯切れの良い回答ではなかったが、この場で再び聞くような真似はしなかった。
ここでは喋り難いことなのだろうと判断した俺は、ダンジョンへとみんなを促す。
全員で中へ入り、周りに俺たち以外に人がいないことを確認してから聞いてみる。
「ロイス、閣下というのは……?」
率直に聞いてみる。閣下もそうだが、許可がいるらしい中級ダンジョンを結果として顔パスで入ってしまったのだから。
どうせ聞かれると思っていたのだろう。頬をポリポリ掻きながらロイスが話し出す。
「実は……俺はこの国で騎士団長をしている。あの兵士は帝都で俺を見たことがあったのだろうよ」
騎士団長……。
おそらく国の重鎮とも呼べる役職だろう。俺がどういったリアクションを取るか判断を決めかねていると、ロイスがさらに続ける。
「そこにいるライカだが普段は姫様付きの近衛隊長だ。そして後ろのおっさんは前の騎士団長だ」
俺がライカの方を見ると彼女は黙って左手を少し上げた。
おっさんのほうは元騎士団長か、それにしてもロイスにもおっさんって呼ばれてるのか……。
「おい、誰がおっさんじゃ。全く近頃の若いやつは……」
おっさんがお決まりの文句を言うがみんな聞こえない振りをした。
理由はわからないが、どうやらこの国の実力者が勢揃いしているみたいだ。
俺は、視線をローブの彼女に送る。
たしか……エリザと言ったか。
あと、出自がはっきりしていないのは彼女だけだが……。
「……じゃあ、行くか」
ロイスが続けて説明してくれるだろうと思っていた俺だったが、どうやらその気はないらしい……。
何か話せない理由でもあるのだろうか?
まあそれなら勝手に推理させてもらおう。
俺はライカが、姫様付きの近衛隊長と聞いてもしや、エリザはこの国の姫なんじゃ……? と考えたが、すぐにその考えを打ち消す。
どう見ても三人とも、姫に対する態度ではない気がする。なんか妙によそよそしい気もするし、エリザも臣下に対して敬語を使っていることになる。そもそもあまり会話もないみたいだ。
ふむ……。
これ以上考えてもわかるとは思えないな。
俺は考えるのをやめ、頭をダンジョンの方へ切り替える。
俺たちは入り口付近の魔法陣に移動した。
ダンジョンは基本的に、十階層ごとに魔法陣があり、行ったことのある階層であれば魔法陣を使って一瞬で移動できる。つまりこれから俺たちは魔法陣に乗り四十階層へ移動することになる。
俺は不本意だけどな。
いまさらもう少し浅い階層の方がいいとはとても言えない。
魔法陣に乗ると先程のエリザの転移魔法の様に、なんの感慨もなくあっさり四十階層へたどりついた。
あきらかに俺のレベルで来る階層ではないが、ここまで来たらやるしかない。
俺はあらかじめ考えていたセリフを全員の前で言う。
「……とりあえず、お前達の実力と連携の練度が見たい」
戦闘を見てみないことには正直参加しにくい、それが俺の正直な気持ちだ。
それに対してロイスが答える。
「……たしかにな、一度見てもらった方がカイトも参加しやすいだろう……わかった。最初は見ててくれ」
「まあ、万が一お前らが危なくなったら俺も手を出すがな」
俺はそう言って、ニヤリと笑う。
怖気づいていると勘違いされるのもマズイのであえて格上を装うことを忘れない。
「期待してるよ」
ロイスもニヤリとする。
ほどなく最初の魔物と戦闘になる。
もちろん俺は見学だ。
四十五階層まで行ったというロイスの言葉に嘘はなかったらしく、特に苦戦することもなく四十階層の魔物を倒して見せた。
「どうだったよ? 俺たちの戦いぶりは」
ロイスに早速感想を求められる。
他のメンバーも俺がなんと言うか興味があるらしく全員に注目される。
先程の戦いがどんな内容に終わろうが、次に言うセリフは決めてあった。
「そうだな、俺の個人的な意見だが――」
ここから俺のレべリング作戦がスタートする。
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