第50話:死して尚鬼となる。


 ドゴンッッ!


 鬼が振るった拳は、大気すら破砕して俺を襲った。反転領域を展開していなければそのまま死んでいただろう。ことフィジカルにおいて相手は俺の数段上を行っている。


「命を誓約とした死後の鬼化!」


 さっきのプレッシャーの原理と本質的には変わらない。だがそれによって今のスターバーは驚異的とも言える鬼へと変質している。まだ倍六九バロックの時間は続いている。であれば、その時間内であれば、俺に負けはないのだが。


「カメハメハ」


 周囲の物質を反物質化して、それをランチャーにセット。砲撃として鬼を焼く。スターバーはそれすらも耐えてのけた。


「ふむ」


 俺の思考も止まらない。だがそれより先に鬼が剛腕を振るう。


「射ぁ!」


 その拳を受け止める。俺の側にも反転呪術は適応されている。物理現象ならば、反射できる。ただしそれは物理現象に限る。拳に乗ったホロウボースまでは反転できない。正確には出来るが、物理現象とは違って、そこには呪術と呪術の押し合いが発生する。


「さて」


 拳で吹っ飛ばされて、その勢いに流れたまま、俺は自らの腕を修復する。時間の流れそのものを反転させることで傷付いた結果を無かったことにしたのだ。


「餓ァァァァァ!」


 それこそ怪物の如き本能で襲ってくる鬼。死を原因として呪力の制限解除。このままだと俺でも祓うのは難しい。だが手段が無いわけじゃない。


「カメハメハ」


 轟ッッッ! と高熱が走る。それが鬼を焼いて、悲鳴が轟く。あと何発それを当てれば蒸発するのか。すでに核兵器にも匹敵する熱量を当てている。それでも鬼が消し飛ばないというのは、ある意味で凄く驚異的だ。


「うーむ。手強い」


 破城追を叩きつけられる城門がこんな気分か。そう思わせる拳が俺を襲い。そしてそのまま吹っ飛ばす。いわゆるホロウボースが乗ったフィジカルはそれだけで呪いと化す。某有名マンガ。少年跳躍の武術開戦のように呪力でフィジカルは強化できないが、ホロウボースを乗せて武闘を行うと、その拳や蹴りは呪いという形をとる。単純に自然現象の範囲から逸脱すると言ってもいい。つまり「殴るという呪術」になるわけだ。


「がッッ」


 受けようにも速度が大きすぎて、防ぐのが精いっぱい。そのまま吹っ飛ばされて民家の壁にぶつかった。ケチャップになっていなかったのは、あくまで俺が抵抗しなかったから。相手が武術とも呼べない単純な拳の一撃をくらわせてきたので、俺は腕を持ち上げて頭部を防御。ついでに足をチョンと跳ねさせて小さくジャンプ。地面との摩擦を無くして、スターバーの拳の威力そのままに吹っ飛んだのだ。それでも威力からして民家の壁を壊してもおかしくない威力だったが、今の帝都は時間が止まっているので、俺の許可なく破壊は許されていない。そのまま壁にぶつかって呼気を逆流。呪術による回復に意識を集中しようとして、悪寒が襲い、そのまま空中を蹴る。タタンと宙を蹴って上空に逃れると、その俺が背にしていた民家の壁に破城追の如き鬼の拳が撃ち込まれていた。


「わお」


 俺に言えた義理じゃないが、戦慄してしまうね。


「さてそうすると……」


「ガァァァァァ!」


 さらに俺の思考を許さず。スターバーは、俺目掛けて跳躍した。


「急々如律令。天保テンポ


 その跳躍からの一撃を躱して、そのまま落下するしかないスターバー目掛けて、カメハメハを撃ちこむ。地上から撃ち込まれた熱波がスターバーを焼くが、それでも止まらない。


「グアァァ!」


 拳。蹴り。掴み。頭突き。それで俺が死んでいないのは既に偶然と言えるかもしれない。


「京八流無手活法……」


 相手がフィジカルで来るのなら、こっちの対処も相応に出来る。別段やらなくてもいいのだが、俺は真っ向から鬼を迎え撃った。


「ギャグァァァァァァ!」


 そもそも武術の心得があるのかも判じ難い一撃を、俺の一撃が迎え撃つ。


「……神封魔殺かんぷまさつ


 武術による祓い。俺の陰陽二兎インフィニットも強力な術式だが、最低限の武術も覚えておけと言われていた。京八流は、その師匠であるシャナから教わった武術で、日本最古の剣術流派だ。今の俺は刀を持っていないので、必然出来るのは無手活法に依存する。


 ミシメキィと鬼の拳が破砕され、その激痛を元に指が折れ、手首が軋み、肩まで破壊する。皮肉にも真っ直ぐ肩から拳に軸を通していたのが不幸だった。結果、カウンターで放った俺の神封魔殺かんぷまさつがそのままスターバーを破砕する。


「グルァァァァァ!」


 そもそも痛みを覚えていないのか。あるいは痛いがやせ我慢をしているのか。逆の手で殴ってくるスターバー。それを逸らして軸回転。俺の回し蹴りがスターバーを打ちのめす。


「ガァ!」


 その蹴りをものともせず、スターバーは蹴りを加える。だが俺は蹴りとは逆の足でスターバーの蹴撃を踏みしめており、そのまま跳躍した。夢想願流における技術の一つだが、覚えていることに一応感謝している。相手の攻撃を踏んで、それを無力化する。


「さて、そろそろ殺るか」


 いい加減反転領域を維持するのにも疲れた。というか、スターバーのホロウボースが目に見えて減っている。己が命を誓約でホロウボースに変換。結果一時的に呪いをブーストする。その有用性そのものは俺も否定しない。だがそれによってただでさえ短い蝋燭に、火力を与えて寿命を減らすようなものだ。ソレで俺を殺せれば御の字なのだろうが、生憎とその程度で届くような鍛え方はしていない。


「じゃあな」


 梵我反転。それによってスターバーを呪う。


「ああ、君のことは一生呪うよ」


 呪う、というのは簡単だが、既に相手のホロウボースが尽きているが故に出来ることだ。そのままスターバーの心臓を反物質へと変換。そうして対消滅をうながして、彼の肉体から爆発を起こす。肉片が飛び散るとかそういう話ですらない。ただスターバーが終わった。それだけ。もちろん対消滅が起こったわけなので、都市一個くらいは軽く吹っ飛ぶ威力は出たが、そこは俺の反転領域内。爆発は全て上空に逃がした。さすがにあの規模の爆発を都市部で開放するのは俺が腐れ外道でも躊躇する。というかいくら時間を止めていると言っても、対消滅も俺の術式だ。別に放置してもいいのだが、これ以上梵我反転に維持を回したくない。というわけで、冬だというのに高熱を発しているバーングレイス帝国の帝都で、俺は温度を反転させていた。温度が上がるというプラスを温度が下がるというマイナスにするのだ。とはいえ一部だけな。そのまま対消滅の温度を全部反転させたら、極寒でも済まない冷気が襲う。


終焉死因ラストシーン……ね」


 この世を終わらせる破滅サークル、と言って正しいのかは知らないが。焼死のバーナー。今回は餓死のスターバーと圧死のプレッシャー。何か、俺以外でも呪術を用いている人間がいて、それをサークル内で広めている……ととっていいのか。そうすると最悪鬼とか呪術師と戦う必要に迫られるわけだが。俺がねぇ。


「君のことは一生呪うよ」


 その言葉だけで、相手が俺を呪っているのは聞いて取れた。別に「だから何」と言ってしまえば、それはそれだけの話だが、鬼が呪うと言ったなら、それは確かに呪うことになるのだ。そこに俺の意志は関係しないし、俺の懺悔も意味がない。それでもスターバーは俺を呪って、最後まで俺を恨んでいただろう。


 とはいえ、俺の側にも意見はある。リリスを殺した終焉死因ラストシーン。そのサークルに誅罰を下すのは人間としての必然。特に恨みがあるわけでもないが、終焉死因ラストシーンがいなければ、俺はもうちょっとリリスと会話が出来た。


「最後に人は何を思うのか」


 それを命題として、死者の遺志を想像すると、最後まで疲弊してしまう。俺にとって死とは単なる現象だが、そうとも思わない人間がいることも、また事実で。













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