第12話




 オフィーリアに連れられてやってきた劇場は、まるで王城の中かと思うほど豪華な作りをしていた。

 案内されたふかふかなソファーにオフィーリアと並んで座る。

 ソファーは二人掛けのソファーだった。

 目の前にはすり鉢状に並べられた椅子の数々が見て取れる。

 中央にある舞台で演劇がおこなわれるようだ。

 教科書では読んだことはあるが、実際に体験するのは初めてなのでどこかワクワクとした気分を抑えることができない。

 

「エレノアお姉さまったらすっごく緊張しています?」


 隣に座っているオフィーリアに私の早鐘を打つ鼓動が聞こえたのか、クスクスと笑いながら問いかけてきた。

 

「え、ええ。だって、初めてですもの。人がどんどん集まってきましたわ。」

 

 開演時間が近づくほどに人が集まってくる。余るのではないかと思うほど用意されていた椅子はすべて埋まってしまった。

 そうしてしばらくすると、照明が暗くなっていき、舞台にだけスポットライトが当てられた。

 浮かび上がる舞台俳優たちの姿。

 先ほどまでの客席のざわめきはどこにいったのか、誰もが固唾をのんで舞台の中央に視線を向ける。

 舞台の上では輝かんばかりの舞台俳優たちが伸び伸びと演技をし、場を盛り上げていく。

 

「どうですか?エレノアお姉さま。面白いでしょう?」


「ええ。ええ、とっても。」


 場面はクライマックスに差し掛かる。

 引き裂かれた恋人同士が苦難の果てに再会を果たすシーンだ。

 私は劇の中に引き込まれていった。

 まるで自分こそがその舞台の主役になったような気分だ。

 こんな経験は初めてのことで、心が躍りだしそうなほどだ。

 

「エレノアお姉さまが楽しそうで何よりですわ。」


 オフィーリアはそう言って私の腕に自分の腕を絡ませて抱き着いてくる。

 私はそんなオフィーリアのふわふわな髪をそっと撫でる。するとうっとりとしたオフィーリアが、私の肩に頭を預けた。

 

「オフィーリア、強引に連れ出してくれてありがとう。今までの人生の中で一番楽しかったわ。」


「エレノアお姉さまに喜んでもらえてよかったですわ。そうだわ。この後、楽屋に挨拶に行きましょう。私、懇意にしている役者がおりますの。」


「ええ。まあ、直接お会いすることができるの?それは是非行ってみたいわ。」


 そういうことになった。

 私は、オフィーリアと腕を組んで楽屋に向かう。

 

「ユリアお姉さま。本日もとっても素敵な舞台でしたわ。」


 そう言ってオフィーリアが声をかけたのは、主役の男性を演じた人だった。

 綺麗な人だとは思っていたけれど、実際に間近で会うと女性のような美しさだった。名前も女性的だけど。

 

「ああ。オフィーリア。見に来てくれたんだね。嬉しいよ。隣にいるのは、オフィーリアの愛しの君かな?」


「うふふ。まあ、そんなところですわ。」


 にこにこ笑いながらオフィーリアとユリアさんが話す。その話しぶりからして、ユリアさんとオフィーリアは初対面ではないようだ。

 それに友達同士のような気楽さも感じる。


「どうだったかな?私たちの舞台は?」


 ユリアさんはオフィーリアから私に視線を移すとそう尋ねてきた。

 舞台上での発声もとても魅力的だったが、実際に会話すると余計にユリアさんの声は魅力的に聞こえる。

 私は頬を上気させた。

 

「とても素敵でしたわ。観劇は初めてでしたが、現実世界とは思えない素敵な世界を体験させていただきました。」


 興奮する気持ちを抑えられずにユリアさんを見ながら、感想を述べるとユリアさんはにっこりと笑った。

 

「初めての観劇が私たちの舞台だったなんて光栄だ。ありがとう。」


 ユリアさんが右手を差し出してきたので私も同じように右手をユリアさんに差し出した。

 ほっそりとしながらも、男の人らしい筋肉質な手が私の手を握り固く握手をする。

 

「ユリアさんって男性ですか?」


 思わずそう尋ねてしまった。


「ぷっ。それ、面と向かって訊くかな?」


「もうっ。エレノアお姉さまったら。」


 ユリアさんもオフィーリアも肩を震わせながら笑う。

 そんなにおかしなことだったかしら?と思いながら首を傾げる。

 二人が笑っているのを見ると、次第になんだかおもしろくなってきてしまって私までクスクスと笑いだしてしまった。

 

 人生初めての観劇は、最高に楽しい思い出となった。


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