第16話 親友

「美味しいな!これ!」

 あまりの空腹に耐えきれず、僕はカイが出してくれたものをいただいていた。

 「……え?」

 カイが目を瞬かせる。 食べる手が止まらない。

 なんだこれは。食べたことがない、美味しい食べ物。

 そう言えばさっき、カイが何か言ってたっけ。

 とてつもない空腹、そして目の前にある美味しそうな食べ物に、思わず食べ物に手が伸びてしまっていた。

───そう言えば先ほどからカイが静かだ。

 はっとしてカイを見る。

 「……カイ?」

 俯いていて、顔は見えない。

 かすかに震えている。

「どうしたんだ!?カイも食べたかったのか!?」

 突然のことに、僕はドギマギする。

 もう、半分以上食べてしまった。

「……かないのかよ…」

 カイがぼそっと何か呟く。よく聞こえない。 

 「どうしたんだ…?」

 不安に思いながら俯いてしまった彼を見ていると、次の瞬間。

「引かないのかよ!」

 カイが、ガバっと顔を上げた。

 僕は目を瞠った。

 彼の目から、大粒の涙が溢れていたからだ。

「引かない?何にだ?」

 あまりにも突然のことに、僕は混乱する。

「こんなもの出されても、引かないのかよっ…!」

 そう言ったカイの目からはまだ涙が溢れている。

 その目は、僕がもう少しで完食する、カイがくれた美味しい食べ物に向けられていた。

「こんなものって……この美味しいもののことか!?」

 やっとその言葉の対象を理解して僕がそう言うと、カイは涙を拭いながら頷いた。

「引くわけないだろ!?むしろ大感謝だよ!こんなに美味しいものを食べられて、僕は幸せだ!」

 僕がそう言うと、カイは「無駄な心配した俺がバカだったよ」と笑い──


「やっぱ、お前は親友だ」


 僕に、抱きついてきた。

 あまりにも突然のことに顔から火が出そうだ。

 カイの言葉が僕の中で響き、波紋のように広がっていく。

─────親友!?親友って言ったか!?

 さっきの一瞬で、カイの中にどのような気持ちの変化があったのかは分からない。

 だが、なにはともあれ親友と言ってもらったことはとても嬉しかった。

 初めての友達が、親友になった。

 僕はカイを抱きしめ返した。

 本当に、幸せな気持ちだった。こんな気持ちになったのは初めてだ。



 その後は、時間を忘れてカイといろんなことを話した。

 僕たちの、過去のこと。

 学校でのこと。辛かったこと。

 僕たちには、思いのほか違うところが多かった。帰宅部の僕とは違い、カイはかつてサッカー部に入っていたそうだ。

 でも、同じところもあった。

 最近まで、僕たちには友達というものがいなかったのだ。

 辛かったことも、全部互いに打ち明けた。 

 “親友”のことをもっと深く知れて嬉しかった。

 カイと話すのは、本当に楽しかった。

 目的を忘れるほどに。

 

 時の流れはあまりにも早すぎた。

 今、夜の鐘が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る